旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

第70話 阿鼻叫喚の騒ぎ

　室内はまさに阿鼻叫喚地獄？状態で大変な事になっていた。

「おい！ベロニカッ！説明しろっ！この間男達はお前の娼館時代の客なのかっ？！」

ウェルナー侯爵は真っ白に肥え太った裸の身体に腰にタオルケット巻き付けてベロニカを叱責している。

「し、知らないっ！こ、こんな人達私は知らないのよぉ～！お願いですっ！信じて下さいっ！」

ベロニカは半裸状態で大事なところを隠しつつ、女優顔負けの演技力でウェルナー侯爵に懇願している。
一方ラファエルとホセは激しく睨み合っていた。

「おいっ！この若造…っ！ベロニカの愛人になるなんて5年早いわっ！」

「そう言うあんたは何だよっ！今やすっかり落ちぶれて名ばかりの貧乏貴族になり下がったくせにっ！」

おおっ！ホセッ！いいところをついて来るじゃないの。中々見どころがある少年かもしれない

彼等は激しい口論を続け、誰一人私とウィンターの存在に気付いていない。

「ねぇ、ウィンター。ある程度修羅場になるとは思っていたけど…ここまでのど修羅場になるなんて驚きね」

彼等の騒ぎの様子を見ながら隣に立つウィンターに話しかけるも、何故か無反応である。

「ねぇ、ちょっと…人の話聞いてるの？」

そして何気なくウィンターを振り向き…私は言葉を失ってしまった。何とウィンターはだらしなく鼻の下を伸ばし、半裸状態のベロニカを食い入るように見つめているのである。

「この…ウィンターッ！変態男っ！」

グイッとウィンターの耳を思い切り引っ張った。

「イタイイタイッ！！」

ウィンターが悲鳴を上げた、その時―。

それまでベロニカを責めたてていたウェルナー侯爵がようやく私達の存在に気付いた。

「何だっ！お前は…先程のメイドではないかっ！お前まで一体何だっ！」

丸で八つ当たりの如く、怒鳴りつけて来るウェルナー侯爵。そしてホセと激しく言い争いをしていたラファエルも私とウィンターの存在に気付き、指をさして来た。

「あっ！お前は…ベロニカのメイドじゃないかっ！どうしてウィンターと一緒にいるんだ？！」

「ヒッ…！ラ、ラファエル様…！」

ラファエルに指さされて、震えあがるウィンター。全く図体ばかりでかくて情けない男だ。一方ホセは不思議そうな顔で私とウィンターを見ている。

「ラファエル…まだ私の正体に気付かないのかしら？」

腰に両手を当てて私はラファエルを見た。

「正体…？一体どういう事だ？」

ウィンターは首を傾げる。

「どうでもいいから早くお前の正体を明かせ！」

ウェルナー侯爵が喚く。…うん、彼もなかなかいい性格をしてる人物とみなした。

「あんたは私のメイドじゃないのっ？！この状況を何とかしなさいよっ！」

ベロニカもヒステリックに叫び、その乱暴な言葉遣いにラファエルとホセはギョッとしたかのようにベロニカに視線を向ける。どれどれ…ようやく少しは状況が収まってきたな…。

「まだ私が誰か分らないの？ラファエル」

私は金髪ヘアのカツラをむしり取り、ついでに眼鏡も外してラファエルを見た。

「あ！お、お、お前は…ゲルダッ！」

ラファエルは私を指さしながら叫ぶ。

「ゲルダ…？ひょっとしてラファエルの元嫁のっ？！」

ベロニカの言葉に私は彼女を振り向くと言った。

「そう…。ベロニカ様。貴女はどうやら愛人のラファエルから私の事を聞かされていたようですねぇ？」

「何っ？！愛人だとっ！ベロニカッ！この間男どもはお前の愛人だったのかっ？！娼館時代の客では無かったのかっ？！」

「ち、違うわよっ！本当に何も知らないわっ！」

しかしホセが言う。

「えっ？！ベロニカ様…貴女は娼館にいたのですかっ？！僕、言いましたよね？この世で一番嫌いな女性は娼館で働く女だって？！」

ホセは何故か酷く憎悪したような目をベロニカに向ける。…ひょっとすると彼は娼館の女と関わりがあるのだろうか？

「ベロニカッ！君は…生まれも育ちも貴族だと言っていたのに…娼婦だったのかっ？！」

ラファエルの言葉に私はついブチ切れてしまった―。