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カイザード・アークライト ⑦
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僕がアゼリアを連れて馬繋場へ戻ると、焚き火の側でカードゲームをして遊んでいたロイ先輩とトニー先輩が案の定、言った。
「何だよ?カイ。何でまたアゼリア様をここへ連れて来たんだよ!」
「ああ。全くだ。旦那様達にこんな事がバレたら俺達迄酷い目に遭わされるんだぞ?」
「何を言ってるんですか?2人共!アゼリア様だって、こちらのお屋敷の伯爵令嬢ではありませんか!」
どうして…よりにもよってアゼリアの前で平気でそんな事を言えるんだ?僕は背後に立っているアゼリアを振り返ると、案の定真っ青な顔でその場に立っていた。
「お前なぁ…もうこの屋敷に来て2年になるんだからいい加減学習しろよ。アゼリア様に関われば俺らだって立場が危うくなるんだぞ?」
トニー先輩がイライラした様子でカードをベンチに叩きつけてきた。
「ああ、とばっちりはごめんなんだよ」
ロイ先輩はアゼリアがいるにも関わらず、ポケットからた箱を取り出して火を付ける。伯爵令嬢の前でタバコを吸うなんて…!思わず怒りで顔がカッとなる。
「やっぱり…私は帰った方が良さそうですね‥申し訳ございませんでした。失礼致します」
アゼリアの悲しげな顔が僕を冷静にさせた。そうだ、ここで腹を立てても仕方ない。今は一刻も早くアゼリアをハイム伯爵家に連れて行って上げなければ…!
それなのにアゼリアは背を向けると馬繋場を立ち去って行く。慌ててアゼリアを引き止め、先輩たちと押し問答しているうちに…先輩たちの言葉でとうとう僕は我慢の限界に達してしまった。
「カイ。いくら伯爵令嬢かもしれないが、アゼリア様はやめて置け」
「ああ、アゼリア様は捨て子だったんだから。どんな下賤な血が入ってるか分ったものじゃないんだぞ?」
ロイ先輩とトニー先輩が口々に言う。
「何だと…?」
自分でも驚くくらい、低い声で二人を交互に睨みつけた。
「何だよ。カイ…やる気かよ?」
トニー先輩が立ち上がる。
「面白ぇ…。前々からいい子ぶっていて俺達は気に入らなかったんだよ」
煙草を吸っていたロイ先輩は口から離すと、たばこを地面に投げ捨て足で踏みつぶした。
「アゼリア様を侮辱したんだ…いつでも相手になりますよ」
幸い、格闘技には自信がある。何故ならこの国の王となる者は自分の身は自分で守れなければならないからだ。2人の先輩と睨み合ったその時―。
「ま…待って下さいっ!」
突然アゼリアが僕達の間に割って入って来た。一体なにをするつもりなんだ?だけど、彼女を巻き込んではいけない。
「ア…アゼリア様。どいて下さい」
それなのに、アゼリアはいきなりロイ先輩とトニー先輩に頭を下げてきた。
「申し訳ございません!身の程をわきまえず…私がカイに馬車を頼んでしまったのです!カイは少しも悪くありません!どうか…どうか許してあげて下さいっ!」
何を言っているんだ?馬車に乗せる話をいい出したのは僕の方なのに?
「な、何をされているのですかっ?!アゼリア様っ!」
アゼリアは先輩たちに頭を下げている。その小さな身体は小刻みに震えている。
「どうか…どうかカイに酷い事を…しないで下さい…」
「チッ。全く…分りましたよっ!」
「頭あげてくださいよっ!」
ロイ先輩とトニー先輩が渋々言う。
「見逃して頂いて有難うございます…」
アゼリアはまた頭を下げている。どうして…どうしてそこまでするんだ?君は何も悪くないのに。
「ほら!さっさと行って下さいよ!アゼリア様がここに居られるのを旦那様達に見られたら俺達だって咎められるんですから!」
トニー先輩がアゼリアを手で追い払う仕草をした。伯爵令嬢に何てことするんだ?!
