上 下
43 / 73
連載

第91話 カイへの思い

しおりを挟む
「そ、そんな…まさか…カイ…」

王太子様の写真を見つめる私の顔色は余程悪かったのだろう。

「アゼリア?どうしたんだ?」

オリバーさんが声を掛けてきた。

「アゼリア、具合でも悪いのかい?顔色が真っ青じゃないか!」

ヨハン先生に肩に手を置かれてハッとなって顔を上げると、私の事を心配そうに見つめるケリーと視線が合った。

「アゼリア様、どうされたのですか…?」

「あ…ケリー…」

オリバーさんはテーブルの上の写真をチラリと見ると尋ねてきた。

「アゼリア、この写真がどうかしたのか?この人はこの国の王太子様だぞ?」

「ひょっとすると王太子様を知ってるのかい?」

私はヨハン先生をじっと見つめた。

「あの…この写真の方が私が探している『カイ』という方によく似て…いいえ、そっくりなんです。恐らく王太子様が私が探していたカイだと思います。で、でも何故そんな方がフレーベル家で御者を…?」

私にはさっぱり分らなかった。けれどもカイが身分を隠して働いていたのは間違いないだろう。そうでなければ王太子様を鞭で打つ等非道な事が出来る筈が無い。

「え?!ま、まさか…!」

ヨハン先生が目を見開く。ケリーはじっと私の話を聞いている。

「うん?そう言えば王太子様の名前は『カイザード』って名前なんだ…。ま、まさか…!」

オリバーさんは驚愕の表情を浮かべると私に言った。

「アゼリア、今日王太子様のインタビューで話を聞いたんだが、彼はずっと外国に海外留学をしていて、ほんのつい最近になって城に戻ってきたらしいんだよ。アゼリアはいつ『カイ』という人物に会ったんだい?」

「私がカイに会ったのは4年前です。そして2年前に彼は…フレーベル家を追い出されました。私を冷遇するのを辞めるようにフレーベル家の人達に訴えて、それに激怒した義父が…カイを激しく鞭で打って、そのまま追い出してしまったそうです」

私はもうフレーベル家の父を『お父様』と呼びたくはなかったので、『義父』と呼んだ。

「そうなのか?でも…名前も似ているし、年齢も同じ22歳か…。海外留学をしていたという話もどこか引っかかるな。もしかして社会勉強の為に平民として働いていた可能性もあるしな…。そう考えるとやはりカイザード王太子様はアゼリアの探しているカイと言う人物と同一人物なのかもしれない」

オリバーさんは腕組みしながら写真をじっと見つめた。

「アゼリア…どうするんだい?君はカイを探していただろう?大切な人だって…彼の事を好きだったんだろう?」

「え?」

ヨハン先生の突然の言葉に驚いた。私がカイを好きだった?

「あ、あの…ヨハン先生。私は別にカイを好きだったとか言うわけでは…」

「え?違ったのですか?!私もそう思っていましたが」

ケリーが言った。

「いいえ、私がカイを探していたのは大切な恩人だったからです。フレーベル家で辛い目に遭っていた時に、彼は本当に親切にしてくれました。そして私のせいで酷い罰を受けて屋敷を追い出されてしまったので、どうしてもカイに謝罪して私の持っているお金を分けてあげたかったのです。でも王太子様だったなんて…それではとても会えそうにはありませんね」

カイが王太子様なら、雲の上の人で会えるはずもないだろう。それに私のせいで鞭で打たれたのだから、ひょっとすると仮に会えたとしても迷惑にしか感じないかも知れない。
思わずうつむくとオリバーさんが声を掛けてきた。

「知ってたか?この国の王族の人達は皆気さくな人達ばかりなんだぞ。平民だって謁見を望めば会ってくれるんだからアゼリアが望めばきっと王太子様は会ってくれるに違いないさ」

「けれど、果たして王太子様が私と会うことを望むでしょうか?何故王太子様が御者としてフレーベル家で働いていたかは分かりませんが、この方は私をかばった為に酷い罰を受けたのです。会いに行っても迷惑に感じるかも知れません。でも無事だということが分かったので…それだけで十分です」

「アゼリア…」

「アゼリア様…」

ヨハン先生もケリーも心配そうに私を見ている。

でもカイに会いに行って仮に迷惑そうな顔をされるくらいなら、いっそ会わない方が良いだろう。せめてお礼の手紙を送るくらいなら…王太子様の迷惑にはならないかもしれない。
それに私の余命は半年を切っている。会えば病気の事を知られてしまうかもしれない。

私は…カイには余計な心配をかけさせたくは無かった―。



しおりを挟む
感想 1,474

あなたにおすすめの小説

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈 
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。