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マルセル・ハイム 3
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早く帰らせて貰いたい…。俺はもううんざりしていた。モニカ嬢のまるでままごとのような遊びに付き合うのは我慢の限界だ。何故俺は婚約者のアゼリアではなく、妹とアビゲイル様に付き合わなければならないのだろう…。モニカ譲とアビゲイル様はお世辞にも賢い女性とは言えない。俺は賢くない女性は好きではない。母が教授、父も伯爵の身分を持ちながら医学博士の資格を持っているのだ。なので両親とも、モニカ嬢とアビゲイル様の事を快く思ってはいなかった。
はあ…
アゼリア、早くピアノのレッスンを終わらせてくれ…俺はお前に会う為に睡眠不足の疲れた身体でこの母娘のお遊びにつきあわされているのだから…。
「フフフ、マルセル様ーっ見ていてくださいねー。今からキングに私が教えた芸をさせてみせますからねーっ」
モニカ嬢が自分の飼い犬…キングを前にして俺に笑顔で手を振ってくる。やれやれ…俺も愛想笑を浮かべて手を振りながら心の中で何度目かのため息をついた時…。
「奥様ーっ!アビゲイル様ーっ!」
アゼリアのピアノ教師の女性が長いスカートをたくし上げながらこちらへ向かって駆けてきた。
「まぁ、どうしたのですか?マルゴ先生」
ベンチに腰掛けていたアビゲイル様が立ち上がった。
「それが…アゼリア様が…」
マルゴと呼ばれたピアノ教師はハアハアと呼吸を整えると言った。
「『こんなレッスン続けていられないわ』と言って勝手に部屋を出ていってしまったのです」
何っ?!アゼリアがっ?!
「な、何ですってっ?!」
アビゲイル様がベンチから立ち上った。
「あの子ったら!勝手な事を!」
それはこっちの台詞だ!俺はお前に会いにわざわざここまでやってきて、頭の足りない義母と義妹の相手をして待っていたというのに、こんな仕打ちをするのかっ?!激しい怒りで身体が震えた。
そこへモニカ嬢が俺の傍へやってくると言った。
「本当に酷いお姉様ですわ。本当は私がピアノを習いたかったのに…貴女にはマルゴ先生のレッスンについていけるわけないから、私が代わりにピアノをならって教えて上げるわって言ってたくせに…一度もピアノを教えてくれた事はないのですよ?」
そしてさり気なく俺にしなだれかかってくる。
「それは…本当の話なのですか?」
俺はアゼリアに対する怒りを押さえながらモニカ嬢を見た。
「ええ。本当です。お姉様は私達を…いえ、この家を嫌っているのです。だから当てつけで出掛ける時も我が家の馬車を使わないのですよ」
「アゼリアが…」
なんて我儘な女なんだ?もう我慢の限界だ。今度会ったときは、はっきりアゼリアの間違いを正してやらなければ。例えどんな相手でもお前は俺の婚約者なのだから、礼儀ぐらいわきまえろと言ってやるのだ。
前方ではアビゲイル様とピアノ教師が話をしている。
「それでは私はこれで失礼いたします。今回はアゼリア様が勝手にいなくなられてしまったのですから、レッスン料はいつもどおり請求させて頂きますから」
「ええ…仕方ありませんね。アゼリアが悪いのですから料金は定額通りお支払い致します。あの子にはきちんと言い聞かせますから。」
アビゲイル様はため息をついて頭を下げている。流石にこの時ばかりはアビゲイル様を気の毒に思ってしまった。アゼリア…一体お前は何処まで人を困らせれば気がすむのだ?
この後、全員でアゼリアの部屋を尋ねてみたものの部屋の中はもぬけの殻だった。
「あの子ったら…一体何処へ行ったのかしら?今日に限ってケリーもいないし…」
アビゲイル様はどこか怒りをにじませながら親指を噛んだ。ケリー…?初めて聞く名前だ。アゼリアの専属メイドだろうか…?しかし、アゼリアが不在ならば、もうこの屋敷には用は無い。そこで俺は2人に言った。
「アゼリアがいないようなので、本日はこれで帰らせて頂きます」
そして部屋を出ていこうとすると、2人に止められた。
「いいえ!ひょっとするとすぐに帰ってくるかも知れません!どうかお待ちになって下さい!」
「ええ。お姉様は気まぐれだから、そのうちひょっこり帰って来るに決まってます!どうか帰らないで下さい!」
「しかし…」
だが、2人は俺の袖を握りしめて離そうとしない。
「分かりました…。但し18時まで待ってアゼリアが戻らなければ帰らせて頂きますからね」
俺はとうとう諦めることにした。この2人はアゼリアの母と妹。無下にすることは出来なかった。大丈夫…きっとすぐに帰ってくるだろう。俺はこの2人の言葉を信じた。
だが、結局アゼリアは帰ってこなかった。俺は18時まで滞在させられ、ようやく屋敷を出ることが出来た。
「くそっ…!アゼリアめ…っ!」
すっかり暗くなった空の下、イライラしながら馬に乗って門扉を目指していた時、屋敷の敷地内にある噴水前で俺は見た。辻馬車から降りてきたアゼリアの姿を…。
途端に俺の中でアゼリアに対する激しいい怒りが沸き起こった。
そして俺は馬に乗ったままゆっくりアゼリアに近付いた―。
はあ…
アゼリア、早くピアノのレッスンを終わらせてくれ…俺はお前に会う為に睡眠不足の疲れた身体でこの母娘のお遊びにつきあわされているのだから…。
「フフフ、マルセル様ーっ見ていてくださいねー。今からキングに私が教えた芸をさせてみせますからねーっ」
モニカ嬢が自分の飼い犬…キングを前にして俺に笑顔で手を振ってくる。やれやれ…俺も愛想笑を浮かべて手を振りながら心の中で何度目かのため息をついた時…。
「奥様ーっ!アビゲイル様ーっ!」
アゼリアのピアノ教師の女性が長いスカートをたくし上げながらこちらへ向かって駆けてきた。
「まぁ、どうしたのですか?マルゴ先生」
ベンチに腰掛けていたアビゲイル様が立ち上がった。
「それが…アゼリア様が…」
マルゴと呼ばれたピアノ教師はハアハアと呼吸を整えると言った。
「『こんなレッスン続けていられないわ』と言って勝手に部屋を出ていってしまったのです」
何っ?!アゼリアがっ?!