「ああ、そうですよ」
ロイ先輩は投げやりに言う。
「はい、分りました。もう行きます」
それなのにアゼリアはあくまで丁寧な態度を崩さない。その姿が僕の心を締め付ける。
そしてアゼリアは…傘をさして行ってしまった。僕はその後姿をなすすべもなく見つめていた。
トニー先輩もロイ先輩も流石に何も言わなかった。きっとアゼリア気の毒に思ったかもしれない。
もう我慢できない…。僕は拳を握りしめた。
こんな理不尽な扱い、許されるはずがない。父には目立たず、騒ぎを起こさないように真面目に働くようにと言われていたけれども、限界だった。
決めた…。
フレーベル家の当主に訴えるんだ。アゼリアを不当な扱いをするなと。
それがどんな悲惨な結果を生んでしまう事になるか、その時の僕は想像もしていなかった。
ただ、アゼリアを救いたい…それしか念頭に無かったのだ―。
「何だよ?カイ。何でまたアゼリア様をここへ連れて来たんだよ!」
「ああ。全くだ。旦那様達にこんな事がバレたら俺達迄酷い目に遭わされるんだぞ?」
「何を言ってるんですか?2人共!アゼリア様だって、こちらのお屋敷の伯爵令嬢ではありませんか!」
どうして…よりにもよってアゼリアの前で平気でそんな事を言えるんだ?僕は背後に立っているアゼリアを振り返ると、案の定真っ青な顔でその場に立っていた。
「お前なぁ…もうこの屋敷に来て2年になるんだからいい加減学習しろよ。アゼリア様に関われば俺らだって立場が危うくなるんだぞ?」
トニー先輩がイライラした様子でカードをベンチに叩きつけてきた。
「ああ、とばっちりはごめんなんだよ」
ロイ先輩はアゼリアがいるにも関わらず、ポケットからた箱を取り出して火を付ける。伯爵令嬢の前でタバコを吸うなんて…!思わず怒りで顔がカッとなる。
「やっぱり…私は帰った方が良さそうですね‥申し訳ございませんでした。失礼致します」
アゼリアの悲しげな顔が僕を冷静にさせた。そうだ、ここで腹を立てても仕方ない。今は一刻も早くアゼリアをハイム伯爵家に連れて行って上げなければ…!
それなのにアゼリアは背を向けると馬繋場を立ち去って行く。慌ててアゼリアを引き止め、先輩たちと押し問答しているうちに…先輩たちの言葉でとうとう僕は我慢の限界に達してしまった。
「カイ。いくら伯爵令嬢かもしれないが、アゼリア様はやめて置け」
「ああ、アゼリア様は捨て子だったんだから。どんな下賤な血が入ってるか分ったものじゃないんだぞ?」
ロイ先輩とトニー先輩が口々に言う。
「何だと…?」
自分でも驚くくらい、低い声で二人を交互に睨みつけた。
「何だよ。カイ…やる気かよ?」
トニー先輩が立ち上がる。
「面白ぇ…。前々からいい子ぶっていて俺達は気に入らなかったんだよ」
煙草を吸っていたロイ先輩は口から離すと、たばこを地面に投げ捨て足で踏みつぶした。
「アゼリア様を侮辱したんだ…いつでも相手になりますよ」
幸い、格闘技には自信がある。何故ならこの国の王となる者は自分の身は自分で守れなければならないからだ。2人の先輩と睨み合ったその時―。
「ま…待って下さいっ!」
突然アゼリアが僕達の間に割って入って来た。一体なにをするつもりなんだ?だけど、彼女を巻き込んではいけない。
「ア…アゼリア様。どいて下さい」
それなのに、アゼリアはいきなりロイ先輩とトニー先輩に頭を下げてきた。
「申し訳ございません!身の程をわきまえず…私がカイに馬車を頼んでしまったのです!カイは少しも悪くありません!どうか…どうか許してあげて下さいっ!」
何を言っているんだ?馬車に乗せる話をいい出したのは僕の方なのに?
「な、何をされているのですかっ?!アゼリア様っ!」
アゼリアは先輩たちに頭を下げている。その小さな身体は小刻みに震えている。
「どうか…どうかカイに酷い事を…しないで下さい…」
「チッ。全く…分りましたよっ!」
「頭あげてくださいよっ!」
ロイ先輩とトニー先輩が渋々言う。
「見逃して頂いて有難うございます…」
アゼリアはまた頭を下げている。どうして…どうしてそこまでするんだ?君は何も悪くないのに。
「ほら!さっさと行って下さいよ!アゼリア様がここに居られるのを旦那様達に見られたら俺達だって咎められるんですから!」
トニー先輩がアゼリアを手で追い払う仕草をした。伯爵令嬢に何てことするんだ?!
「ああ、そうですよ」
ロイ先輩は投げやりに言う。
「はい、分りました。もう行きます」
それなのにアゼリアはあくまで丁寧な態度を崩さない。その姿が僕の心を締め付ける。
そしてアゼリアは…傘をさして行ってしまった。僕はその後姿をなすすべもなく見つめていた。
トニー先輩もロイ先輩も流石に何も言わなかった。きっとアゼリア気の毒に思ったかもしれない。
もう我慢できない…。僕は拳を握りしめた。
こんな理不尽な扱い、許されるはずがない。父には目立たず、騒ぎを起こさないように真面目に働くようにと言われていたけれども、限界だった。
決めた…。
フレーベル家の当主に訴えるんだ。アゼリアを不当な扱いをするなと。
それがどんな悲惨な結果を生んでしまう事になるか、その時の僕は想像もしていなかった。
ただ、アゼリアを救いたい…それしか念頭に無かったのだ―。
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