旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
85 / 100

第85話 意味深な言葉

しおりを挟む
 私は例のタクシー会社へと来ていた。会社の敷地内には相変わらず空車のタクシーが何台も溢れ、10人近いドライバーたちが暇そうにベンチに座っている。

「あ~あ…本当に勿体ないわ…私だったらもっと有効利用してあげることが出来るのに…」

そんな事を呟きながら敷地内へ入っていくと、見知った顔の3人組がベンチに座っている事に気がついた。
あ、彼らは…。
すると、3人共私の事に気がついたのか、全員が駆け寄ってきた。

「ゲルダさん!」

真っ先に声を掛けてきたのは一番年若いハンスだった。

「来てくれたんですね?」

嬉しそうに笑みを浮かべながらクリフが言う。

「お待ちしていました」

まるで日本人のような外見のケンが最後に話しかけてきた。

「ええ、約束通り来たわ。社長はそれでいるのかしら?」

「はい、います。全然タクシー利用客が増えないのでイライラしまくっていますよ。事務員の話では既にリストラ候補のリストが出来上がってるとかいないとか…」

クリフが他のタクシードライバーたちの耳に入らないようにこっそりと言う。

「そうなのね?苛ついているけれど、会社にはいると言うことね?それじゃ早速社長の元へ行ってくるわね」

私は3人に手を振ると、タクシー会社の建物へと足を向けた―。



「失礼致します。ゲルダ・ブルームと申します。社長にお会いしたいのですが」

すると対応に当たった女性事務員が言った。

「本日、お約束はされているのでしょうか?」

「いえ、約束はしていないけれど以前も会っているわ。確か社長のお名前はカエサル・オットー氏でしたよね?」

「…!社長のお名前をご存知なんて…承知致しました!すぐに伝えてまいります!」


女性事務員は慌てたように事務所を出ていった。…良かった。前回私を対応した事務員とは別の女性で…。


 少しの間、椅子に座って待っていると先程の女性事務員が慌ただしく戻ってくると言った。

「社長が会うそうなので、こちらへどうぞ」

「そう?ありがと」

そして私は女性事務員の案内のもと…カエサル社長が待つ社長室へと向かった。



「何ですか…またいらしたのですね」

カエサル社長は社長室に現れた私を苦虫を踏み潰したかのような顔でじろりと見る。

「ええ、また来ました。でもそれも交渉次第では今日で終わりです。どうですか?前回提案したお話…考えて頂けましたか?」

ニコニコ愛想笑いをしながら私はカエサル社長を見た。

「ああ…礼のタクシーごと運転手を3名引き抜きをさせて貰いたいと言う話ですよね…」

カエサル社長は面白くなさげに言う。

「そう、その話です。どうですか?考えて頂けましたか?」

身を乗り出して尋ねる。

「う~ん…そうですなぁ…しかし、提示された金額が300万シリルとは…何しろあのタクシー1台に200万シリル注ぎ込んでいるのですよ?それを3台で300万シリルとは…」

1台200万シリル?よくもそんなでまかせを言える。私は知っているのだ。実はここのタクシーは全て中古品で購入したということを。確かに新車であれば1台200万シリル位はするかもしれないが…。私が女だと思って甘く見ているのかもしれない。

「分かりました、では交渉決裂ですね。それでは他を当たることに致します。失礼致しました」

深々と頭を下げて、立ち上がったその時―。

「あぁっ!ま、待って下さい!」

カエサル社長が食いついてきた―。



****


 それから約40分後―


タクシー会社の建物から外へ出ると、相変わらず暇そうにベンチに座っていた3人組が私の姿に気づき、駆け寄ってきた。

「ゲルダさん、どうなりましたか?!」

クリフが早速声を掛けてきた。

「ええ、ばっちりよ。貴方達3人とタクシー3台を引き抜くことが出来たわ。今日から貴方達はタクシードライバーではなく、私がオーナーになったのよ?」

「え?その話は本当ですか?」

ハンスが笑顔で尋ねてくる。

「ええ、本当よ。とりあえず、今日まではここのタクシー会社のドライバーとして籍を置いておいて頂戴。また明日顔を出すから。私は今日、この後まだ寄るところがあるからもう行くわね」

すると、突然ケンが私に近づくと耳元で囁くように言った。

「良かった、これで貴女の領域に踏み込むことが出来ました」

え…?何?それ…?

「今…何て言ったの?」

驚いてケンを見る。しかし彼はそれには答えずに言った。

「明日、お待ちしております」

「え?ええ…」

何だか聞きにくい雰囲気をケンから感じたので、私はそれ以上の事は聞けなかった。

そして悶々とした気持ちを抱えながら私は次の目的地へと向かった―。





しおりを挟む
感想 196

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

処理中です...