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第100話 またいつか会えるまで <完>

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「え?」

目が覚めると私の目に蛍光灯が飛び込んできた。

「え…?蛍光灯…?」

そんな馬鹿な。この世界に蛍光灯があるはずは…。すると、白衣を来た見知らぬ中年男性が私を覗き込んできた。でも…その面影には見覚えがある。そう…ジョシュアさんを何となく連想させた。

「目が覚めましたか?小林美穂さん」

「え…?小林美穂って…前世の私の記憶…?」

すると、背後から声を掛けられた。

「良かった…元に戻ったのですね?」

「え?」

その声に驚いて振り向くと、そこには白衣を着たケンがいたのだ。

「えっ?!ケ、ケンッ?!」

「ああ…良かった、小林さん。成功したみたいですね」

ケンは嬉しそうに言う。

「え?成功…?一体どういう…」

身体を起こすと、そこは応接室のような場所だった。部屋の至る所に観葉植物が置かれ、大きな水槽には熱帯魚が優雅に泳いでいる。

「まずは…そうですね。自分の顔を確認してみましょうか?」

ジョシュアさん?もどきの男性は手鏡を渡してきた。

「さ、どうぞ覗いてみて下さい」

「は、はい…」

クルリと鏡を自分の方に向けて…驚いた。そこに映っているのは長年見慣れていた私…「小林美穂」が映し出されている。

「え…?こ、これは一体…?」

何?一体私に身に何が起こったというのだろう?私はゲルダだったはず…。ついさっきまでシェアハウスの皆と楽しくパーティーをしていたはずでは?
何が何やら分からずに呆然としていると、ケンが言った。

「まずは外で待っている息子さんを呼びましょうか?」

「え…?息子…?」

ケンは扉へ向かうと、ガチャリと開け…何やら誰かと話している。次の瞬間―。

「母さんっ?!」

突如として部屋に飛び込んできたのは…私の息子の俊也だった。

「えっ?!俊也っ?!」

すると俊也は周りの目があるというのに、私に抱きついてくると涙混じりに言った。

「良かった…母さんが…戻ってきてくれた…」

そして肩を震わせて泣いた―。


****

 あの後、私は先生と心理学を専攻している学生、そして俊也から話を聞かされた。私がゲルダとして目覚めたあの日…実際の私は脳梗塞で死にかけていたらしい。前日に頭が痛むと俊也に電話をしていた私を心配になって様子を見に来ると、布団の中で意識を失っている私を俊也が発見。そして救急車を呼んですぐに病院へ搬送され、応急処置が施された私は目覚めた。まるきりの…別人格に変わっていた状態で…。

「別人格…?」

首を傾げると俊也が言った。

「母さんは自分の事を『ゲルダ・ノイマン』だと言って聞かなかったんだよ。そして鏡を見せたらショックで気を失ってしまったんだよ」

「え…?」

何も気を失うって…。

「それですぐに意識を取り戻したんだけど、その後が大変だったんだよ。錯乱状態で…私はこんなに年取っていないとか言い出して…家に連れ帰ればこんな狭い部屋に住めないとか泣いてさ…おまけに家電製品を見せたら悲鳴を上げるしで…」

俊也の話で徐々に私は状況を理解した。恐らく…私とゲルダはお互い、入れ替わった前世を持って生まれてきたのではないだろうかと…。そしてお互いが何らかのはずみで(恐らく私が脳梗塞で死にかけて)入れ替わってしまったのだろう。
私の状況に困り果てた俊也は私を自分たち夫婦のマンションに招き、そこで暮らし始めたらしいが一向に私が元に戻らず、何とか私を元に戻す為に色々な精神科を探し歩き…ついにここに辿り着いたらしい。

「週に3回小林さんはここに通って、カンセリングと治療を受けてきたんですよ。そして彼が僕の助手として来てくれて…状況が変化していったんです」

彼…それはまさにケンの事だった。

「催眠療法で貴女を眠らせ、色々な質問をしていくに連れ…貴女がゲルダ・ノイマンという21歳の女性であることが分かったのです。自分の前世を覚えている人がいる…と言う話は聞いたことがありましたが、恐らく小林さんがそうではないかと思ったのです。そこで色々な催眠暗示を掛けて…ようやく元の小林さんに戻すことに成功しました。ゲルダ・ノイマンという女性は…どうやら不満だらけの境遇に置かれていたようですからね。私は前世と言うものを信じていますから…ひょっとして貴女がゲルダさんと入れ替わって彼女の不満を解消してあげたのではないですか?そして小林さん自身が抱えている不満もゲルダさんが解消して…元に戻るきっかけが生まれたと私は思っているんですよ?」

