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1−2 サチの場合 2
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チーン
鐘を鳴らし、大学へ行く前にリビングに置かれた小さな仏壇に手を合わせていた。
するとそこへ背広姿のお兄ちゃんが慌ただしくやって来て声を掛けてきた。
「ごめん、サチ。今夜も仕事が遅くなりそうなんだ、それに朝ごはんせっかく用意してくれたのに……食べる時間無かったよ」
申し訳無さそうに謝ってくるお兄ちゃん。
「え?嘘!もう仕事に行くの?だってまだ6時だよ?!家から会社までは1時間半もあれば行けるのに?!」
「うん、それが今日は日帰りで……長野に出張なんだ」
「ええ?!長野まで?!この間は愛媛県まで行ってきたばかりじゃない!どうしてそんなに出張ばかりなのよ!」
「うん……それが新しく天然水を開発するから上司の付き添いで現場の人と打ち合わせについて行かないとならないんだよ」
「だ、だけど……知ってる?お兄ちゃん、今自分がどれだけ顔色が悪いか!」
私はお兄ちゃんの腕を掴んだ。
「え?そ、そうかな?」
「そうだよ!青白い顔で、疲れ切った顔して……ま、まるで今のお兄ちゃんを見ていると過労死したお母さんを思い出すじゃない……!」
気付けば自分の声が涙声になっている。
「サ、サチ……」
「お兄ちゃんまで……お母さんみたいに死んじゃったらどうするのよ!私まだ20歳なんだよ?!まだ……大学生だし……もし、万一お兄ちゃんに何かあったら1人でなんて生きていけないよ!」
気付けばお兄ちゃんにしがみついていた。すると……。
「馬鹿だなぁ。サチは」
お兄ちゃんの大きな手が私の頭に乗せられる。
「僕が死ぬはずないだろう?まだ25歳なんだから。それに母さんと違って体力だってあるし。大切な妹をたった1人残して先に死ぬわけないじゃないか?」
「お、お兄ちゃん……」
「それに、今日仕事に行けば明日からはGWに入るだろう?久しぶりにドライブでも行こうか?」
お兄ちゃんは笑いながら私に話しかけてくる。
いつもそうだ、お兄ちゃんは優しすぎる。だから時々心配になってしまう。その優しがいつか仇になってしまうのではないかと……。
「ドライブなんていいよ!私のことよりも彼女とでも一緒に過ごしたら?」
すると、寂しげにお兄ちゃんは笑った。
「彼女なら、この間別れたよ」
「え?」
驚いて顔を上げると、お兄ちゃんは私から離れていく。
「それじゃ、仕事に行ってくるよ。帰りは何時になるか分からないから、僕の食事は用意しなくていいからね」
そしてお兄ちゃんは慌ただしく家を出ていった。
「お兄ちゃん……また彼女と別れちゃったの……?」
やっぱり高校生の時に付き合っていた彼女のことが忘れられないのかな?
あんなに彼女のこと嬉しそうに話していたのに……ある日、突然音信不通になってしまった彼女のことが。
あのときのお兄ちゃんの落胆した姿は言葉に出来ないほどだった。
私は一度も会ったことはなかったけれど、大切なお兄ちゃんを傷つけた彼女のことが許せない。
きっとあのときのことを今も引きずっているから、お兄ちゃんは新しく彼女が出来てもあまり長続きしないのかもしれない。
まぁ、お兄ちゃん子の私にしてみればこれは嬉しいことでもあるのだけど。
「よし!今夜は食事用意しなくていいって言ってたけど……何か元気が出そうな料理を作ろうかな!」
そして、この日のメニューはスパイスの効いたドライカレーを作った。
けれど、結局お兄ちゃんは私が寝るまで家に帰宅することは無かった――。
鐘を鳴らし、大学へ行く前にリビングに置かれた小さな仏壇に手を合わせていた。
するとそこへ背広姿のお兄ちゃんが慌ただしくやって来て声を掛けてきた。
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申し訳無さそうに謝ってくるお兄ちゃん。
「え?嘘!もう仕事に行くの?だってまだ6時だよ?!家から会社までは1時間半もあれば行けるのに?!」
「うん、それが今日は日帰りで……長野に出張なんだ」
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気付けば自分の声が涙声になっている。
「サ、サチ……」
「お兄ちゃんまで……お母さんみたいに死んじゃったらどうするのよ!私まだ20歳なんだよ?!まだ……大学生だし……もし、万一お兄ちゃんに何かあったら1人でなんて生きていけないよ!」
気付けばお兄ちゃんにしがみついていた。すると……。
「馬鹿だなぁ。サチは」
お兄ちゃんの大きな手が私の頭に乗せられる。
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「お、お兄ちゃん……」
「それに、今日仕事に行けば明日からはGWに入るだろう?久しぶりにドライブでも行こうか?」
お兄ちゃんは笑いながら私に話しかけてくる。
いつもそうだ、お兄ちゃんは優しすぎる。だから時々心配になってしまう。その優しがいつか仇になってしまうのではないかと……。
「ドライブなんていいよ!私のことよりも彼女とでも一緒に過ごしたら?」
すると、寂しげにお兄ちゃんは笑った。
「彼女なら、この間別れたよ」
「え?」
驚いて顔を上げると、お兄ちゃんは私から離れていく。
「それじゃ、仕事に行ってくるよ。帰りは何時になるか分からないから、僕の食事は用意しなくていいからね」
そしてお兄ちゃんは慌ただしく家を出ていった。
「お兄ちゃん……また彼女と別れちゃったの……?」
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あのときのお兄ちゃんの落胆した姿は言葉に出来ないほどだった。
私は一度も会ったことはなかったけれど、大切なお兄ちゃんを傷つけた彼女のことが許せない。
きっとあのときのことを今も引きずっているから、お兄ちゃんは新しく彼女が出来てもあまり長続きしないのかもしれない。
まぁ、お兄ちゃん子の私にしてみればこれは嬉しいことでもあるのだけど。
「よし!今夜は食事用意しなくていいって言ってたけど……何か元気が出そうな料理を作ろうかな!」
そして、この日のメニューはスパイスの効いたドライカレーを作った。
けれど、結局お兄ちゃんは私が寝るまで家に帰宅することは無かった――。
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