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第93話 1日でも長く…
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翌朝―
7時に私は目が覚めた。ベッドの中で目を開けるといつも見慣れた天井が目に入る。
「やっぱりこの部屋だとぐっすり眠れるわ…」
そして私は目を閉じた。この部屋に漂う木の香り…窓を開ければハーブが香り、町の石畳を走る馬車の音…。そのどれもが私の心を落ち着かせる。私はここでの生活にすっかり慣れてしまっていたのだ。
「そろそろ起きましょう…お父様が迎えに来るだろうし」
私はゆっくり起き上がり…突然鉄のような匂いが鼻の奥からこみ上げてきた。
「!」
慌てて手で押さえるとポタリと生暖かい血が手のひらに流れ落ちてくる。しかも後から後から止まらない。
そ、そんな…っ!
いつもなら割とすぐに止まるのに一体何故…?!そして次に激しい耳鳴りと共にぐるぐる視界が周り、今迄感じたことのない激しい目眩に襲われた。
「た、助け…」
怖い…このまま死んでしまうのだろうか…?恐怖の中でケリーとヨハン先生の顔が頭をよぎり…私はそのまま意識を失ってしまった―。
*****
「…そ、それで…アゼリアの容体はどうなのですか…?」
何処かで聞き覚えのある声が聞こえてくる。ゆっくり目を開けると私は自分がベッドの上に寝かされていることに気が付いた。
「私…いつの間に…」
ポツリと呟くと、すぐ側で声が聞こえた。
「アゼリア様っ?!大丈夫ですかっ?!」
視線を動かすと、すぐ側に目を真っ赤に腫れ上がらせたケリーが私を覗き込んできた。
「あ…ケリー…」
見ると私の腕には点滴がされている。
「良かった…アゼリア様…気が付いたのですね?」
すると、私とケリーの話し声に気付いたのか扉がカチャリと開けられ、部屋の中に白衣を着たヨハン先生と…。
「あ…お、お父様…」
「アゼリアッ!」
お父様の目には涙が浮かんでいた。お父様は私のベッドに近付き、傍らにあった椅子に座ると言った。
「アゼリア…ヨハン先生に話を聞いたよ…。お前は白血病なんだって…?」
「は、はい…」
「それだけじゃない…余命だって宣告されているそうじゃないか…」
私はチラリとヨハン先生を見ると、先生は青い顔でじっと私を見つめていた。
「お父様…私は一月ほど前に余命半年と宣告されているんです」
すると私の言葉に再びお父様の目から涙が溢れ出てきた。
「そ、そんな…死んだと思っていた娘にようやく会えたと思っていたら…よ、余命を宣告されていたなんて…」
「お父様…」
お父様の泣き顔が胸に刺さり、私の目にも熱いものがこみ上げてきた。
「ごめんなさい…お父様…」
気づけば涙を流しながらお父様に謝っていた。
「な、何故謝るのだい?アゼリア」
「だ、だって…折角20年ぶりに再会出来たのに…わ、私は…もうすぐ…し、死んでしまうから…」
そうだ。私はどうあってもお父様やお母様より早死にしてしまう。親よりも先に死んでしまうなんて…私は何て親不孝な娘なのだろう。本当ならば私がお父様やお母様を看取るべき立場にあるのに…。
「アゼリア。そんな事を言わないでくれ。病気になったのはお前のせいではないだろう?」
お父様は目に涙を浮かべながら私の髪をそっと撫でる。その手はとても暖かく…優しいものだった。
部屋の中にはいつの間にか私とお父様の2人だけになっていた。ひょっとするとヨハン先生とケリーが気を利かせて部屋を出ていったのかも知れない。
お父様の手の温もりに包まれながら、私は思った。
私はまだ死にたくない…。
今迄冷たい世界で行きていた頃はいつ死んでも構わないと心の何処かで思っていたけれど、今は違う。何故なら温かい人々の温もりを知ってしまったから。
だから神様、どうかお願いします。
1日でも長く生きることが出来ますように―と…。
7時に私は目が覚めた。ベッドの中で目を開けるといつも見慣れた天井が目に入る。
「やっぱりこの部屋だとぐっすり眠れるわ…」
そして私は目を閉じた。この部屋に漂う木の香り…窓を開ければハーブが香り、町の石畳を走る馬車の音…。そのどれもが私の心を落ち着かせる。私はここでの生活にすっかり慣れてしまっていたのだ。
「そろそろ起きましょう…お父様が迎えに来るだろうし」
私はゆっくり起き上がり…突然鉄のような匂いが鼻の奥からこみ上げてきた。
「!」
慌てて手で押さえるとポタリと生暖かい血が手のひらに流れ落ちてくる。しかも後から後から止まらない。
そ、そんな…っ!
