58 / 73
連載
第99話 マルセル様との会話
しおりを挟む
カイが私の元へ現れたその翌日、お父様が病弱なお母様を連れて診療所へとやってきた。お母様はお父様から私の病気の事を聞かされたらしく、私を強く抱きしめてすすり泣いた。けれど流石に余命の事までは伝えられていなかったのか、母からは早く元気になってねと言われた。
その後…お母様の体調の事もあり、結局2時間ほど親子3人で応接室で話をした後、2人は馬車に乗って帰って行った。帰り際に、3日後迎えに来るよとお父様が私に言った―。
****
お父様とお母様が帰った後、私はケリーに支えられながら部屋へと戻ってきた。
「ふぅ…」
ベッドに横たわって、ため息を付くと私の洗濯物をしまっていたケリーが尋ねてきた。
「アゼリア様、お疲れですか?」
「ええ…そうね。ちょっと疲れたかしら?」
時計を見ると時刻は16時になるところだった。
「夕食まではまだ時間がありますから横になって休まれたらいかがですか?」
「ええ、そうね。眠くは無いけれども…このまま休んでいるわ」
「その方が良いと思います。では私は失礼しますね」
洗濯物をしまい終えたケリーは部屋を出て行った―。
****
コンコン…
コンコン…
「う…ん…」
ノックの音に目が覚めた。
「アゼリア様…眠っていらっしゃいますか…?」
いつの間に眠っていたのだろうか?部屋の外でケリーの遠慮がちな声が聞こえる。
「あ、ごめんなさい…。ケリー。入っていいわよ」
「はい、失礼致します…」
ケリーが扉を開けて部屋へ入ってきた。時計を見ると時刻は17時少し前である。
「ケリー、どうかしたの?」
「はい、実は…マルセル様がいらしているのですが…」
ケリーが言葉を濁しながら言う。
「まぁ、マルセル様が?勿論会うわ。昨日言えなかったお礼も伝えたいし…」
「そうですか…それは良かったです。では早速お呼びしますね?」
どこかケリーはホッとした様子で部屋を出ていくと、程なくしてノックの音と同時にマルセル様の声が聞こえた。
「アゼリア…今入っていいか?」
「はい、どうぞ」
するとカチャリと扉が開かれ、マルセル様が現れた。
「どうだ?身体の具合は?」
「はい、昨日よりは調子はいいです」
「そうか…それなら良かった」
マルセル様は傍らの椅子に座った。
「昨日はありがとうございました」
私が頭を下げるとマルセル様が首を傾げた。
「え…?何故お礼を?」
「はい。私の恩人…カイザード王太子様と会わせてくれた事へのお礼です。本当にありがとうございました」
「ああ…その事か…」
マルセル様は小さくため息を付くと私を見た。
「アゼリア…正直に答えて欲しい。ひょっとすると…アゼリアはカイザード王太子様の事を好きなんじゃないか?」
「え?そ、それは…」
言えない…。言えるはずが無かった。元婚約者のマルセル様に私はカイの事が好きだなんて…。思わず俯くとマルセル様が再び言った。
「俺の前だからといって遠慮する事は無い。もう俺とお前は…婚約は解消した仲なのだから…」
「マルセル様…」
マルセル様の姿を見ていると、本当の事を伝えたほうが良いのでは無いだろうかという気持ちになってきた。だから私は正直に自分の気持ちを伝えることにした。
「は、はい…私はカイザード王太子様の事が好きです…」
「そうか…。アゼリアの行方を探す為に俺の元へ現れた時…ひょっとするとカイザード王太子はアゼリアの事を好きなのではないかと思ったのだが…違うか?」
「!」
マルセル様は…カイの気持ちに気付いていたのだ…。
「は、はい。そうです…。私はカイザード王太子様に告白をされました。…例え僅かな時間だとしても、それでもいいから側にいたいと言われたのですが…お断りさせて頂きました…。貴方のことは好きでも何でも無いから無理だと…伝えました」
私が断った時…カイは真っ青な顔になって私を悲しげな目で見つめていた。その時の事を思い出すと今も胸が痛む。
「何故、断ったんだ?」
マルセル様が優しい声で尋ねてくる。
「そ、それは私の余命が残り僅かだからです。私はカイの事が好きだから…自分がこの世を去った後…悲しい思いをさせたくは無かったのです。だからお断りしたのです。カイには幸せになって貰いたかったから…」
絞り出すように言った。
「そうか…分かった。…今の話、聞こえていましたよね?カイ」
