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『灰被り姫』の姉の場合 5
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1
母トレメインがジェイムズ伯爵と再婚して、早3年の月日が流れた。
アナスタシアはアルコールランプの下で3年前に自分が書いた回顧録を読み返してみた。
「う~ん・・・おかしいわね・・・。私が今迄辿って来た世界ではとっくにお父様は亡くなっているのに、未だにお元気だわ。それに・・・母との仲も良いし・・・おまけにあれ程エラを虐めていたドリゼラは最近エラと少し仲が良くなった気もするし・・。」
アナスタシアは羽ペンで頭をカリカリとかくと、日記帳を取り出した。その時―
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。そして父の声がした。
「アナスタシア。まだ起きていたかい?」
アナスタシアはストールを肩から掛けると、ドアを開けた。
「はい、お父様。まだ起きておりましたが?」
「ああ、良かった。実はアナスタシアに相談したい事があったのだよ。今年の収穫された穀類は何処の国に出荷すれば儲けが出るのか相談したくてね。夜分にすまないが私の書斎に来て貰えないか?」
「はい、そういう事でしたら、是非相談に乗らせて頂きます。部屋で準備をしてまいりますので、お父様は先に書斎でお待ちください。」
「すまないね。アナスタシア。では資料を用意しておくからね?」
「はい、私もこの間作成した統計表を持って伺いますから。」
そしてドリゼラは一度部屋に戻ると、ひきだしを開け、この間ハンスと作成した今年度の穀類、果実などの取れ高の統計表を取り出すと、急ぎ足で父、ジェイムズの元を訪れた—。
「本当にありがとう、アナスタシア。それでは明日、船に乗ってアナスタシアが提示してくれた国に行って来るよ」
「はい、お父様。本当は・・・私も付いて行きたいのは山々ですが、ハンスと一緒に品種改良の実験をしなければなりませんので・・・。」
ジェイムズはアナスタシアの言葉に顔をほころばせた。
「アナスタシア。本当に君は良く出来た娘だね。どうだい?将来は婿を取って、この家を継いでもらえないだろうか?アナスタシアのお陰で、本当にこの領地は発展した。領民達が君の事を何て呼んでいるか知ってるかい?」
「?いいえ・・・?」
アナスタシアは首を傾げた。
「『農業の女神』と呼ばれているんだよ?君は。」
アナスタシアはその言葉を聞いて顔が思わず真っ赤になった。
「そ、それは・・・最高の誉め言葉ですね・・・。私はそれ程大した人間ではありませんのに・・・。」
「何を言っているんだい。アナスタシアはもう18歳だ。それなのに若い娘たちとのお茶会は愚か、お城のダンスパーティーにすら行った事がないじゃないか。ドリゼラやエラは、それこそ何回も出席していると言うのに・・・。その度に彼女達には新しいドレスをせがまれて大変だよ。」
ジェイムズは頭を抱えながら言った。
「まあお父様。それ位は良いでは無いですか。普段は新しいドレスを新調させたり、アクセサリーを購入させる事は彼女達には禁止しているので、特別なイベントの時くらいはプレゼントをしなければ不満が爆発し、その反動で散財してしまうかもしれません。普段は締めた生活をさせているので、たまにはガス抜きが必要なんですよ。」
(そうよ・・・この事は私の繰り返した歴史で経験済みなんだから・・・!)
