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第94話 愛情に包まれて

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 その後、お父様はヨハン先生と話があるからと言って部屋を出ていき、私は1人になった。静かな部屋に響き渡る時計の音を聞いているうちにウトウトとまどろみだし…気づけば私は再び眠っていた―。 


 部屋の中に甘い香りが漂っている…。

「う…ん…」

ゆっくり目を開けると、そこにケリーが立っていた。

「あ、アゼリ様。目が覚めたのですね?」

「ケリー…」

見ると、いつの間にか腕の点滴が外されていた。ひょっとするとあれから時間が経過しているのだろうか…?

「ケリー。今何時かしら?」

「もうすぐお昼になりますよ。今の時刻は11時50分ですよ」

「え?そ、そんなに…?そうだわ…お父様はどうされたのかしら」

するとケリーは少し悲しげな顔をすると言った。

「アゼリア様のお父様は…一度お屋敷に帰られました。今の状態のアゼリア様を馬車に乗せて移動させるには難しいだろうとのヨハン先生の判断でしたから」

「そうだったのね…お父様には悪いことをしてしまったわ」

ポツリと言った。

「アゼリア様…そんな事よりも私はアゼリア様のお身体の方が心配です…私がお部屋に伺った時、アゼリア様は床の上に倒れていたのですよ。両方の鼻からは出血が酷くて…わ、私その姿を見た時…アゼリア様はし、死んでしまったのではないかと思ってしまいました…」

ケリーは目に涙をためながら言う。

「ごめんなさい…ケリー。貴女にはいつも心配ばかりかけさせて…」

「謝らないで下さい。謝って欲しくて言ってるわけじゃないんです。た、ただアゼリア様には少しでも元気になっていただきたくて…それで私、アゼリア様が大好きなパンプディングを作ったんです。食べれそうですか…?」

「まぁ、そうだったのね?甘い香りがすると思ったら…プディングだったのね?勿論食べるわ。ありがとう、ケリー」

ゆっくりベッドから身体を起こそうとするとケリーが手伝ってくれた。そしてベッドテーブルを用意してくれて、そこの上にまだ湯気の立つパンプディングにポタージュを乗せてくれた。プディングの甘い香りとスープの香りが私の食欲を刺激する。

「ありがとう、早速頂くわね」

笑みを浮かべてケリーに言う。

「はい、どうぞお召し上がり下さい」


早速スプーンですくってプディングを口に運ぶ。

「…美味しい」

トロリとした食感に程よい甘さのプディングが病気で弱った私の身体に染み渡ってゆく気がする。

「本当に美味しいわ。ケリーの愛情が感じられる…」

「アゼリア様…」

ケリーが頬を染めて私を見つめ…次に何かを思い出したのか、パチンと手を叩くと言った。

「そう言えばヨハン先生がマルセル様のお宅にお電話をかけてました。アゼリア様の事でマルセル様のお父様に相談していらっしゃいましたよ。マルセル様のお母様が電話口に出られたのですが、今は出張中で明後日帰って来られるそうです。なので2日後の夜、診察に来てくださるそうですよ?」

「まぁ、ウォルター様が?とてもお忙しい方なのに…何だか悪いわ…」

「そんな事おっしゃらないで下さい。それだけ皆さんアゼリア様の事を心配されているのですから。勿論私もですよ」

「ありがとう、ケリー」

「それでは私はそろそろ行きますね。ヨハン先生の診察が終わる頃なのでお食事の準備をしてまいりますから」

「ええ、私なら1人で大丈夫よ」

「はい、また後ほど伺いますね」

ケリーは笑みを浮かべると部屋を出ていった。再び1人きりになった私はお父様の事を考えた。

「お父様は…お母様に私の病気の事を伝えてしまうかしら…」

出来れば病弱なお母様には私の余命の事を伝えないで欲しい。

お母様には余計な心配をかけたくは無かった―。
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