婚約破棄を受け入れたいのに、強気な彼に反対されて出来ません

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アルト・クライス ⑤

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 放課後―

 結局、今日はエイミーと話す事が出来なかった。気付いた時には既にエイミーは教室から消えてしまっていたからだ。

「エイミー…帰ってしまったのか…」

思わずポツリと呟くとジャスティンが声を掛けてきた。

「まぁ確かにエイミーは帰ってしまったけれど、どうせ放課後はいつも別々に帰っていただろう?余り気にするなよ」

「ジャスティン…」

言われてみれば確かにそうだ。放課後はいつもエイミーとは別行動をしているんだから、ここでエイミーが先に帰ってしまったからと言って気に病む必要は何も無いんだ。

よし、今日はエイミーの屋敷に行くことにしよう。ビクトリアには断りを入れるんだ。そして僕はいつものようにアカデミーの旧校舎…誰も立ち入る事が無い資料室へ向かった―。


****

 資料室へ到着すると、扉をそっと開けてみた。すると既にそこにはビクトリアが椅子に座って本を読んでいた。

「ビクトリア…」

そっと声を掛けると、ビクトリアが顔を上げて僕を見た。

「あ!アルトッ!」

そして本を閉じると僕の元へとやってくる。

どうしたの?アルト…今日は随分遅かったじゃない…」

何処かなじるような口調でビクトリアが僕に言う。

「うん、ごめんね。遅くなって」

「う~ん…でもまぁいいわ。普段はアルトが待ってくれているのだものね。それで?昨日はエイミーさんとの婚約式が駄目になってしまったけれど…ちゃんと彼女に伝えることが出来たのでしょう?婚約破棄の話」

ビクトリアが僕の腕に絡みつきながら尋ねてきた。

「ごめん…まだ出来ていないんだ」

途端にビクトリアが声を荒らげた。

「ええっ?!どうしてよっ!どうしてまだ話していないのっ?!あの後、エイミーさんの家に行って婚約破棄の事伝えなかったの?!」

「そんな事…言えるはずないじゃないか…。だってエイミーは具合が悪くて婚約式を欠席したんだよ。そんな体調が悪い彼女の所へ行って…婚約破棄の話…出来るはず無いじゃないか」

するとビクトリアが眉をしかめた。

「え?つまりそれって…昨日はエイミーさんに会っていないっていうの?」

「う、うん。そうだよ」

「それじゃ…お見舞いにも行ってないっていうわけね?」

「そうだけど…?だって、お見舞いに行って顔を合わそうものなら…婚約破棄を伝えなくちゃいけないと思ったから」

「何よ?それって遠回しにエイミーさんのお見舞いに行かなかったのは私のせいだって言いたいの?私が婚約破棄の話をするようにお願いしたせいだって言うのね?」

「い、いや。そこまでの事は言ってないけど…」

「それだけじゃないわ。今日はエイミーさん登校していたわよ?なのに何故婚約破棄を伝えていないのよ!」

「それが…今日に限って何故かエイミーがずっと僕の事を避け続けていたんだよ。だから伝えることが出来なくて…」

だけど、本当にそうだろうか…?

僕は自分自身に自問自答していた。

すると僕の心を見透かしたようビクトリアが言った。

「いいえ、違うわ。そんなのいいわけよ!貴方は婚約破棄を言い出す勇気が無いだけよ!だからそうやって言い訳を作って逃げているのよっ!」

それだけ言うと、ビクトリアは資料室を涙目で飛び出してしまった。

「待って!ビクトリアッ!」

慌てて追いかけると、廊下を走っていた彼女が振り返りると言った。

「来ないでっ!兎に角今日中にエイミーさんに婚約破棄を伝えてこない限り、アルトとは口を利かないから!」

そしてビクトリアはそのまま走り去ってしまった―。
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