旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中

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第21話 家族団欒の朝

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 翌朝―

カーテンの隙間から眩しい太陽の光が差し込み、私の顔を直撃した。

「う~ん…ま、眩しい…」

そこでパチッと目が覚めると慌てて飛び起きた。

「大変!寝過ごしたわっ!仕事に遅れる!パン屋の朝は早いから最低でも5時には起きて仕込みをしなくちゃならないのに…!」

そこではたと気が付いた。この部屋は狭い団地の6畳間などではない。まるでスイートルームのような豪華な部屋である。そしてスプリングの効いた豪華なベッド。

「あれ…?ここどこだっけ…?えっと…」

そして何気なく壁に掛けてある鏡に目がいった。するとそこには今の自分の姿が写っている。長い栗毛色の髪に青い瞳の美女…。その姿を見てハッと気が付いた。

「そ、そうだったわ…今の私は『小林美穂』(45歳)では無かったんだっけ…。」

どうも前世の記憶のほうが全面に押し出されて混乱を招いてしまう。

「それにしても…ゲルダって本当に美人よね」

我ながら鏡に映る今の自分の美しさに見惚れてしまう。尤もラファエルは私の美貌?を前にしてもアネットしか目に映らなかったのだが。
他の女に決してなびく事は無かったラファエル。これはある意味誠実な男?と見ても良いのかもしれない。顔はそんじょそこらのハリウッドスターよりも余程イケメンかもしれないが…。
しかし!
前世の記憶が戻った今の私にはラファエルなんぞ眼中に無い。あんな男はお断りだ。むしろに熨斗をつけて渡してプレゼントしてやりたいくらいなのだから。
そもそも大前提として、前世の自分の息子と同じ年齢の夫なんて有り得ない。

何しろ今の私の好みのタイプの男性は…。

「やっぱりロマンスグレーになりかけの男性よね~」

そう、真に魅力的な男性というのは40歳を超えてからなのだ。色気や味が出てくるのはやはりこの位の年齢を重ねていないと話にならない。

というわけで…。

「まず、最初の目標は絶対にラファエルとの離婚を成立させる事よ!」

そうと決まればすぐに行動開始だ。ベッドから飛び降りると、すぐに朝の支度を始めた―。



****

「おはようございます、お祖父様、お父様、お母様」

ダイニングルームに顔を出すと、既に全員食事を済ませた後でテーブルの上には紅茶の入ったティーカップしか置かれていない。

「ああ、おはよう。ゲルダ。今朝は随分ゆっくりだったのだな」

祖父が経済新聞から目を離さずに言う。

「何だ?ノイマン家に嫁いでお前までぐうたらになったのか?商人というものは夜明けとともに起き、仕事に励むものだぞ」

そして父は紅茶をグイッと飲み干した。父の脇には書類の束が積まれている。…また食事しながら仕事をしていたのかもしれない。

そして最後に母が私に声を掛けてきた。

「ゲルダ、今何時だと思っているの?」

「え~と…」

壁に掛けてある時計をチラリと見ると時刻は9時15分をさしている。

「9時15分ですけど…?」

「2時間15分も遅く顔を出して来たのですから、今朝の貴女の朝食はありませんよ。今は食後のお茶の時間なのだから、お茶でお腹を膨らませなさい」

「はい…」

やれやれ…相変わらずこの家のルールは厳しい。尤も寝坊をしてしまった私が悪いのだけれども。何しろ昨夜は離婚後の人生設計を立てるべく、午前3時まで構想を練っていたので起きる事が出来なかったのだ。

「では紅茶だけ頂きます…」

そしてお腹が空いていた私は紅茶を6杯飲んで水分摂取で無理にお腹を膨らませるのだった―。



****

「ゲルダ、今日はこれからどうするのだ」

祖父が尋ねてきた。

「はい。まず手始めに役所に行って離婚届を貰ってきます」

「そうか、そしてすぐに離婚届を奴らに叩きつけるのだな?」

父が嬉しそうに尋ねてくる。

「…」

母は無言で話を聞いている。…ひょっとすると離婚する私を心の仲で嘆いているのだろうか?

「ええ…そうしたいのは山々なんですけどね…ノイマン家の人間は全員揃いも揃って金の亡者共ばかりなんです。私を…いえ、この『ブルーム家』を単なるATM機としか見ておりません」

「何だって?」

「ATM機?」

祖父と父が首を傾げる。

「あ、いえ。今の言葉は忘れて下さい。とにかく、私がいれば無限にお金を引き出せると思っているので、離婚に応じない気がするんですよね…だから後ほど私とラファエルが交わした結婚誓約書をよ~く見直してみようと思うんです。絶対にそこには何らかの穴があるはず。そこを突いて、離婚届を突きつけてやります」


そう、私にとってあんなクズ夫は無用の長物なのだから―。







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