「な、何ですってっ?!」
アビゲイル様がベンチから立ち上った。
「あの子ったら!勝手な事を!」
それはこっちの台詞だ!俺はお前に会いにわざわざここまでやってきて、頭の足りない義母と義妹の相手をして待っていたというのに、こんな仕打ちをするのかっ?!激しい怒りで身体が震えた。
そこへモニカ嬢が俺の傍へやってくると言った。
「本当に酷いお姉様ですわ。本当は私がピアノを習いたかったのに…貴女にはマルゴ先生のレッスンについていけるわけないから、私が代わりにピアノをならって教えて上げるわって言ってたくせに…一度もピアノを教えてくれた事はないのですよ?」
そしてさり気なく俺にしなだれかかってくる。
「それは…本当の話なのですか?」
俺はアゼリアに対する怒りを押さえながらモニカ嬢を見た。
「ええ。本当です。お姉様は私達を…いえ、この家を嫌っているのです。だから当てつけで出掛ける時も我が家の馬車を使わないのですよ」
「アゼリアが…」
なんて我儘な女なんだ?もう我慢の限界だ。今度会ったときは、はっきりアゼリアの間違いを正してやらなければ。例えどんな相手でもお前は俺の婚約者なのだから、礼儀ぐらいわきまえろと言ってやるのだ。
前方ではアビゲイル様とピアノ教師が話をしている。
「それでは私はこれで失礼いたします。今回はアゼリア様が勝手にいなくなられてしまったのですから、レッスン料はいつもどおり請求させて頂きますから」
「ええ…仕方ありませんね。アゼリアが悪いのですから料金は定額通りお支払い致します。あの子にはきちんと言い聞かせますから。」
アビゲイル様はため息をついて頭を下げている。流石にこの時ばかりはアビゲイル様を気の毒に思ってしまった。アゼリア…一体お前は何処まで人を困らせれば気がすむのだ?
この後、全員でアゼリアの部屋を尋ねてみたものの部屋の中はもぬけの殻だった。
「あの子ったら…一体何処へ行ったのかしら?今日に限ってケリーもいないし…」
アビゲイル様はどこか怒りをにじませながら親指を噛んだ。ケリー…?初めて聞く名前だ。アゼリアの専属メイドだろうか…?しかし、アゼリアが不在ならば、もうこの屋敷には用は無い。そこで俺は2人に言った。
「アゼリアがいないようなので、本日はこれで帰らせて頂きます」
そして部屋を出ていこうとすると、2人に止められた。
「いいえ!ひょっとするとすぐに帰ってくるかも知れません!どうかお待ちになって下さい!」
「ええ。お姉様は気まぐれだから、そのうちひょっこり帰って来るに決まってます!どうか帰らないで下さい!」
「しかし…」
だが、2人は俺の袖を握りしめて離そうとしない。
「分かりました…。但し18時まで待ってアゼリアが戻らなければ帰らせて頂きますからね」
俺はとうとう諦めることにした。この2人はアゼリアの母と妹。無下にすることは出来なかった。大丈夫…きっとすぐに帰ってくるだろう。俺はこの2人の言葉を信じた。
だが、結局アゼリアは帰ってこなかった。俺は18時まで滞在させられ、ようやく屋敷を出ることが出来た。
「くそっ…!アゼリアめ…っ!」
すっかり暗くなった空の下、イライラしながら馬に乗って門扉を目指していた時、屋敷の敷地内にある噴水前で俺は見た。辻馬車から降りてきたアゼリアの姿を…。
途端に俺の中でアゼリアに対する激しいい怒りが沸き起こった。
そして俺は馬に乗ったままゆっくりアゼリアに近付いた―。
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