旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

第24話 旦那様、離縁させて頂きます

「ゲルダッ！遅かったじゃないかっ！実家に泊まってくるなど一言も言っていなかっただろう？！」

ラファエルが真っ先に文句を言ってきた。

「ええ、そうよ。大体ここの嫁でありながら無断外泊などして、そんな事世間が許しても、この私が許さないのだからっ！」

義母がただでさえ、つり上がっている目を釣り上げた。その顔を一目見た時、真っ先に狐の姿を思い出したのは言うまでもない。大体、私のことを嫁と認めたことなどただの一度もないくせに都合の良いときだけ嫁扱いするなど図々しいことこの上ない。思わずジト目で見ると義母が眉間に青筋を立てて喚いた。

「な、何なのっ？！その生意気そうな目は…！」

「そんな事など、今はどうでも良い！今この屋敷の金はゼロだぞ！ゼロ！買い物一つ出来ないではないかっ！大体ウィンターが１で人屋敷に帰ってきた時は驚いたぞ！」

義父の言葉で、今初めてウィンターの事を思い出した。そう言えば彼はどうなったのだ？

「全くアイツは使えない奴だったな…。必ずゲルダと一緒に屋敷へ戻るように伝えたのに1人でノコノコ帰ってくるなんて…！」

ラファエルがイライラしながらウィンターの話をする。

「ウィンターには私が1人でこの屋敷に帰るように言ったのですよ？それが何か？」

「まぁっ！つまりウィンターはラファエルの命令ではなく、ゲルダさんの命令を聞いたというわけね？一体何を考えているのかしら…っ！」

するとアネットが驚いたように声を上げた。何だ、いたのか。存在感が薄くてまたしても忘れていた。

「でもウィンターが私の言うことを聞くのは当然でしょう？何しろここの使用人たち全員のお給料を支払っているのは我が実家である『ブルーム家』なのですから」

「「「…」」」

すると私の言葉で失礼な輩たちは押し黙った。たった1人を除いては…。

「う、うるさいっ！屁理屈を抜かすな！彼らはこのノイマン家の屋敷で働いている使用人たちだ！と言うことは誰の命令を聞かなければならないのかは分かりきっているだろうっ？！」

義父は私を人差し指で指差してきた。人を指差すなど、言語道断。しかし、これから私はラファエルに離婚届を突きつけなければならないのだ。落ち突いて冷静になろう。こんな馬鹿どもと同レベルで言い合いをしている場合ではない。

しかし、それにしても…。

「つまり、その言い分ではまるで私はこのノイマン家の人間ではない、と仰っているのと同じ事ですよね？」

腕組みをして、義父をじろりと見た。

「あ、ああっ！当然だっ！」

そこで私は次に義母を見た。

「変ですねぇ…先程お義母様は私に『ここの嫁でありながら無断外泊などして』とはっきりおっしゃいましたよね？ですがお義父様の話では私は『ノイマン家の人間ではない』　と言い切りましたね」

「「…」」

流石に私の言葉に義父と義母は黙ってしまった。

「うるさい！もうそんな事はどうでもいいっ！早く我々に金を渡せ！ついでに新しい銀行と口座番号を教えろっ！」

ラファエルが大声で命令してきた。

「…ありませんよ、そんなもの」

腕組みすると吐き捨てるように言った。

「「「「…は？」」」」

全員が声を揃えて私を見た。

「な、無いって…一体どういう事なの？」

義母が震えながら私を見た。

「ああ、そうだ。ゲルダ、冗談はその顔だけにしろ」

またしてもラファエルが失礼な事を言う。確かにラファエルの美形ぶりには負けるかもしれないが、この私だって十分美人なのに…おのれ、ラファエルの奴め…！

「おい、よもや結婚式の時に交わした誓約書の内容を忘れたわけではあるまい。我が息子のラファエルと夫婦になりたいなら、援助金として我らに年間1億2000万シリルを支給する事になっていただろう？そのお金をお前は全て、勝手に使ってしまったのだから全額返金するのは当然だ。それどころかペナルティとして増額して我らに金を払うのが筋だろう？」

義父がマシンガントークでまくし立てる。もう私も我慢の限界だ。

「…さい…」

「は？何だ？聞こえないなぁ？」

義父が厭味ったらしく耳に手を当てる。

「うるさい！うるさい！うるさーいっ！！」

私は大声で怒鳴りつけた。

「「「「！！」」」」

私の声に一瞬怯むノイマン一族。

「黙りなさい！ブルーム家の財産に群がる寄生虫共めっ！」

「「「「き、寄生虫だってっ？！」」」」

声を揃える4人は驚愕の表情で私を見て、固まっている。
全く…こっちは荷造りが終了してから離婚届を突きつけるつもりだったが、もう我慢の限界だった。…こうなったらやむを得まい。
無言でショルダーバックに手を突っ込んだ。

「旦那様、離縁させて頂きます。貴方はもう用済みですから」

私は離婚届けを取り出すとラファエルに突き出した―。