余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

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第97話 私が今、幸せな理由は

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「は、白血病…あの不治の病と言われている…?」

カイの声が震えている。

「ええ。そうなの…余命宣告を受けてから一月が経過したから…私の命はもってあと5ヶ月かも…」

「アゼリア…自分の事なのに…何故、そんな平然としていられるんだい…?」

カイの目が潤んでいる。

「カイ…」

言われて見ればそうだ。私は…自分でも不思議なくらい落ち着いている。初めてこの病気の事と余命を宣告された時は、死ぬのが怖くてベッドの中で声を殺して泣き明かしたのに…。でも今は死を受け入れている自分がいる。

「アゼリア…?」

気づけば、カイは私の手にそっと触れていた。その手はとても大きく…温かだった。そうだ、多分私は…。

「カイ…。私が死を前にしても、こんなにも穏やかでいられるのは…きっと今がとても幸せだからなのかもしれないわ」

「幸せ…?死を宣告されているのに?アゼリアは…まだたったの20年しか生きていないのに…?」

カイの目には涙が浮かんでいる。

「ええ、それでも私は今幸せよ。フレーベル家にいた頃は…とても冷たい世界に生きていた。あの家では私はその日1日を生き抜くのに必死だった。唯一あの屋敷で安らげる時間は…カイ。貴方と誰もいない庭で会っていた時間だけだったわ」

「アゼリア…」

カイは手の甲で目を擦った。

「でも…この病気になって…私と、専属メイドのケリーがマルセル様に助け出されて、ヨハン先生の診療所で治療を受けながら何者にも脅かされない穏やかな暮らしと、温かい食事が手に入ったのだから」

「アゼリア…君はいつも…フレーベル家ではお腹を空かせていたよね…」

私の手に触れていたカイの手が握りしめてきた。

「ええ。それに…私に親切にしてくれる人たちがこんなに周りにいたんだという事も分かったわ。私はフレーベル家では皆から憎まれていたから…生きていく資格の無い人間だと思っていたのよ。でも、そうじゃ無かったと言うことが分かったの」

ヨハン先生やケリー。それにマルセル様や先生方。オリバーさんやベンジャミンさん…。

私の脳裏に皆の顔がよぎる。

「だ、だけど…それでも…」

カイがうつむいた。その時、ポタリとシーツに小さなシミが出来た。

「カイ…ひょっとして…泣いているの?」

「ご、ごめん…アゼリア…君のほうが余程辛いのに…なのに、僕のほうが…泣くなんて…」

うつむいたカイの肩が震えている。

「カイ、私は今本当に幸せなのよ?20年間生きてきて…こんなに幸せを感じたことは今迄無かったくらいに。だって…願いは全て叶ったから…」

「え…?願い…?」

カイは顔を上げた。その瞳は涙で濡れていた。

「一体、どんな願いなんだい?」

カイは涙を拭うと尋ねてきた。

「それは会いたいと思っていた人達に会えたことよ」

「会いたいと思っていた人達…?」

カイが首を傾げる。

「ええ、本当のお父様とお母様に会えたの。私は20年前に訳があって教会に預けられたエテルノ侯爵夫妻の娘だったの」

「え…?それじゃアゼリアは侯爵令嬢だったって事なんだね?」

「ええ、そうだったの」

「そうか、アゼリアの願いは本当のご両親に会うことだったんだね?それで願いが全て叶ったと言ったのか」

もう、カイは泣いていなかった。代わりに優しい笑みを浮かべて私を見つめている。

「でも…私が会いたかった人達は両親だけじゃないわ」

「え…?」

カイが怪訝そうな顔をする。そう…もう一人、会いたかった人が今私の目の前にいる。

「カイ、それは貴方よ。私…どうしても貴方にもう一度会いたかったの」

「え…?僕に…?」

カイの目が見開かれた。

「ええ。私…自分の命が尽きる前にどうしても貴方に伝えたい事があったの」

「伝えたいこと…?」

戸惑いを見せるカイに私は頭を下げた。

「ごめんなさい」

「え…?アゼリア?何故謝るんだい?」

私は頭を下げたまま言った。

「私の為にフレーベル家に待遇を良くしてもらえるように言ってくれたんでしょう?でもそのせいで貴方はムチで打たれて酷い罰を…」

「アゼリア…顔を上げてくれないかな…?」

少しの沈黙の後…カイが私に言う。無言でゆっくり顔を上げると、そこには私をじっと見つめているカイの姿があった。

そしてカイは口を開いた

「好きだよ、アゼリア」

と―。

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