マルセル様は扉に向かって声を掛けた。
「え…?」
すると開け放たれたままの扉の陰からカイが現れた―。
その後…お母様の体調の事もあり、結局2時間ほど親子3人で応接室で話をした後、2人は馬車に乗って帰って行った。帰り際に、3日後迎えに来るよとお父様が私に言った―。
****
お父様とお母様が帰った後、私はケリーに支えられながら部屋へと戻ってきた。
「ふぅ…」
ベッドに横たわって、ため息を付くと私の洗濯物をしまっていたケリーが尋ねてきた。
「アゼリア様、お疲れですか?」
「ええ…そうね。ちょっと疲れたかしら?」
時計を見ると時刻は16時になるところだった。
「夕食まではまだ時間がありますから横になって休まれたらいかがですか?」
「ええ、そうね。眠くは無いけれども…このまま休んでいるわ」
「その方が良いと思います。では私は失礼しますね」
洗濯物をしまい終えたケリーは部屋を出て行った―。
****
コンコン…
コンコン…
「う…ん…」
ノックの音に目が覚めた。
「アゼリア様…眠っていらっしゃいますか…?」
いつの間に眠っていたのだろうか?部屋の外でケリーの遠慮がちな声が聞こえる。
「あ、ごめんなさい…。ケリー。入っていいわよ」
「はい、失礼致します…」
ケリーが扉を開けて部屋へ入ってきた。時計を見ると時刻は17時少し前である。
「ケリー、どうかしたの?」
「はい、実は…マルセル様がいらしているのですが…」
ケリーが言葉を濁しながら言う。
「まぁ、マルセル様が?勿論会うわ。昨日言えなかったお礼も伝えたいし…」
「そうですか…それは良かったです。では早速お呼びしますね?」
どこかケリーはホッとした様子で部屋を出ていくと、程なくしてノックの音と同時にマルセル様の声が聞こえた。
「アゼリア…今入っていいか?」
「はい、どうぞ」
するとカチャリと扉が開かれ、マルセル様が現れた。
「どうだ?身体の具合は?」
「はい、昨日よりは調子はいいです」
「そうか…それなら良かった」
マルセル様は傍らの椅子に座った。
「昨日はありがとうございました」
私が頭を下げるとマルセル様が首を傾げた。
「え…?何故お礼を?」
「はい。私の恩人…カイザード王太子様と会わせてくれた事へのお礼です。本当にありがとうございました」
「ああ…その事か…」
マルセル様は小さくため息を付くと私を見た。
「アゼリア…正直に答えて欲しい。ひょっとすると…アゼリアはカイザード王太子様の事を好きなんじゃないか?」
「え?そ、それは…」
言えない…。言えるはずが無かった。元婚約者のマルセル様に私はカイの事が好きだなんて…。思わず俯くとマルセル様が再び言った。
「俺の前だからといって遠慮する事は無い。もう俺とお前は…婚約は解消した仲なのだから…」
「マルセル様…」
マルセル様の姿を見ていると、本当の事を伝えたほうが良いのでは無いだろうかという気持ちになってきた。だから私は正直に自分の気持ちを伝えることにした。
「は、はい…私はカイザード王太子様の事が好きです…」
「そうか…。アゼリアの行方を探す為に俺の元へ現れた時…ひょっとするとカイザード王太子はアゼリアの事を好きなのではないかと思ったのだが…違うか?」
「!」
マルセル様は…カイの気持ちに気付いていたのだ…。
「は、はい。そうです…。私はカイザード王太子様に告白をされました。…例え僅かな時間だとしても、それでもいいから側にいたいと言われたのですが…お断りさせて頂きました…。貴方のことは好きでも何でも無いから無理だと…伝えました」
私が断った時…カイは真っ青な顔になって私を悲しげな目で見つめていた。その時の事を思い出すと今も胸が痛む。
「何故、断ったんだ?」
マルセル様が優しい声で尋ねてくる。
「そ、それは私の余命が残り僅かだからです。私はカイの事が好きだから…自分がこの世を去った後…悲しい思いをさせたくは無かったのです。だからお断りしたのです。カイには幸せになって貰いたかったから…」
絞り出すように言った。
「そうか…分かった。…今の話、聞こえていましたよね?カイ」
マルセル様は扉に向かって声を掛けた。
「え…?」
すると開け放たれたままの扉の陰からカイが現れた―。
82
お気に入りに追加
9,037
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。