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ケリー ③
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「マルセル様…」
一体いつからここに居たのだろう?
「ケリー…」
マルセル様は何かを訴えるように私を見ている。けれど、ここで今会話をすれば身体の弱っているアゼリア様に話を聞かれてしまうかもしれない。私は余計な負担をアゼリア様にかけたくは無かった。
「マルセル様、とりあえず…階下でお話しましょう。アゼリア様はこれからお休みになりますから」
「あ、ああ…分った…」
追及することなく頷いてくれたので、私はマルセル様と一緒にヨハン先生の待つ応接室へ戻ることにした―。
****
応接室ではヨハン先生が難しい顔で書類を見つめていた。
「ヨハン先生、戻りました」
声を掛けると、先生は顔を上げて私とマルセル様を交互に見ると尋ねてきた。
「それで?アゼリアの様子はどうだったんだい?」
「アゼリア様は…」
私が言いかけると、マルセル様が割って入ってきた。
「アゼリアは…泣いていた」
そしてドサリとソファに座った。
「マルセル様…まさか最初から話を聞かれていたのですか?!」
私もソファに座るとマルセル様に質問した。
「あ、ああ…どうしてもアゼリアの事が心配で…それですぐにケリーの後を追ったんだ。そうしたら扉が少しだけ開いていて、2人の会話が聞こえて来た。あの話は本当なのだろうか?その…アゼリアもカイザード王太子も互いの事を好きだと…」
「はい、そうです。恐らく間違いないと思います。カイザード王太子様は…身分を隠してフレーベル家で御者として働いてました。そこでアゼリア様に親切にして下さったそうで…ある日、アゼリア様の事で旦那様に意見を言った罪で…ムチで打たれた挙句に追い出されたそうです」
「何だってっ?!そ、そんな事が…あの屋敷で起こっていたのかっ?!だ、だが…」
驚くマルセル様は次に突然頭を下げて来た。
「すまない…ケリー」
「え?マルセル様…?」
何故謝って来るのだろう?理由が分らず途惑っているとマルセル様が言った。
「本当に立ち聞きするつもりは無かったんだ…。けれど、カイザード王太子が…アゼリアに好きだと告白したと言う話を耳にして、その場を離れられなくなってしまったんだ。それにしても…アゼリアもカイザード王太子様の事を好きだったなんて…。でもそう言う事情があれば2人が惹かれ合うのも必然か…。カイザード王太子はアゼリアを助けようと、自分の身を顧みる事もせずに罰を受けている。それなのに片や俺は…フレーベル家の一方的な話だけを信じ…アゼリアに辛く当たっていたのだから…」
マルセル様は落胆した様子でため息をついた。
「マルセル様…」
ヨハン先生が神妙な顔つきでマルセル様を見ている。
「ハハハ…でもアゼリアの言う事も尤もだよな。彼女の言う通り、俺は明確にアゼリアに好意を示した事も無かったし、話を聞こうともしなかった。本当に最低な婚約者だ。婚約破棄をして貰いたいと申し出るのも当然だ」
乾いた笑い声でマルセル様は言う。
「「…」」
私もヨハン先生も何と言葉を掛ければよいか分らなかった。すると不意にマルセル様は真顔になると言った。
「俺はアゼリアが好きだ…。しかしアゼリアはもう決して俺を受け入れてくれる事は無いだろう。だが…残り僅かな人生かも知れないが、アゼリアには幸せになって貰いたいと願っている」
「マルセル様…」
ヨハン先生がじっとマルセル様を見つめている。
「だから…ヨハン先生、ケリー。…協力してくれないか?」
「え?協力…?一体何のですか?」
首を傾げる私にマルセル様は言った。
「勿論、アゼリアとカイザード王太子を恋人同士にしてあげる事への協力だよ」
「マルセル様…本気ですか?仮にもアゼリアは…貴女の元婚約者だったのですよ?」
ヨハン先生が心配そうに言うが、マルセル様は首を振った。
「だからですよ。俺はアゼリアに罪滅ぼしがしたいんですよ。アゼリアの事が好きだから…。例え短い間だとしても、好きな相手と幸せになって貰いたいんだ」
マルセル様は今日初めて、笑みを浮かべた―。
一体いつからここに居たのだろう?