するとジェイムズは目を丸くして言った。
「本当にアナスタシアは賢いね。まだ18歳だと言うのに・・・まるで全てを知り尽くしているかのように博識だけでなく人の心理についても詳しいのだから・・。本当に爵位を継ぐこと・・・よく考えておいておくれ?」
ジェイムズはアナスタシアの頭を撫でながら笑みを浮かべた—。
2
父、ジェイムズが出向してから半月が経過したころ・・・・。
ハンスとアナスタシアが小屋の中で新しい苗の品種改良の研究をしている所へ、エラがやって来た。
「ねえ、お姉さま。ちょといいかしら?」
「あら、珍しいわね、エラ。ここは臭いがきついからと言って、いつも入って来なかったのに。何か用かしら?」
アナスタシアが作業の手を休めるとエラを見た。
「実はね、お姉さま。来週お城で舞踏会があるの。だからまたドレスやアクセサリーを新調したいのだけど・・・いいでしょう?」
今年15歳になったエラは、とても美しく成長していた。
「今回はね、今年流行りの薄紫色のドレスを新調したいの・・・ねえ、いいでしょう?」
「そうねえ・・・。それじゃエラ。今回はドレスは慎重してもいいけど、靴やアクセサリーは我慢なさい?」
「ええ~・・・そんなあ・・・。」
エラは不満そうに顔を膨らませる。するとアナスタシアは言った。
「その代わり、ドレスに関してはお金を幾らかけても構わないわ。それにアクセサリーは2年前に一度だけ参加した仮面舞踏会でつけたアクセサリーがあるでしょう?それを使えばいいじゃないの。靴だって先月買った靴があるでしょう?それにちょっとだけ、飾りつけをすればきっと素敵よ?」
エラはアナスタシアのアドバイスをじっと聞いている。すると、それが凄く良いアドバイスのようにエラは感じた。
「そうね、お姉さまの言う通りかもね。それじゃ早速仕立て屋さんを呼んでもいい?」
するとアナスタシアは言った。
「待って、エラ。御贔屓にしている仕立て屋があるの。そこなら他の店よりも格安で仕立ててくれるわ。私からそこにお願いしておくから、少し待っていて頂戴?」
「はい、お姉さま。でも・・出来るだけ早くお願いしてね?」
「はいはい、分かったわ。今日中にお願いしに行くから心配しないで頂戴。」
するとエラは安心したのか、ニコリと笑うとハンスに声を掛けた。
「フフ・・ハンス。又ね?」
そしてあろう事か、つるりとハンスの頬を右手で撫でるとウィンクをして、走り去って行った。
アナスタアはハンスをチラリと見ると、彼の顔は真っ赤になっている。
「ハンス・・・あなた、もしやエラと・・?」
「ち、違いますよっ!あれは・・・エラ様が突然・・・。た、確かにエラ様は最近俺に良く声を掛けて来たり、腕を組んできたりしますが・・・俺には別に好きな女性がちゃんといるんですからっ!」
自棄にムキになるハンス。
「まあ、そうなの?エラほどの美少女に思われているのに・・・ハンス。貴方に好きな女性がいたなんて・・・・。でも・・・フフフフ・・。若い領民たちの間で大人気のハンスのハートを射止めた女性って・・・どんな女性なのかしらね?」
アナスタシアはクスクス笑いながら言う。ハンスはこの土地へやってきて、見違えるほど逞しい青年に成長した。顔にあったそばかすは消え、精悍な顔つきに変化し、農作業で鍛え抜かれた身体に、高身長。今や若い領民たちの高根の花のような存在へとなっていた。
「ア、アナスタシア様っ!お、俺の好きな女性は・・・・。」
ハンスがそこまで言いかけた時、アナスタシアが言った。
「あ、御免さないね。ハンス。エラと約束をしてしまったから、今から町の仕立て屋に行って来なくちゃ。悪いけど・・続きはお願い出来るかしら?」
エプロンを外しながら言うアナスタシアにハンスは声を掛けた。
「アナスタシア様は・・・今回も出席されないのですか・・?」
