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第85話 意味深な言葉
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私は例のタクシー会社へと来ていた。会社の敷地内には相変わらず空車のタクシーが何台も溢れ、10人近いドライバーたちが暇そうにベンチに座っている。
「あ~あ…本当に勿体ないわ…私だったらもっと有効利用してあげることが出来るのに…」
そんな事を呟きながら敷地内へ入っていくと、見知った顔の3人組がベンチに座っている事に気がついた。
あ、彼らは…。
すると、3人共私の事に気がついたのか、全員が駆け寄ってきた。
「ゲルダさん!」
真っ先に声を掛けてきたのは一番年若いハンスだった。
「来てくれたんですね?」
嬉しそうに笑みを浮かべながらクリフが言う。
「お待ちしていました」
まるで日本人のような外見のケンが最後に話しかけてきた。
「ええ、約束通り来たわ。社長はそれでいるのかしら?」
「はい、います。全然タクシー利用客が増えないのでイライラしまくっていますよ。事務員の話では既にリストラ候補のリストが出来上がってるとかいないとか…」
クリフが他のタクシードライバーたちの耳に入らないようにこっそりと言う。
「そうなのね?苛ついているけれど、会社にはいると言うことね?それじゃ早速社長の元へ行ってくるわね」
私は3人に手を振ると、タクシー会社の建物へと足を向けた―。
「失礼致します。ゲルダ・ブルームと申します。社長にお会いしたいのですが」
すると対応に当たった女性事務員が言った。
「本日、お約束はされているのでしょうか?」
「いえ、約束はしていないけれど以前も会っているわ。確か社長のお名前はカエサル・オットー氏でしたよね?」
「…!社長のお名前をご存知なんて…承知致しました!すぐに伝えてまいります!」
女性事務員は慌てたように事務所を出ていった。…良かった。前回私を対応した事務員とは別の女性で…。
少しの間、椅子に座って待っていると先程の女性事務員が慌ただしく戻ってくると言った。
「社長が会うそうなので、こちらへどうぞ」
「そう?ありがと」
そして私は女性事務員の案内のもと…カエサル社長が待つ社長室へと向かった。
「何ですか…またいらしたのですね」
カエサル社長は社長室に現れた私を苦虫を踏み潰したかのような顔でじろりと見る。
「ええ、また来ました。でもそれも交渉次第では今日で終わりです。どうですか?前回提案したお話…考えて頂けましたか?」
ニコニコ愛想笑いをしながら私はカエサル社長を見た。
「ああ…礼のタクシーごと運転手を3名引き抜きをさせて貰いたいと言う話ですよね…」
カエサル社長は面白くなさげに言う。
「そう、その話です。どうですか?考えて頂けましたか?」
身を乗り出して尋ねる。
「う~ん…そうですなぁ…しかし、提示された金額が300万シリルとは…何しろあのタクシー1台に200万シリル注ぎ込んでいるのですよ?それを3台で300万シリルとは…」
1台200万シリル?よくもそんなでまかせを言える。私は知っているのだ。実はここのタクシーは全て中古品で購入したということを。確かに新車であれば1台200万シリル位はするかもしれないが…。私が女だと思って甘く見ているのかもしれない。
「分かりました、では交渉決裂ですね。それでは他を当たることに致します。失礼致しました」
深々と頭を下げて、立ち上がったその時―。
「あぁっ!ま、待って下さい!」
カエサル社長が食いついてきた―。
****
それから約40分後―
タクシー会社の建物から外へ出ると、相変わらず暇そうにベンチに座っていた3人組が私の姿に気づき、駆け寄ってきた。
「ゲルダさん、どうなりましたか?!」
クリフが早速声を掛けてきた。
「ええ、ばっちりよ。貴方達3人とタクシー3台を引き抜くことが出来たわ。今日から貴方達はタクシードライバーではなく、私がオーナーになったのよ?」
「え?その話は本当ですか?」
ハンスが笑顔で尋ねてくる。
「ええ、本当よ。とりあえず、今日まではここのタクシー会社のドライバーとして籍を置いておいて頂戴。また明日顔を出すから。私は今日、この後まだ寄るところがあるからもう行くわね」
すると、突然ケンが私に近づくと耳元で囁くように言った。
「良かった、これで貴女の領域に踏み込むことが出来ました」
え…?何?それ…?
