旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第72話 みんな、ただいま

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「ただいま~」

ウィンターと二人で私達の屋敷に到着したときには既に深夜0時を回っていた。

「もうヘトヘトですよ…」

ウィンターは情けない事を言う。二人でエントランスに足を踏み入れた時…。

バタバタバタバタ

沢山の足音がこちらへ向かって駆けつけてくる。

そして…。

「「「「「ゲルダ様(母さん)!!!!!」」」」」

なんと、とっくに休んでいると思っていた全員がエントランスに集まってきたのだ。

「え?え?どうしたの?皆?」

「どうしたのでは無いですよ!ゲルダさんっ!帰りがあまりにも遅いから皆心配で待っていたんですよっ?!」

アネットが酷く怒った様子で私に言う。

「全くですよ…朝出かけたきりなのですから」

「我々がどれだけ心配していたか分かりますか?」

ジェフとジャンが交互に言う。

「それにやはりタクシー会社の方が3名いらっしゃいましたよ?皆さんゲルダ様がおいでにならなくて残念そうでした」

ブランカの口調もどこか責めているように聞こえる。一方の俊也…ではなく、ルイスだけは神妙そうな顔つきでじっと私を見つめている。…あの顔は相当私のことを心配していたのだろうな…。

「ごめんなさい、皆に心配かけさせてしまって。でも、聞いてちょうだい。素晴らしい収穫があったのだから。今夜ラファエルは…いえ、ノイマン家はついに完全破滅したのよ!」

「え?どういうことですか?」

尋ねてきたのはアネットだ。

「ええ、聞いてちょうだい。実は今日はね、ベロニカにはラファエル以外に本命の若い愛人がいたのよ。二人の夜の密会の合図はバルコニーの手すりに黄色いスカーフを巻きつけることだったの。それでお誂え向きに今日は侯爵が屋敷に帰ってくる日だったのよ。だから夜に合図である黄色いスカーフを使って年若い愛人と、ついでにラファエルをおびき寄せて、ベロニカが夫とベッドでまぐわっている部屋に侵入させたのよ」

「何ですって?!あまりにも簡潔なまとめ方ではありますが…要は夫婦の営みの真っ最中に二人の愛人を部屋の中におびき寄せたということですか?」

ジャンが綺麗にまとめてくれた。

「ええ、そういう事ね」

「な、なんとエグい真似を…流石はゲルダ様です」

ジェフが唸るように言う。

「成程…それではもう完全にノイマン家は終わりですね。よりにもよって侯爵家の妻に手を出したのですから」

ブランカは頷いた。

「ええ、そうよ。ついでに言えばベロニカも終わりね。大体彼女はもともと娼婦だったのだから」

「ええっ?!しょ、娼婦っ?!」

俊也(ルイス)は目を見開いた。…ひょっとすると母親の私から『娼婦』などという言葉が飛び出てきたからかもしれない。

「ええ、そうなの。でもその事実をラファエル本命の愛人も知らなかったみたいね」

「へ~…そうだったのですか。でもいい気味ですよ。」

アネットの言葉の後に何故か突然ウィンターが喚いた。

「皆、喜んでくれっ!俺は立派に務めを果たしてきたぜ?!」

ウィンターは恐らく自分の存在を誇示するために叫んだのだろうが…誰も彼には注目しない。

「ふわぁぁ…でもゲルダさんが無事帰ってきてくれたからこれでようやく安心して休めます」

アネットが欠伸を噛み殺しながら言う。

「ええ、そうですね」

ブランカが同意する。

「それでは我々は休ませていただきますから」

「失礼致します」

ジャンとジェフが交互に言う。

「ええ、おやすみなさい。ほら、ウィンターも休みなさい。厨房係で朝が早いのだから」

「ええええっ?!またこき使われ…ヒッ!は、はいっ!すぐに休みますっ!」

私にジロリと睨みつけられたウィンターは悲鳴を上げると慌ててアネット達の後を追ってエントランスを去って行った。

「う~ん…。流石に私も疲れたわ。今夜は早く寝ましょう」

そして私も自室へ向かった―。
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