「ケリー…」
マルセル様は何かを訴えるように私を見ている。けれど、ここで今会話をすれば身体の弱っているアゼリア様に話を聞かれてしまうかもしれない。私は余計な負担をアゼリア様にかけたくは無かった。
「マルセル様、とりあえず…階下でお話しましょう。アゼリア様はこれからお休みになりますから」
「あ、ああ…分った…」
追及することなく頷いてくれたので、私はマルセル様と一緒にヨハン先生の待つ応接室へ戻ることにした―。
****
応接室ではヨハン先生が難しい顔で書類を見つめていた。
「ヨハン先生、戻りました」
声を掛けると、先生は顔を上げて私とマルセル様を交互に見ると尋ねてきた。
「それで?アゼリアの様子はどうだったんだい?」
「アゼリア様は…」
私が言いかけると、マルセル様が割って入ってきた。
「アゼリアは…泣いていた」
そしてドサリとソファに座った。
「マルセル様…まさか最初から話を聞かれていたのですか?!」
私もソファに座るとマルセル様に質問した。
「あ、ああ…どうしてもアゼリアの事が心配で…それですぐにケリーの後を追ったんだ。そうしたら扉が少しだけ開いていて、2人の会話が聞こえて来た。あの話は本当なのだろうか?その…アゼリアもカイザード王太子も互いの事を好きだと…」
「はい、そうです。恐らく間違いないと思います。カイザード王太子様は…身分を隠してフレーベル家で御者として働いてました。そこでアゼリア様に親切にして下さったそうで…ある日、アゼリア様の事で旦那様に意見を言った罪で…ムチで打たれた挙句に追い出されたそうです」
「何だってっ?!そ、そんな事が…あの屋敷で起こっていたのかっ?!だ、だが…」
驚くマルセル様は次に突然頭を下げて来た。
「すまない…ケリー」
「え?マルセル様…?」
何故謝って来るのだろう?理由が分らず途惑っているとマルセル様が言った。
「本当に立ち聞きするつもりは無かったんだ…。けれど、カイザード王太子が…アゼリアに好きだと告白したと言う話を耳にして、その場を離れられなくなってしまったんだ。それにしても…アゼリアもカイザード王太子様の事を好きだったなんて…。でもそう言う事情があれば2人が惹かれ合うのも必然か…。カイザード王太子はアゼリアを助けようと、自分の身を顧みる事もせずに罰を受けている。それなのに片や俺は…フレーベル家の一方的な話だけを信じ…アゼリアに辛く当たっていたのだから…」
マルセル様は落胆した様子でため息をついた。
「マルセル様…」
ヨハン先生が神妙な顔つきでマルセル様を見ている。
「ハハハ…でもアゼリアの言う事も尤もだよな。彼女の言う通り、俺は明確にアゼリアに好意を示した事も無かったし、話を聞こうともしなかった。本当に最低な婚約者だ。婚約破棄をして貰いたいと申し出るのも当然だ」
乾いた笑い声でマルセル様は言う。
「「…」」
私もヨハン先生も何と言葉を掛ければよいか分らなかった。すると不意にマルセル様は真顔になると言った。
「俺はアゼリアが好きだ…。しかしアゼリアはもう決して俺を受け入れてくれる事は無いだろう。だが…残り僅かな人生かも知れないが、アゼリアには幸せになって貰いたいと願っている」
「マルセル様…」
ヨハン先生がじっとマルセル様を見つめている。
「だから…ヨハン先生、ケリー。…協力してくれないか?」
「え?協力…?一体何のですか?」
首を傾げる私にマルセル様は言った。
「勿論、アゼリアとカイザード王太子を恋人同士にしてあげる事への協力だよ」
「マルセル様…本気ですか?仮にもアゼリアは…貴女の元婚約者だったのですよ?」
ヨハン先生が心配そうに言うが、マルセル様は首を振った。
「だからですよ。俺はアゼリアに罪滅ぼしがしたいんですよ。アゼリアの事が好きだから…。例え短い間だとしても、好きな相手と幸せになって貰いたいんだ」
マルセル様は今日初めて、笑みを浮かべた―。
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