「今…何て言ったの?」
驚いてケンを見る。しかし彼はそれには答えずに言った。
「明日、お待ちしております」
「え?ええ…」
何だか聞きにくい雰囲気をケンから感じたので、私はそれ以上の事は聞けなかった。
そして悶々とした気持ちを抱えながら私は次の目的地へと向かった―。
「あ~あ…本当に勿体ないわ…私だったらもっと有効利用してあげることが出来るのに…」
そんな事を呟きながら敷地内へ入っていくと、見知った顔の3人組がベンチに座っている事に気がついた。
あ、彼らは…。
すると、3人共私の事に気がついたのか、全員が駆け寄ってきた。
「ゲルダさん!」
真っ先に声を掛けてきたのは一番年若いハンスだった。
「来てくれたんですね?」
嬉しそうに笑みを浮かべながらクリフが言う。
「お待ちしていました」
まるで日本人のような外見のケンが最後に話しかけてきた。
「ええ、約束通り来たわ。社長はそれでいるのかしら?」
「はい、います。全然タクシー利用客が増えないのでイライラしまくっていますよ。事務員の話では既にリストラ候補のリストが出来上がってるとかいないとか…」
クリフが他のタクシードライバーたちの耳に入らないようにこっそりと言う。
「そうなのね?苛ついているけれど、会社にはいると言うことね?それじゃ早速社長の元へ行ってくるわね」
私は3人に手を振ると、タクシー会社の建物へと足を向けた―。
「失礼致します。ゲルダ・ブルームと申します。社長にお会いしたいのですが」
すると対応に当たった女性事務員が言った。
「本日、お約束はされているのでしょうか?」
「いえ、約束はしていないけれど以前も会っているわ。確か社長のお名前はカエサル・オットー氏でしたよね?」
「…!社長のお名前をご存知なんて…承知致しました!すぐに伝えてまいります!」
女性事務員は慌てたように事務所を出ていった。…良かった。前回私を対応した事務員とは別の女性で…。
少しの間、椅子に座って待っていると先程の女性事務員が慌ただしく戻ってくると言った。
「社長が会うそうなので、こちらへどうぞ」
「そう?ありがと」
そして私は女性事務員の案内のもと…カエサル社長が待つ社長室へと向かった。
「何ですか…またいらしたのですね」
カエサル社長は社長室に現れた私を苦虫を踏み潰したかのような顔でじろりと見る。
「ええ、また来ました。でもそれも交渉次第では今日で終わりです。どうですか?前回提案したお話…考えて頂けましたか?」
ニコニコ愛想笑いをしながら私はカエサル社長を見た。
「ああ…礼のタクシーごと運転手を3名引き抜きをさせて貰いたいと言う話ですよね…」
カエサル社長は面白くなさげに言う。
「そう、その話です。どうですか?考えて頂けましたか?」
身を乗り出して尋ねる。
「う~ん…そうですなぁ…しかし、提示された金額が300万シリルとは…何しろあのタクシー1台に200万シリル注ぎ込んでいるのですよ?それを3台で300万シリルとは…」
1台200万シリル?よくもそんなでまかせを言える。私は知っているのだ。実はここのタクシーは全て中古品で購入したということを。確かに新車であれば1台200万シリル位はするかもしれないが…。私が女だと思って甘く見ているのかもしれない。
「分かりました、では交渉決裂ですね。それでは他を当たることに致します。失礼致しました」
深々と頭を下げて、立ち上がったその時―。
「あぁっ!ま、待って下さい!」
カエサル社長が食いついてきた―。
****
それから約40分後―
タクシー会社の建物から外へ出ると、相変わらず暇そうにベンチに座っていた3人組が私の姿に気づき、駆け寄ってきた。
「ゲルダさん、どうなりましたか?!」
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