「ええ、行かないわ。3人で行ったらお金もかかるでしょう?以前よりだいぶましになったとはいえ・・・まだまだ豊かとはいえないと思うのよ。領民たちに我慢を強いて、自分達だけ楽しむなんて事は私には出来ないわ。それに、私には似合わないわよ。舞踏会なんて・・・だって、こんなに農作業で荒れた手をしているし・・顔も日焼けしてしまっているから・・・。」
「アナスタシア様・・・。」
ハンスはアナスタシアがどことなく寂しげに語っている気がした。確かに今の姿のアナスタシアはとても伯爵令嬢には見えない。
だが、ハンスは知っていた。
アナスタシアはきちんとした身なりをすればどれ程美しい女性であるか・・・そしてその薄汚れた服の下にはどれ程、魅力的な身体を隠し持っているのかを―。
母トレメインがジェイムズ伯爵と再婚して、早3年の月日が流れた。
アナスタシアはアルコールランプの下で3年前に自分が書いた回顧録を読み返してみた。
「う~ん・・・おかしいわね・・・。私が今迄辿って来た世界ではとっくにお父様は亡くなっているのに、未だにお元気だわ。それに・・・母との仲も良いし・・・おまけにあれ程エラを虐めていたドリゼラは最近エラと少し仲が良くなった気もするし・・。」
アナスタシアは羽ペンで頭をカリカリとかくと、日記帳を取り出した。その時―
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。そして父の声がした。
「アナスタシア。まだ起きていたかい?」
アナスタシアはストールを肩から掛けると、ドアを開けた。
「はい、お父様。まだ起きておりましたが?」
「ああ、良かった。実はアナスタシアに相談したい事があったのだよ。今年の収穫された穀類は何処の国に出荷すれば儲けが出るのか相談したくてね。夜分にすまないが私の書斎に来て貰えないか?」
「はい、そういう事でしたら、是非相談に乗らせて頂きます。部屋で準備をしてまいりますので、お父様は先に書斎でお待ちください。」
「すまないね。アナスタシア。では資料を用意しておくからね?」
「はい、私もこの間作成した統計表を持って伺いますから。」
そしてドリゼラは一度部屋に戻ると、ひきだしを開け、この間ハンスと作成した今年度の穀類、果実などの取れ高の統計表を取り出すと、急ぎ足で父、ジェイムズの元を訪れた—。
「本当にありがとう、アナスタシア。それでは明日、船に乗ってアナスタシアが提示してくれた国に行って来るよ」
「はい、お父様。本当は・・・私も付いて行きたいのは山々ですが、ハンスと一緒に品種改良の実験をしなければなりませんので・・・。」
ジェイムズはアナスタシアの言葉に顔をほころばせた。
「アナスタシア。本当に君は良く出来た娘だね。どうだい?将来は婿を取って、この家を継いでもらえないだろうか?アナスタシアのお陰で、本当にこの領地は発展した。領民達が君の事を何て呼んでいるか知ってるかい?」
「?いいえ・・・?」
アナスタシアは首を傾げた。
「『農業の女神』と呼ばれているんだよ?君は。」
アナスタシアはその言葉を聞いて顔が思わず真っ赤になった。
「そ、それは・・・最高の誉め言葉ですね・・・。私はそれ程大した人間ではありませんのに・・・。」
「何を言っているんだい。アナスタシアはもう18歳だ。それなのに若い娘たちとのお茶会は愚か、お城のダンスパーティーにすら行った事がないじゃないか。ドリゼラやエラは、それこそ何回も出席していると言うのに・・・。その度に彼女達には新しいドレスをせがまれて大変だよ。」
ジェイムズは頭を抱えながら言った。
「まあお父様。それ位は良いでは無いですか。普段は新しいドレスを新調させたり、アクセサリーを購入させる事は彼女達には禁止しているので、特別なイベントの時くらいはプレゼントをしなければ不満が爆発し、その反動で散財してしまうかもしれません。普段は締めた生活をさせているので、たまにはガス抜きが必要なんですよ。」
(そうよ・・・この事は私の繰り返した歴史で経験済みなんだから・・・!)
