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第98話 カイの告白
しおりを挟むえ…?私は自分の耳を疑った。カイは優しい笑みを浮かべて私をじっと見つめている。
「あ、あの…?今、何て…?」
私の聞き間違いだろうか…?
するとカイは私の手を大きな手で包み込むと言った。
「アゼリア、僕は君のことが好きだよ。多分初めて会った時から…。宝石のような緑色の瞳も、栗毛色の柔らかい髪も、そして…自分が雨に濡れるのも構わずに傘を差し出すような優しい人柄も…何もかも全部。アゼリアの事が好きだったから…あの屋敷で辛い目に遭わされているアゼリアをどうしても助けてあげたくてフレーベル家の当主に君を冷遇するのをやめて貰うように訴えに行ったんだよ」
「カ、カイ…」
私は信じられない気持ちでカイの告白を聞いていた。
「だけど…あそこまで彼等がわからずやだと思わなかったよ。まさか自分がムチで打たれて記憶を無くすとは思わなかったよ。実はね、記憶を取り戻したのは本当につい最近のことだったんだよ。だから…僕は2年もの間、苦しんでいるアゼリアを助け出すことが出来なかったんだ…」
カイが苦しそうに顔を歪めながら私に言った。
「え…?」
そんな…!カイは記憶喪失になっていたなんて…っ!
「ごめん、アゼリア。僕があの時、浅はかな行動を取ってしまったばかりにこんな事になってしまって…。もっと注意深く行動していれば、僕は2年前にアゼリアを救出する事が出来たかも知れないのに…白血病にだってならなくて済んだかも知れないのに…本当に…ご、ごめ…」
カイは最後の方は言葉になっていなかった。私の手を握りしめたまま、うつむいて肩を震わせている。もしかして…カイは泣いているのだろうか…?
「カイ…もしかして…泣いているの?」
すると小さくコクリと頷き、カイは顔を上げた。カイの目には涙が浮かんでいる。
「僕は…君が好きだったから…どうしてもフレーベル家の人間を許せなかったんだ…。だから僕は…彼等に罰を与えた…」
「え?罰…?」
カイは手の甲で涙を拭うと言った。
「そう、王族の権限を使ってね。本当は自分の権力を振りかざしたくは無かったけれど…アゼリアをあれだけ苦しめておいて、平気で暮らしている彼等をどうしても僕は見過ごすことが出来なかったんだよ…。」
「カイ…」
私は何と声を掛ければ良いか言葉が思いつかなかった。けれども…カイが私の為に不本意ながら行動してくれたのだ。その事は理解出来た。
「ありがとう…カイ。私の為にわざわざそこまでしてくれるなんて…」
「王族の地位を行使してでも…どうしても彼等に正当な罰を与えたかったんだ。アゼリアの受けた苦しみを彼等にも理解させたくて…」
カイは私の手に再び、そっと触れると言った。
「僕はてっきり君はマルセルと結婚して幸せに暮らしていると思っていたんだ。だから彼からアゼリアとの婚約を破棄したことを聞かされた時は…驚きが大きかったけど…正直、嬉しくも思ったんだ…。まだ僕にもアゼリアに告白するチャンスがある事が分かったから…」
本当に…?本当にカイは私の事を…?
「あ、ありがとう。カイ…。私の事をそんな風に思ってくれていたなんて…。私は今迄20年間生きてきた中で、誰かに好意を寄せられた事が今迄無かったから…」
そう、婚約者であるマルセル様だって…私には何の興味を示す事も無かった。だから私はこの世界では無価値な存在なのだろうと全てを諦めてしまっていたのだ。
「アゼリア、それじゃ僕の気持ちを受け入れてくれるって事なのかい?」
カイが熱を込めた瞳で私を見つめている。
だけど…。
「…ごめんなさい…貴方の気持ちは嬉しいけれど…私にはカイの気持ちを受け入れることは出来ないの…」
私はカイに頭を下げた―。
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