いつもなら割とすぐに止まるのに一体何故…?!そして次に激しい耳鳴りと共にぐるぐる視界が周り、今迄感じたことのない激しい目眩に襲われた。
「た、助け…」
怖い…このまま死んでしまうのだろうか…?恐怖の中でケリーとヨハン先生の顔が頭をよぎり…私はそのまま意識を失ってしまった―。
*****
「…そ、それで…アゼリアの容体はどうなのですか…?」
何処かで聞き覚えのある声が聞こえてくる。ゆっくり目を開けると私は自分がベッドの上に寝かされていることに気が付いた。
「私…いつの間に…」
ポツリと呟くと、すぐ側で声が聞こえた。
「アゼリア様っ?!大丈夫ですかっ?!」
視線を動かすと、すぐ側に目を真っ赤に腫れ上がらせたケリーが私を覗き込んできた。
「あ…ケリー…」
見ると私の腕には点滴がされている。
「良かった…アゼリア様…気が付いたのですね?」
すると、私とケリーの話し声に気付いたのか扉がカチャリと開けられ、部屋の中に白衣を着たヨハン先生と…。
「あ…お、お父様…」
「アゼリアッ!」
お父様の目には涙が浮かんでいた。お父様は私のベッドに近付き、傍らにあった椅子に座ると言った。
「アゼリア…ヨハン先生に話を聞いたよ…。お前は白血病なんだって…?」
「は、はい…」
「それだけじゃない…余命だって宣告されているそうじゃないか…」
私はチラリとヨハン先生を見ると、先生は青い顔でじっと私を見つめていた。
「お父様…私は一月ほど前に余命半年と宣告されているんです」
すると私の言葉に再びお父様の目から涙が溢れ出てきた。
「そ、そんな…死んだと思っていた娘にようやく会えたと思っていたら…よ、余命を宣告されていたなんて…」
「お父様…」
お父様の泣き顔が胸に刺さり、私の目にも熱いものがこみ上げてきた。
「ごめんなさい…お父様…」
気づけば涙を流しながらお父様に謝っていた。
「な、何故謝るのだい?アゼリア」
「だ、だって…折角20年ぶりに再会出来たのに…わ、私は…もうすぐ…し、死んでしまうから…」
そうだ。私はどうあってもお父様やお母様より早死にしてしまう。親よりも先に死んでしまうなんて…私は何て親不孝な娘なのだろう。本当ならば私がお父様やお母様を看取るべき立場にあるのに…。
「アゼリア。そんな事を言わないでくれ。病気になったのはお前のせいではないだろう?」
お父様は目に涙を浮かべながら私の髪をそっと撫でる。その手はとても暖かく…優しいものだった。
部屋の中にはいつの間にか私とお父様の2人だけになっていた。ひょっとするとヨハン先生とケリーが気を利かせて部屋を出ていったのかも知れない。
お父様の手の温もりに包まれながら、私は思った。
私はまだ死にたくない…。
今迄冷たい世界で行きていた頃はいつ死んでも構わないと心の何処かで思っていたけれど、今は違う。何故なら温かい人々の温もりを知ってしまったから。
だから神様、どうかお願いします。
1日でも長く生きることが出来ますように―と…。
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