するとジェイムズは目を丸くして言った。
「本当にアナスタシアは賢いね。まだ18歳だと言うのに・・・まるで全てを知り尽くしているかのように博識だけでなく人の心理についても詳しいのだから・・。本当に爵位を継ぐこと・・・よく考えておいておくれ?」
ジェイムズはアナスタシアの頭を撫でながら笑みを浮かべた—。
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父、ジェイムズが出向してから半月が経過したころ・・・・。
ハンスとアナスタシアが小屋の中で新しい苗の品種改良の研究をしている所へ、エラがやって来た。
「ねえ、お姉さま。ちょといいかしら?」
「あら、珍しいわね、エラ。ここは臭いがきついからと言って、いつも入って来なかったのに。何か用かしら?」
アナスタシアが作業の手を休めるとエラを見た。
「実はね、お姉さま。来週お城で舞踏会があるの。だからまたドレスやアクセサリーを新調したいのだけど・・・いいでしょう?」
今年15歳になったエラは、とても美しく成長していた。
「今回はね、今年流行りの薄紫色のドレスを新調したいの・・・ねえ、いいでしょう?」
「そうねえ・・・。それじゃエラ。今回はドレスは慎重してもいいけど、靴やアクセサリーは我慢なさい?」
「ええ~・・・そんなあ・・・。」
エラは不満そうに顔を膨らませる。するとアナスタシアは言った。
「その代わり、ドレスに関してはお金を幾らかけても構わないわ。それにアクセサリーは2年前に一度だけ参加した仮面舞踏会でつけたアクセサリーがあるでしょう?それを使えばいいじゃないの。靴だって先月買った靴があるでしょう?それにちょっとだけ、飾りつけをすればきっと素敵よ?」
エラはアナスタシアのアドバイスをじっと聞いている。すると、それが凄く良いアドバイスのようにエラは感じた。
「そうね、お姉さまの言う通りかもね。それじゃ早速仕立て屋さんを呼んでもいい?」
するとアナスタシアは言った。
「待って、エラ。御贔屓にしている仕立て屋があるの。そこなら他の店よりも格安で仕立ててくれるわ。私からそこにお願いしておくから、少し待っていて頂戴?」
「はい、お姉さま。でも・・出来るだけ早くお願いしてね?」
「はいはい、分かったわ。今日中にお願いしに行くから心配しないで頂戴。」
するとエラは安心したのか、ニコリと笑うとハンスに声を掛けた。
「フフ・・ハンス。又ね?」
そしてあろう事か、つるりとハンスの頬を右手で撫でるとウィンクをして、走り去って行った。
アナスタアはハンスをチラリと見ると、彼の顔は真っ赤になっている。
「ハンス・・・あなた、もしやエラと・・?」
「ち、違いますよっ!あれは・・・エラ様が突然・・・。た、確かにエラ様は最近俺に良く声を掛けて来たり、腕を組んできたりしますが・・・俺には別に好きな女性がちゃんといるんですからっ!」
自棄にムキになるハンス。
「まあ、そうなの?エラほどの美少女に思われているのに・・・ハンス。貴方に好きな女性がいたなんて・・・・。でも・・・フフフフ・・。若い領民たちの間で大人気のハンスのハートを射止めた女性って・・・どんな女性なのかしらね?」
アナスタシアはクスクス笑いながら言う。ハンスはこの土地へやってきて、見違えるほど逞しい青年に成長した。顔にあったそばかすは消え、精悍な顔つきに変化し、農作業で鍛え抜かれた身体に、高身長。今や若い領民たちの高根の花のような存在へとなっていた。
「ア、アナスタシア様っ!お、俺の好きな女性は・・・・。」
ハンスがそこまで言いかけた時、アナスタシアが言った。
「あ、御免さないね。ハンス。エラと約束をしてしまったから、今から町の仕立て屋に行って来なくちゃ。悪いけど・・続きはお願い出来るかしら?」
エプロンを外しながら言うアナスタシアにハンスは声を掛けた。
「アナスタシア様は・・・今回も出席されないのですか・・?」
「ええ、行かないわ。3人で行ったらお金もかかるでしょう?以前よりだいぶましになったとはいえ・・・まだまだ豊かとはいえないと思うのよ。領民たちに我慢を強いて、自分達だけ楽しむなんて事は私には出来ないわ。それに、私には似合わないわよ。舞踏会なんて・・・だって、こんなに農作業で荒れた手をしているし・・顔も日焼けしてしまっているから・・・。」
「アナスタシア様・・・。」
ハンスはアナスタシアがどことなく寂しげに語っている気がした。確かに今の姿のアナスタシアはとても伯爵令嬢には見えない。
だが、ハンスは知っていた。
アナスタシアはきちんとした身なりをすればどれ程美しい女性であるか・・・そしてその薄汚れた服の下にはどれ程、魅力的な身体を隠し持っているのかを―。
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