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第5話 これが私の勝負服
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「どうでしょう? お嬢様、このお洋服等可愛らしくてお似合いだと思いますよ?」
女性店員が私に勧めてきたのはピンク色に、フリル、レースがたっぷりあしらわれたワンピースだった。さながらロリータ服そっくりだった。
「う……」
思わずしかめっ面になってしまう。
別に私はロリータ服を否定するわけではない。まるでフランス人形が着るようなドレスは、見ている分には素敵だと思う。
しかし、それを自分が着るとなると話は違ってくる。しかもこれから私はハンスに連れられて飲み屋に行くのだから。こんな姫のような服を着るわけにはいかない。
「あの~……せっかく選んでいただいたのに、申し訳ないのですが自分で選んでもよろしいでしょうか?」
「え? お嬢様がお一人で……?」
「はい、そうです」
明らかに軽蔑したような眼差しを向ける女性店員。恐らく私のように小汚く、貧乏そうな小娘ごときが服など選べるはずがないだろう……と思っているに違いない。
「それは……別に構いませんが……最終的に選ばるのはお客様のご意思にお任せしておりますので」
「では、自分で選ばせていただきますね?」
私は、にっこり微笑んだ――
****
「お待たせいたしました。ハンスさん」
女性店員と待ち合わせ場所に現れた私を見て、目を見開くハンス
「え……と……ど、どちら様……でしょうか……?」
椅子に座っていたハンスは驚いたように立ち上がる。
「あら? 分かりませんか? 私ですよ。アンナです」
「え……ええっ!? ア、アンナッ!? い、一体その格好は……?」
ハンスは真っ赤になり、目を伏せた。
フフフ……恐らく目のやり場に困っているのだろう。何しろ今の私は胸の谷間がくっきり見えるVカットの身体にぴったりフィットしたスレンダーなドレスを着ているからだ。ちなみにドレスの色は真っ赤である。
いわゆるキャバドレスをイメージしてくれれば分かりやすいだろう。
ちなみに化粧もしているし、髪はゆるく巻き上げている。
こんな格好で現れれば、ハンスが私だと分からなくても当然だろう。
それにしても着替えをするまで気付かなかった。アンナってまだ15~6歳なのに発育が良いのだろう。身体つきだけ見れば、もう立派な大人の女性である。
「ど、どうしてそんな格好をしているんだい?」
私から視線をそらし、真っ赤な顔で尋ねるハンス。
「申し訳ございません……私は反対したのですが、お嬢様がどうしてもこのドレスが良いと申されたので……」
何故かハンスに謝る女性店員。やはりハンスはVIP対応の客なのかもしれない。
「え? そ、そうだったの? そのドレス……アンナが自分で選んだの?」
チラチラ横目で私を見るハンス。
「ええ、勿論です。これから飲み屋さんに行くのですよね? それならこのくらいの格好をしないと」
「ええ!? 何でそんな格好する必要があるんだい? だ、大体……恥ずかしくないのかい?」
恥ずかしい? ええ、それはもう恥ずかしいに決まっている。いつもパンツスーツを着用していた私はこんなに露出の激しい服など着たこともない。
けれど、私はこれから飲み屋で人々の注目を浴びなければならない。ミステリアスな女を演じなければならないのだ。恥ずかしい気持ちは打ち捨てなければ。
「似合いませんか?」
試しに伏し目がちに尋ねてみる。途端にますますハンスの顔は赤くなる。
「に、似合わないはずがないじゃないか! で、でも……その服だけじゃ駄目だよ!」
「え? 駄目ですか?」
「うん、そうだよ。第一……そんな薄着じゃ寒いじゃないか!」
この後、ハンスは私のためにマフラーや、ボレロ。手袋にブーツなどをプレゼントしてくれるのだった。
****
「よし、それじゃお店に行こうか? アンナ」
店を出ると、ハンスが声をかけてきた。
「ええ、行きましょう」
そして私はハンスと共に飲み屋へ向かった。
見てなさいよ……このカゴの中のマッチ、今夜全部買わせてみせるのだから。
私は闘志を燃やすのだった――
女性店員が私に勧めてきたのはピンク色に、フリル、レースがたっぷりあしらわれたワンピースだった。さながらロリータ服そっくりだった。
「う……」
思わずしかめっ面になってしまう。
別に私はロリータ服を否定するわけではない。まるでフランス人形が着るようなドレスは、見ている分には素敵だと思う。
しかし、それを自分が着るとなると話は違ってくる。しかもこれから私はハンスに連れられて飲み屋に行くのだから。こんな姫のような服を着るわけにはいかない。
「あの~……せっかく選んでいただいたのに、申し訳ないのですが自分で選んでもよろしいでしょうか?」
「え? お嬢様がお一人で……?」
「はい、そうです」
明らかに軽蔑したような眼差しを向ける女性店員。恐らく私のように小汚く、貧乏そうな小娘ごときが服など選べるはずがないだろう……と思っているに違いない。
「それは……別に構いませんが……最終的に選ばるのはお客様のご意思にお任せしておりますので」
「では、自分で選ばせていただきますね?」
私は、にっこり微笑んだ――
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「お待たせいたしました。ハンスさん」
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「え……ええっ!? ア、アンナッ!? い、一体その格好は……?」
ハンスは真っ赤になり、目を伏せた。
フフフ……恐らく目のやり場に困っているのだろう。何しろ今の私は胸の谷間がくっきり見えるVカットの身体にぴったりフィットしたスレンダーなドレスを着ているからだ。ちなみにドレスの色は真っ赤である。
いわゆるキャバドレスをイメージしてくれれば分かりやすいだろう。
ちなみに化粧もしているし、髪はゆるく巻き上げている。
こんな格好で現れれば、ハンスが私だと分からなくても当然だろう。
それにしても着替えをするまで気付かなかった。アンナってまだ15~6歳なのに発育が良いのだろう。身体つきだけ見れば、もう立派な大人の女性である。
「ど、どうしてそんな格好をしているんだい?」
私から視線をそらし、真っ赤な顔で尋ねるハンス。
「申し訳ございません……私は反対したのですが、お嬢様がどうしてもこのドレスが良いと申されたので……」
何故かハンスに謝る女性店員。やはりハンスはVIP対応の客なのかもしれない。
「え? そ、そうだったの? そのドレス……アンナが自分で選んだの?」
チラチラ横目で私を見るハンス。
「ええ、勿論です。これから飲み屋さんに行くのですよね? それならこのくらいの格好をしないと」
「ええ!? 何でそんな格好する必要があるんだい? だ、大体……恥ずかしくないのかい?」
恥ずかしい? ええ、それはもう恥ずかしいに決まっている。いつもパンツスーツを着用していた私はこんなに露出の激しい服など着たこともない。
けれど、私はこれから飲み屋で人々の注目を浴びなければならない。ミステリアスな女を演じなければならないのだ。恥ずかしい気持ちは打ち捨てなければ。
「似合いませんか?」
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「え? 駄目ですか?」
「うん、そうだよ。第一……そんな薄着じゃ寒いじゃないか!」
この後、ハンスは私のためにマフラーや、ボレロ。手袋にブーツなどをプレゼントしてくれるのだった。
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「よし、それじゃお店に行こうか? アンナ」
店を出ると、ハンスが声をかけてきた。
「ええ、行きましょう」
そして私はハンスと共に飲み屋へ向かった。
見てなさいよ……このカゴの中のマッチ、今夜全部買わせてみせるのだから。
私は闘志を燃やすのだった――
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