旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第68話 張り込み

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 木の陰に隠れながら私はウィンターの様子を伺っていた。幸い匍匐前進しているお陰で、全くベロニカには気付かれていない。そしてウィンターはついにバルコニーに辿り着いた。

よし、今よ!スカーフをくくりつけなさいっ!

ウィンターは地面に這いつくばったまま、スカーフを取り出すと、慎重にスカーフを結びつけた。

よし、もうちょいよ!

そして…ついにスカーフをくくりつけたウィンターは同じ様に匍匐前進で私の元へと戻ってきた。

「ウィンター!早く木の陰に隠れなさい!」

「はいっ!」

ウィンターは木の陰に隠れると鼻息荒く言った。

「どうですか?ゲルダ様!見てましたよね?俺、ちゃんと任務を果たせましたよね?」

「ええ、ちゃんと見ていたわ。偉い偉い、ウィンターの癖によくやったわ。後は今から交代で張り込みよ」

「え…?張り込み…?」

再びウィンターが固まる。

「ちょっと待って下さい…。今、何と言いましたか?」

「張り込みと言ったわよ?は・り・こ・み。特別に選ばせてあげるわよ。どちらが先に張り込みしてる?」

「え…えええっ?!今度は張り込みまでしなくちゃならないんですかいっ?!」

「バカッ!さっきから大きな声出しちゃ駄目だって言ったでしょう?何度言ったら分かるのよ!」

私は小声で注意した。

「で、ですが…交代で張り込みなんて…少し休ませてくださいよ…」

「分かったわ、少し休みたいのね?なら私が最初の1時間張り込みするから、貴方が先に休んでいいわよ?」

「いや、俺が言ってるのはそういう意味じゃなく…」

「いいから、ほら!静かにして。ただし、ここから半径10m以内にいなくちゃ駄目よ?」

「ええ~っ!勘弁してくださいよ!」

ウィンターが情けない声を上げたので、罰として最初の見張り当番にしたのは言うまでも無かった―。



****

「ウィンター。今…何時くらいかしら?」

張り込みを続けながら傍らに寝転がっているウィンターに尋ねた。

「さぁ…21時位じゃないですか…」

「…適当なこと言ってると給料支払わないわよ」

「ヒッ!す、すみませんっ!今確認してきますっ!」

「ええ、早く時計見てきて頂戴」

「分かりましたっ!」

ウィンターは庭に設置してある時計台に向かって走って行った。


そして…

ハアハア息を切らせながらウィンターが戻ってきた。

「ゲルダ様…い、今の時刻は…21時…50分…でした…」

「そう、ご苦労さま。そろそろ現れる頃ね…」

私はカーテンがピタリと閉められたベロニカの部屋をじっと見つめながら答える。あの部屋のカーテンは今から恐らく1時間ほど前に閉められた。きっと今頃ベロニカと侯爵は部屋の中で物凄い事をしているに違いない。…あまり想像したくは無いけれども。その時…。

カサカサと草を踏みつける音が聞こえてきた。

「「…」」

私とウィンターは顔を見合わせるとそっと木の陰に隠れた。そしてこちらへ向かって歩いてくる人物が月夜に照らされ、ついにその姿が私達の前に姿を見せた―。
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