上 下
42 / 100

第42話 日本でなじみのあの料理

しおりを挟む
「お帰り!ブランカッ!で?首尾はどうだった?!」

私はエントランスに立っていたブランカの前に駆けつけると早速尋ねた。

「相変わらずゲルダ様は賑やかな方ですね。とりあえず、ウェルナー侯爵ですが、今はここから国境を2つ超えた国『リトナ』という国に滞在しているようです。そこで何をしているかまでは探る事は出来ませんでしたが、しかし毎週末にはウェルナー家へ戻っているそうですよ」

「え!そうだったのね?と言う事は明後日にはウェルナー侯爵は帰って来ると言う事じゃないの!」

「はい、なのでその時はベロニカ婦人は屋敷にいるそうです」

「成程、そう言う事ね…ならすぐにでもベロニカとラファエルの不倫の話を報告できそうね。ただ問題なのは今もベロニカはラファエルと愛人関係にあるかどうかなのよね…」

するとブランカが言った。

「あの、続きのお話は後にしていただけないでしょうか?ウェルナー家は人使いが荒くて…今日は1日中屋敷の大掃除をさせられていたので、少し休ませて頂きたいのですが」

フウ…とため息をつきながら言うブランカ。

「ああ、ごめんね。そうよね、貴女はメイドとして働いて帰宅してたばかりなのだから。いいわ、お部屋でゆっくり休んでいて頂戴」

「いえ、少し休めば結構です。厨房の仕事をしなくてはなりませんから」

「え?何故厨房に?」

首を傾げるとブランカが言った。

「皆様のお食事の準備がありますよね?」

「あ~それなら大丈夫よ、私が今日からウィンターが戻るまで料理を作るから」

するとブランカが目を見開いた。

「ええっ?!料理って…ゲルダ様に出来るのですかっ?!」

「何言ってるのよ、見くびらないで頂戴。さ、それよりもブランカは部屋で休んでいなさいよ」

「で、ですが…」

尚も躊躇うブランカの背中を押して、私は彼女を自室へと追いやった。何しろ私は主婦としてだけで無く、寮母として働いていた記憶もあるのだ。お腹を空かせた多くの学生たちの為にどれだけ料理の腕を振るって来たことか。おまけにこの世界には様々な香辛料や調味料が溢れている。味噌や醤油に似た調味料まであるのだから驚きだ。

「フフフ…私の料理の腕前をみせてあげるんだから」

ほくそ笑みながら厨房へ戻ると、すっかり打ち解けた様子で俊也とアネットが仲良さげに野菜の皮むきをしていた。

「どう?2人共。作業は進んでる?」

腕まくりしながら近づき、2人に声を掛けた。

「あ!ゲルダさん!すごいんですよ。ルイスさんて、お料理上手なんですよ」

アネットが顔を赤らめて報告して来る。

「いや、それ程でも…」

少し照れた様子のルイス。まんざらでもなさそうだ。確かにアネットは可愛らしい女性だしね。

「そりゃそうよ~。何て言ったってこの子は…」

言いかけてはたとなった。そうだった、俊也はもう私の子供では無かった!危うく前世の記憶に引きずられ、俊也はお料理のお手伝いを沢山してくれたからね。何て口が滑りそうになってしまった。一方の俊也は私が失言しかけた事すら気付いていない。

「え?何か言い掛けましたか?」

アネットが不思議そうな顔をする。

「ううん、何でもないわ!よし、それじゃ料理のつづきをしますか!」

私は鍋を取り出した―。



****

 午後7時―

ダイニングルテーブルに、私・俊也、アネット、ブランカ、ジャン、ジェフの6人が席に着いていた。そして目の前にはそれぞれの皿に野菜やお肉入りの茶色のスープ…いわゆる『カレー』が皿に盛られて置かれている。そしてそのお隣には平べったく伸ばした『ナン』も用意されている。それを見た俊也の顔は喜びに包まれているが、残りの4名は驚きの目でテーブルの料理を見つめている。

「あの…ゲルダさん。これは何かしら?」

アネットが恐る恐る聞いて来る。それはそうだ。この世界には『カレー』と言う料理は存在しないのだから。だがしかし!私はカレーの作り方を知っている。香辛料の種類から配分まで全て頭に入っているのだ。

「フフフ…これはカレーと言うものよ。ここから遙か西にある国で食されている食べ物なのよ。お隣のこれは『ナン』と言ってカレーに付けて食べるのよ」

私は日本にいた頃の知識で説明した。

「見た目はともかく美味しそうですね」

ジャンが言う。

「同感です」

ジェフが頷く。

「でも良い香りがしますね。食欲がそそられる香りです」

ブランカはなかなか良い意見を言ってくれる。

「とにかく、病みつきになる事間違いなしだから、みんな食べて食べて!はい、いただきますっ!」

「「「「「いただきます!」」」」」

全員が声を揃えてカレーを口に入れ…あっという間に完食したのは言うまでも無かった―。
しおりを挟む
感想 196

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

処理中です...