旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

第71話 後は任せます

「この…っバカラファエルッ！！」

私は思い切りラファエルを怒鳴りつけた。その剣幕に誰もがシンと静まり返る。

「お、お、お前…！よ、よりにもよってこの俺を…ば、馬鹿呼ばわりしたなっ？！」

生意気なことにラファエルが言い返してきた。

「ええ、そうよっ！馬鹿を馬鹿と呼んで何が悪いのっ？！この馬鹿男っ！」

「お前っ！良くも言うに事欠いて、3回も馬鹿を連呼したなっ？！」

「そうよ！言ったわよっ！御望みとあれば100回だって言ってあげるわ！大体、貴方にはベロニカを責める資格など一切無いのが分からないのっ？！ベロニカという本来の愛人の存在を隠すため…身寄りのない気の毒な幼馴染のアネットを自分の恋人に仕立て上げ、私を騙して結婚したなんて、許せないわっ！そしてブルーム家のお金を湯水の様に使い続け、さらにお金を請求してくる…ノイマン家の連中はまさに寄生虫よ！寄生虫っ！」

「な、な、何だってッ？！寄生虫だとっ？！」

するとそこへウェルナー侯爵が口を挟んできた。

「何っ？！そこの男はノイマン家の人間だったのかっ？！」

「ええ、そうですよ？この男はノイマン伯爵家のたった1人の後継者…ただし、どうしようもないクズ男ですけどね？何しろ貴方の妻の愛人だったのですから」

私はベロニカをビシッと指指しながら言う。

「ちょっと！私は愛人なんか知らないってばっ！」

未だに否定するベロニカ。

「誰がクズだ！」

ラファエルが喚く。

「うるさいっ！貴様…それよりもノイマン家の人間と言ったな？よくも図々しくも私の目の前に現れおったな…？しかも我が妻の愛人だとっ？！しかし、ここで会えたのも何かの縁だ…おい！そこの若造…さっさと借金を返すのだっ！一刻も早く借金を返さなければ…いや…どのみち、もうノイマン家はもう終わりだ。何しろ…わが妻に手を出していたのだからな…？借金まみれにして監獄に送ってやろう…」

不敵な笑みを浮かべながらウェルナー侯爵はさらにホセを睨みつけた。

「小僧ッ！貴様も同様だっ！見たところまだ未成年だが…貴族の妻に手を出したのだ。貴様もノイマン家同様、監獄に送ってやるっ！」

「やめてっ！ホセだけは手を出さないで下さいっ！」

ベロニカは涙声で訴える。どうやらホセはベロニカにとって特別な存在だったようだ。

「ベロニカッ！僕のことは特別じゃないのかっ？！」

ラファエルはベロニカに訴えるが、視線すら合わせて貰えない。

「僕はベロニカが結婚していることなんて知らなかった！彼女は自分で言ったんだ。自分はもともと落ちぶれた借金まみれの男爵家の令嬢で…白豚侯爵の愛人としてお金で買われて無理やりここへ連れてこられてしまったって！僕はそんなベロニカに惹かれ…年上だったけれども恋人のつもりでいたのに…！それなのに娼館の女だったなんて！知っていたらこんな関係になっているものかっ！」

「そんなっ！ホセッ！」

ベロニカは悲鳴を上げる。

再び、ど修羅場と化す現場。4人は入り乱れながら大声で互いを罵り合ったり、わめき合っている。それにすっかり私とウィンターは乗り遅れてしまった。


「…どうします？ゲルダ様…」

ボソリとウィンターは言う。

「そうね…もう何だか私達はここにいても仕方が無いかもね？」

「だとしたら…帰りますか？」

「そうね、帰りましょう」

きっと、後の事はウェルナー侯爵が全ていいようにしてくれるだろう。

そして私とウィンターは収集がつかなくなった痴話喧嘩の現場を去っていった―。