旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

第56話 ブランカッ！

　私はお茶の準備をしてくると言い訳をして、一旦ベロニカの部屋から退出した。そして急いでブランカの姿を探す事にした。

「とりあえず、ここで働いている使用人たちに片っ端から尋ねるしか無いわね！」

そして私は屋敷中を駆け回り、目に入った使用人たち全員に声を掛けてブランカがどこいるのかを片っ端から尋ね…ようやく新人メイドは中庭で掃除をさせられているという情報を手に入れることが出来た。


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「ふぅ～…ようやくブランカのいる中庭に到着したわ…」

しかし、中庭は広大な広さだった。庭には芝生が植えられ、大きな噴水が水を噴き上げている。円形の大きな庭をぐるりと囲むようにまんべんなく木が植えられ、ベンチが置かれ、ちょっとした休憩所…もとい、ガゼボが点在している。そしてメイド達は散り散りになり、掃除をしている。ある者は庭の花壇の手入れをしたり、箒で掃き掃除をしたり、ガゼボを雑巾がけしたり…。

「う～ん…まるで修也が通っていた小学校のグラウンド並みの広さがあるわね…。しかもあんなに大勢のメイド達がいたんじゃ、どこにブランカがいるか分からないわ」

よし、かくなる上は…。

す～…。

私は思い切り深呼吸すると―。

「ブーラーンーカーッ！！！」

両手を口の前に当てて、腹の底から大きな声で名前を呼んだ。

「ブーラーンーカー…ーラーンーカー…ンーカー…」

辺り一帯に私の声がこだまする。すると、1人のメイドがワンピースの裾をたくし上げ、物凄いスピードでこちらへ向かって走ってくる。あ！あれがブランカだっ！

「ブランカーッ！」

両手を上げてブンブン振ると、ブランカは益々スピードを上げて駆け寄ってきた。

「ハア…ハア…メ、メイドの格好をされていますが…、ハア…ゲルダ様…ですよね？」

ブランカはよほど焦って駆け寄ってきたのか青い顔でハアハアと荒い息を吐きながら私を見た。

「ええ、そうよ。ちょっと訳ありで自らベロニカの元に乗り込んできたのよ。ところで…どう？このメイド服姿…似合っているかしら？」

するとブランカが言った。

「似合っているかしら？じゃありません！一体どういうつもりで私の名前をあんなに大きな声で呼んだのですか？大体私は…この屋敷のメイドでは無いのですよ？！万一ばれたらどうするおつもりなのですか？！そ、それに…大体恥ずかしいじゃありませんかっ！」

ブランカは顔を真赤にさせながら言う。

「ごめんね～。ブランカ、この通り。許してちょうだい。ね、その代わりもう潜入捜査はやらなくていいわ。貴女はもう屋敷に帰っていいから」

「え？！その話は本当ですかっ？！」

途端にブランカの目の色が変わる。

「ええ、勿論よ。聞いてちょうだい、どうやら私はここの屋敷のベロニカに気に入られたみたいなのよ。今日1日、彼女の専属メイドになれることになったから、貴女はもう帰って休んで頂戴。ただね、ひょっとするとタクシー運転手達が私を尋ねてくるかもしれないから、もし彼等が来たらとりあえず仮採用するので、そうね…3日後の午後2時に屋敷へ来るように伝えておいてくれる？」

「はぁ…何のことやら分かりませんが、タクシー運転手達が屋敷に来たら、仮採用と伝え、3日後の午後2時に屋敷へ来るように話せば良いのですね？」

「そうよ、頼んだわね。それじゃ私はベロニカの元に戻らなければいけないから」

「戻って何をされるのですか？」

「そんなのは勿論決まっているじゃない。ラファエル共々、破滅してもらう準備よ」

首を傾げるブランカに私は言った―。