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第4話 私とジルベールと愛人と
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コンコン
「…」
もうすぐ12時になろうとしているのに、部屋の中は無反応だ。私は再度扉をノックした。
コンコン
やはり、それでも何も反応は無い。全く…。心の中で溜息をつく。試しにドアノブを握って回してみるとカチャリと動く手応えがあった。どうやら鍵はかけていないようだ。
「入るわね、ジルベール」
一応断りを入れて扉を開けると部屋の中は分厚いカーテンが引かれ、昼間だと言うのに部屋はとても薄暗かった。
「…やっぱりまだ寝ているのね」
溜息をつくと私は部屋の中に入ると、天蓋付きの大きなベッドへと近付いた。
「…」
やはり、思った通りベッドの中にはジルベールの腕枕の上に頭を乗せて眠っているイザベラの姿がある。2人共、何も身に着けていないのは明らかだった。私が傍に立っていることにすら気付いていない。
まだ結婚したての頃、2人の関係を全く知らなかった私はショックを受け、自分の部屋に閉じこもって泣き崩れた。ジルベールには何度も彼女と別れて欲しいと訴えても全く聞き入れては貰えなかった。それだけではない。この事が屋敷中に知れ渡り、私はイザベラや使用人達からすっかり見下されるようになってしまったのだ。
この一件で私の中にあったジルベールへの恋慕の思いは消え去り、今では2人の何を見ても心は一切動じず、感じなくなっていた。
「仕方ないわね」
今日はどうしてもジルベールに伝えなければいけない大切な話がある。何としても彼を起こさなければ。そう思った私はベッドから離れ、窓に近付いた。
シャーッ!
無語で分厚いカーテンを思い切り引くと、部屋の中一杯に太陽の光が降り注ぐ。
「うわっ!眩しいっ!」
恐らく太陽の光が直撃したのだろう。ジルベールの声が背後で聞こえた。
「いやっ!眩しいっ!」
同時にイザベラの声も聞こえて来た。2人が同時に目を覚ました事だし、ついでに部屋の中にこもった濁り切った空気を入れ替える為に窓を開けた。
「リ、リディアッ?!な、何でここにいるんだ?!」
背中を向けて窓を開け放していると、ジルベールが私に向かって声を掛けてきた。振り向くと視線をこちらに向けてベッドから身体を起こしたジルベールがいる。恐らく太陽を背にした私の姿が眩しいのだろう。彼は目を細めて私を見ていた。
「キャアッ!な、何故貴女がここにいるのよっ!早く出て言って頂戴っ!」
キルトケットで身体を隠すようにしてイザベラが私に出ていく様に命じる。
「ここは、本来であれば私とジルベールが使う寝室です。むしろ出て行くべきはイザベラ。貴女ではありませんか?」
すると私の言葉が気に障ったのか、イザベラの顔色が変わった。
「な、何ですって…?何故私が出て行かなければならないの?!私はもう4年前からずっとジルベールの恋人だったのよ?むしろ出て行くのは貴女の方でしょう?!」
イザベラは起きたばかりだと言うのに、声を荒げて私に文句を言って来る。起きたばかりだと言うのに、頭は回っている様だ。
「それを言うなら私は生まれた時からジルベールと結婚する事が決まっていました。むしろこの部屋から出て行くのは…愛人である貴女の方ではありませんか?」
すると…。
「あ、愛人ですって…?酷いわっ!」
イザベラは目に涙を浮かべると、傍らにいるジルベールに縋りつくと言った。
「ねぇ!今の言葉聞いたっ?!あ、あの女…私にこの部屋から出て行けと言ったのよ?!し、しかも…わ、私の事を愛人だなんて…っ!」
そしてジルベールの腕の中で顔を覆い、肩を震わせて泣きだした。
「よしよし…可愛そうに…」
ジルベールはイザベラを抱きしめて髪を撫でながら言うと、次に私を見た。
「リディア、イザベラに謝るんだ。そして速やかに部屋を出て行ってくれ」