ジョシュアさん似の先生はそう言って笑った―。



****

「さぁ、母さん。遠慮せずに上がってよ」

結局、私は俊也夫婦が暮らすマンションへと連れてこられた。

「おかえりさない、お義母さん」

俊也のお嫁さんの瑠美さんが招いていてれた。…瑠美さんを見た時、非常に懐かしい感情が込み上げてきた。何故なら…雰囲気がアネットに何となく似ていたからだ。

「だけど…本当にいいの?新婚夫婦の家に私なんかがお邪魔して…」

すると瑠美さんが笑いながら言った。

「何を言ってるんですか?ゲルダさんとしてお義母さんと話をするのは楽しかったですよ」

「え?!そ、それは…聞きたいような聞きたくないような…」

「ああ、本当に大変だったよ。母さんが『私はゲルダ・ノイマンよーっ』って叫んだあの時は…」

俊也が笑いながら言う。

「何言ってるのよ、貴方が一番パニックを起こしたくせに。母さんがおかしくなってしまったーって!」

瑠美さんも笑っている。

うん…。本当は私は寂しかったんだ。俊也が結婚して家を出て…あの団地に1人で暮らすことが寂しかった。仕事にうちこんでいたものの、心の何処かでは寂しさを抱えていた。そんな時、私とゲルダの前世が入れ替わり…ゲルダはラファエルと離婚でき、私は俊也と瑠美さんと暮らせるようになった。そして…私達は元に戻ったのだろう―と。



****

私が元の小林美穂に戻り、あれから1ヶ月が経過した―。


「こんにちは、小林さん」

「はい、宜しくお願いします。真鍋先生」

ジョシュア先生に似た雰囲気の心療内科医の真鍋先生に挨拶する。

「どうですか?その後は…」

「はい。今はもうすっかり元の自分を取り戻しました。パン屋も無事オープン出来たし…順調です」

「そうですか…ではもう小林さんを診察するのも…本日で終わりですか…」

真鍋先生は寂しそうに笑った。

「そうかもしれませんね」

ポツリと言うと、真鍋先生が言った。

「実は…本当はもっと小林さんから「ゲルダ・ノイマン」として暮らしていた頃の話を聞きたいのですよね…出来れば今度は診察室の外で」

「え…?」

私は顔を上げた。

「今度は…患者と医師ではなく、まずは友達として会えるでしょうか?」

そして真鍋先生は笑って私を見る。その笑い顔は…ジョシュアさんによく似ていた。

勿論…私の答えは決まっていた―。



****

「ふぅ~…今日も良い天気ね…」

私は空を見上げて…シェアハウスの住人達に想いをはせた。きっと皆は私が突然元の人格のゲルダに戻って驚いたに違いない。だけど、恐らくゲルダはうまくやっていけるだろう。だって私の記憶を引き継いでくれているだろうから。私があの世界でやれなかった事業を彼女ならやり遂げてくれるだろうと信じている。

 もう二度と皆と会うことは無いだろうけど…きっとこの世界でまた皆に会えるだろう。ブランカやジャン、ジェフにウィンター。

だって彼らもこの世界の何処かで生きているに違いないから。

ルイスや、アネット、そしてジョシュアさん…。


さよなら、皆。またいつか会えるその日まで…どうか元気で―。


<完>
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感想 196

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みんなの感想(196件)

かりりん
2022.05.27 かりりん
ネタバレ含む
結城芙由奈 
2022.05.27 結城芙由奈 

お読み頂き有難うございます。意外な結末となりましたが、楽しんで頂けて良かったです。番外編はおまけみたいなものなので、あっさり終わりますが、読んでいただけると嬉しいです★

解除
キノコ♪
2022.03.05 キノコ♪
ネタバレ含む
結城芙由奈 
2022.03.05 結城芙由奈 

題名も回収し、意表をついた終わりにしたつもりなのですが物足りなかったですか?一応、その後のゲルダの話を短編で考え中です。

解除
花散里
2022.03.05 花散里
ネタバレ含む
結城芙由奈 
2022.03.05 結城芙由奈 

以外な結末、いかがでしたか?番外編1話完結である…かもしれません

解除

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