旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
55 / 100

第55話 ベロニカの正体

しおりを挟む
 いつもの私なら、口が悪くてこんなに気の強そうな女の命令等絶対に聞きたくはないが、今回は作戦の為にやむを得ず承諾する事にした。

「はい、奥様。まだ新人で右も左も分らないメイドですが、よろしくお願い致します」

自分は何も出来ない若輩者である事をさり気なくアピールして置いた。

「フン。お前はまだ新米って事ね?まぁ別にそれでも構わないわ。とにかく、今日はこれから旦那様がお帰りになるから出迎えなければならないのよ。支度をするから手伝って頂戴」

ベロニカは足を組むと言った。

「はい、かしこまりました。それではまず何から致しましょうか?」

「そうね。まずは着がえね。そこのクローゼットからピンク色のドレスを持って来て頂戴」

「はい、かしこまりました」

急いでクローゼットに向かい、扉を開けると中に入っていたのは全てピンク色のドレスばかりだった。

「あの…奥様。ここのクローゼットのドレス…全てピンク色なのですが…」

「ええ、当然よ。そこにはピンク色のドレスしかしまっていないのだから」

「そうなのですかっ?!」

と言う事は残りのクローゼットは全て色違いのドレス…?思わず固まってしまうとベロニカが乱暴な口調で声を掛けて来た。

「何やってるのよ!愚図愚図しないでさっさとドレスを持って来て頂戴!」

「はい!ただいま!」

慌てて適当にドレスを掴むと、ベロニカの元へ持って行く。

「さて、ではお着替えをされますか?」

「あら?このドレスを持ってきたの?私はあまりこのドレスは好きじゃないのよ?」

不満顔で言うベロニカに、私は言った。

「でも奥様。この淡いピンク色のドレスは色白の奥様にぴったりですよ。このように色の薄いドレスを着こなせるのは肌が白く、美しい女性だけなのです。それにこの襟元のデザインは奥様の様に首筋がほっそりした女性にこそお似合いなのですから」

「そ、そう…?そこまで言われるとこのドレスもなかなか良いかもしれないわね?」

ベロニカはまんざらでも無さげに笑みを浮かべた。

「ええ、本当にお似合いです。では早速お着がえに移りましょう」

そして私はベロニカの背後に回り、ドレスを着替える手伝いを始めた…。


チラリ

 ベロニカにドレスを着せている時に姿見の前に立っている彼女を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべている。フフフ…見たか。前世で元、服の販売員をしていた時に培ったトーク力を!このスキル力のお陰で、私を指名して服を買いに来る客もいたほどなのだから…。


「はい、奥様。お着換え終了致しました。それで旦那様は何時ごろお帰りになるのでしょうか?」

ベロニカは鏡の前で自分をじっくり見ながら返事をする。

「ええ、いつも午後2時には帰って来るわ。3時のティータイムを私と一緒に楽しみたいからですって。全く…おっさんとお茶を飲んでも、こっちは少しも美味しく感じられないって言うのに」

「え?お、おっさん…?!」

その話は私にとって軽い衝撃だった。私は今の今までベロニカの夫は彼女と同年代だとばかり思っていたのに…!そこで私は恐る恐る尋ねてみる事にした。

「あ、あの…奥様と旦那様はどのようにお知り合いになったのですか?」

するとベロニカは辺りをキョロキョロと見渡すと、こっそり耳打ちしてきた。

「いい?お前は私のドレスを選ぶセンスがいいから特別に教えてあげる。私はね、実は貴族だけを相手にする高級娼婦だったのよ。夫はそこの常連客だったってわけ。そして私を気に入った夫が貴族の爵位を買った上で夫婦になったのよ。分った?この事は屋敷の人間は誰も知らないのだから…絶対に話しては駄目よ?いいわね?」

何とっ!ベロニカは…元高級娼婦だったのか!

「ええ…分りました。この屋敷の人達には絶対に話しません」

私が返事をすると、ベロニカは満足そうに笑みを浮かべた―。



しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

処理中です...