彼は妻である私にとんでも無いことを言って来た―。
「…」
もうすぐ12時になろうとしているのに、部屋の中は無反応だ。私は再度扉をノックした。
コンコン
やはり、それでも何も反応は無い。全く…。心の中で溜息をつく。試しにドアノブを握って回してみるとカチャリと動く手応えがあった。どうやら鍵はかけていないようだ。
「入るわね、ジルベール」
一応断りを入れて扉を開けると部屋の中は分厚いカーテンが引かれ、昼間だと言うのに部屋はとても薄暗かった。
「…やっぱりまだ寝ているのね」
溜息をつくと私は部屋の中に入ると、天蓋付きの大きなベッドへと近付いた。
「…」
やはり、思った通りベッドの中にはジルベールの腕枕の上に頭を乗せて眠っているイザベラの姿がある。2人共、何も身に着けていないのは明らかだった。私が傍に立っていることにすら気付いていない。
まだ結婚したての頃、2人の関係を全く知らなかった私はショックを受け、自分の部屋に閉じこもって泣き崩れた。ジルベールには何度も彼女と別れて欲しいと訴えても全く聞き入れては貰えなかった。それだけではない。この事が屋敷中に知れ渡り、私はイザベラや使用人達からすっかり見下されるようになってしまったのだ。
この一件で私の中にあったジルベールへの恋慕の思いは消え去り、今では2人の何を見ても心は一切動じず、感じなくなっていた。
「仕方ないわね」
今日はどうしてもジルベールに伝えなければいけない大切な話がある。何としても彼を起こさなければ。そう思った私はベッドから離れ、窓に近付いた。
シャーッ!
無語で分厚いカーテンを思い切り引くと、部屋の中一杯に太陽の光が降り注ぐ。
「うわっ!眩しいっ!」
恐らく太陽の光が直撃したのだろう。ジルベールの声が背後で聞こえた。
「いやっ!眩しいっ!」
同時にイザベラの声も聞こえて来た。2人が同時に目を覚ました事だし、ついでに部屋の中にこもった濁り切った空気を入れ替える為に窓を開けた。
「リ、リディアッ?!な、何でここにいるんだ?!」
背中を向けて窓を開け放していると、ジルベールが私に向かって声を掛けてきた。振り向くと視線をこちらに向けてベッドから身体を起こしたジルベールがいる。恐らく太陽を背にした私の姿が眩しいのだろう。彼は目を細めて私を見ていた。
「キャアッ!な、何故貴女がここにいるのよっ!早く出て言って頂戴っ!」
キルトケットで身体を隠すようにしてイザベラが私に出ていく様に命じる。
「ここは、本来であれば私とジルベールが使う寝室です。むしろ出て行くべきはイザベラ。貴女ではありませんか?」
すると私の言葉が気に障ったのか、イザベラの顔色が変わった。
「な、何ですって…?何故私が出て行かなければならないの?!私はもう4年前からずっとジルベールの恋人だったのよ?むしろ出て行くのは貴女の方でしょう?!」
イザベラは起きたばかりだと言うのに、声を荒げて私に文句を言って来る。起きたばかりだと言うのに、頭は回っている様だ。
「それを言うなら私は生まれた時からジルベールと結婚する事が決まっていました。むしろこの部屋から出て行くのは…愛人である貴女の方ではありませんか?」
すると…。
「あ、愛人ですって…?酷いわっ!」
イザベラは目に涙を浮かべると、傍らにいるジルベールに縋りつくと言った。
「ねぇ!今の言葉聞いたっ?!あ、あの女…私にこの部屋から出て行けと言ったのよ?!し、しかも…わ、私の事を愛人だなんて…っ!」
そしてジルベールの腕の中で顔を覆い、肩を震わせて泣きだした。
「よしよし…可愛そうに…」
ジルベールはイザベラを抱きしめて髪を撫でながら言うと、次に私を見た。
「リディア、イザベラに謝るんだ。そして速やかに部屋を出て行ってくれ」
彼は妻である私にとんでも無いことを言って来た―。
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