52 / 73
連載
第97話 私が今、幸せな理由は
しおりを挟む
「は、白血病…あの不治の病と言われている…?」
カイの声が震えている。
「ええ。そうなの…余命宣告を受けてから一月が経過したから…私の命はもってあと5ヶ月かも…」
「アゼリア…自分の事なのに…何故、そんな平然としていられるんだい…?」
カイの目が潤んでいる。
「カイ…」
言われて見ればそうだ。私は…自分でも不思議なくらい落ち着いている。初めてこの病気の事と余命を宣告された時は、死ぬのが怖くてベッドの中で声を殺して泣き明かしたのに…。でも今は死を受け入れている自分がいる。
「アゼリア…?」
気づけば、カイは私の手にそっと触れていた。その手はとても大きく…温かだった。そうだ、多分私は…。
「カイ…。私が死を前にしても、こんなにも穏やかでいられるのは…きっと今がとても幸せだからなのかもしれないわ」
「幸せ…?死を宣告されているのに?アゼリアは…まだたったの20年しか生きていないのに…?」
カイの目には涙が浮かんでいる。
「ええ、それでも私は今幸せよ。フレーベル家にいた頃は…とても冷たい世界に生きていた。あの家では私はその日1日を生き抜くのに必死だった。唯一あの屋敷で安らげる時間は…カイ。貴方と誰もいない庭で会っていた時間だけだったわ」
「アゼリア…」
カイは手の甲で目を擦った。
「でも…この病気になって…私と、専属メイドのケリーがマルセル様に助け出されて、ヨハン先生の診療所で治療を受けながら何者にも脅かされない穏やかな暮らしと、温かい食事が手に入ったのだから」
「アゼリア…君はいつも…フレーベル家ではお腹を空かせていたよね…」
私の手に触れていたカイの手が握りしめてきた。
「ええ。それに…私に親切にしてくれる人たちがこんなに周りにいたんだという事も分かったわ。私はフレーベル家では皆から憎まれていたから…生きていく資格の無い人間だと思っていたのよ。でも、そうじゃ無かったと言うことが分かったの」
ヨハン先生やケリー。それにマルセル様や先生方。オリバーさんやベンジャミンさん…。
私の脳裏に皆の顔がよぎる。
「だ、だけど…それでも…」
カイがうつむいた。その時、ポタリとシーツに小さなシミが出来た。
「カイ…ひょっとして…泣いているの?」
「ご、ごめん…アゼリア…君のほうが余程辛いのに…なのに、僕のほうが…泣くなんて…」
うつむいたカイの肩が震えている。
「カイ、私は今本当に幸せなのよ?20年間生きてきて…こんなに幸せを感じたことは今迄無かったくらいに。だって…願いは全て叶ったから…」
「え…?願い…?」
カイは顔を上げた。その瞳は涙で濡れていた。
「一体、どんな願いなんだい?」
カイは涙を拭うと尋ねてきた。
「それは会いたいと思っていた人達に会えたことよ」
「会いたいと思っていた人達…?」
カイが首を傾げる。
「ええ、本当のお父様とお母様に会えたの。私は20年前に訳があって教会に預けられたエテルノ侯爵夫妻の娘だったの」
「え…?それじゃアゼリアは侯爵令嬢だったって事なんだね?」
「ええ、そうだったの」
「そうか、アゼリアの願いは本当のご両親に会うことだったんだね?それで願いが全て叶ったと言ったのか」
もう、カイは泣いていなかった。代わりに優しい笑みを浮かべて私を見つめている。
「でも…私が会いたかった人達は両親だけじゃないわ」
「え…?」
カイが怪訝そうな顔をする。そう…もう一人、会いたかった人が今私の目の前にいる。
「カイ、それは貴方よ。私…どうしても貴方にもう一度会いたかったの」
「え…?僕に…?」
カイの目が見開かれた。
「ええ。私…自分の命が尽きる前にどうしても貴方に伝えたい事があったの」
「伝えたいこと…?」
戸惑いを見せるカイに私は頭を下げた。
「ごめんなさい」
「え…?アゼリア?何故謝るんだい?」
私は頭を下げたまま言った。
「私の為にフレーベル家に待遇を良くしてもらえるように言ってくれたんでしょう?でもそのせいで貴方はムチで打たれて酷い罰を…」
「アゼリア…顔を上げてくれないかな…?」
少しの沈黙の後…カイが私に言う。無言でゆっくり顔を上げると、そこには私をじっと見つめているカイの姿があった。
そしてカイは口を開いた
「好きだよ、アゼリア」
と―。
カイの声が震えている。
「ええ。そうなの…余命宣告を受けてから一月が経過したから…私の命はもってあと5ヶ月かも…」
「アゼリア…自分の事なのに…何故、そんな平然としていられるんだい…?」
カイの目が潤んでいる。
「カイ…」
言われて見ればそうだ。私は…自分でも不思議なくらい落ち着いている。初めてこの病気の事と余命を宣告された時は、死ぬのが怖くてベッドの中で声を殺して泣き明かしたのに…。でも今は死を受け入れている自分がいる。
「アゼリア…?」
気づけば、カイは私の手にそっと触れていた。その手はとても大きく…温かだった。そうだ、多分私は…。
「カイ…。私が死を前にしても、こんなにも穏やかでいられるのは…きっと今がとても幸せだからなのかもしれないわ」
「幸せ…?死を宣告されているのに?アゼリアは…まだたったの20年しか生きていないのに…?」
カイの目には涙が浮かんでいる。
「ええ、それでも私は今幸せよ。フレーベル家にいた頃は…とても冷たい世界に生きていた。あの家では私はその日1日を生き抜くのに必死だった。唯一あの屋敷で安らげる時間は…カイ。貴方と誰もいない庭で会っていた時間だけだったわ」
「アゼリア…」
カイは手の甲で目を擦った。
「でも…この病気になって…私と、専属メイドのケリーがマルセル様に助け出されて、ヨハン先生の診療所で治療を受けながら何者にも脅かされない穏やかな暮らしと、温かい食事が手に入ったのだから」
「アゼリア…君はいつも…フレーベル家ではお腹を空かせていたよね…」
私の手に触れていたカイの手が握りしめてきた。
「ええ。それに…私に親切にしてくれる人たちがこんなに周りにいたんだという事も分かったわ。私はフレーベル家では皆から憎まれていたから…生きていく資格の無い人間だと思っていたのよ。でも、そうじゃ無かったと言うことが分かったの」
ヨハン先生やケリー。それにマルセル様や先生方。オリバーさんやベンジャミンさん…。
私の脳裏に皆の顔がよぎる。
「だ、だけど…それでも…」
カイがうつむいた。その時、ポタリとシーツに小さなシミが出来た。
「カイ…ひょっとして…泣いているの?」
「ご、ごめん…アゼリア…君のほうが余程辛いのに…なのに、僕のほうが…泣くなんて…」
うつむいたカイの肩が震えている。
「カイ、私は今本当に幸せなのよ?20年間生きてきて…こんなに幸せを感じたことは今迄無かったくらいに。だって…願いは全て叶ったから…」
「え…?願い…?」
カイは顔を上げた。その瞳は涙で濡れていた。
「一体、どんな願いなんだい?」
カイは涙を拭うと尋ねてきた。
「それは会いたいと思っていた人達に会えたことよ」
「会いたいと思っていた人達…?」
カイが首を傾げる。
「ええ、本当のお父様とお母様に会えたの。私は20年前に訳があって教会に預けられたエテルノ侯爵夫妻の娘だったの」
「え…?それじゃアゼリアは侯爵令嬢だったって事なんだね?」
「ええ、そうだったの」
「そうか、アゼリアの願いは本当のご両親に会うことだったんだね?それで願いが全て叶ったと言ったのか」
もう、カイは泣いていなかった。代わりに優しい笑みを浮かべて私を見つめている。
「でも…私が会いたかった人達は両親だけじゃないわ」
「え…?」
カイが怪訝そうな顔をする。そう…もう一人、会いたかった人が今私の目の前にいる。
「カイ、それは貴方よ。私…どうしても貴方にもう一度会いたかったの」
「え…?僕に…?」
カイの目が見開かれた。
「ええ。私…自分の命が尽きる前にどうしても貴方に伝えたい事があったの」
「伝えたいこと…?」
戸惑いを見せるカイに私は頭を下げた。
「ごめんなさい」
「え…?アゼリア?何故謝るんだい?」
私は頭を下げたまま言った。
「私の為にフレーベル家に待遇を良くしてもらえるように言ってくれたんでしょう?でもそのせいで貴方はムチで打たれて酷い罰を…」
「アゼリア…顔を上げてくれないかな…?」
少しの沈黙の後…カイが私に言う。無言でゆっくり顔を上げると、そこには私をじっと見つめているカイの姿があった。
そしてカイは口を開いた
「好きだよ、アゼリア」
と―。
98
お気に入りに追加
9,043
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。