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第19話 深夜の帰宅
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ボストンバッグを右手に持ち、門を潜り抜けて月明りに照らされたアプローチを歩き続ける事約5分…ようやく我が家に到着した。
屋敷には10名程のメイドとフットマン達が住み込みで働いているけれど時間はもう深夜。きっとぐっすり眠っているに違いない。
それにも関わらず父と祖父の共同書斎は今も明かりが灯っている。…恐らくまだ仕事をしているのだろう。何しろこの2人は3度の食事より仕事が好きと言っても過言ではない位働くことが大好きなのだ。
まぁそのおかげで我が家は『テミスの大富豪』と呼ばれるまでの大商民に成長し、庶民でありながら『ブルーム』と言う苗字まで手に入れる事が出来たのだから。
ボストンバッグから鍵を取り出して玄関の扉を開けると、廊下の明かりはすべて消され、月明りでほんの僅かだけ辺りが青白く照らされている。
「全く…明かりぐらいつけておいてほしいわ。お金持ちなんだから光熱費ぐらいけちらないで欲しいのに…これじゃ足元が見えなくて危ないじゃない」
ブツブツ言いながら足元に気を付けつつ、ほぼ暗闇状態の玄関を抜けてようやく月明りが差し込む廊下にやって来た。
「よし、父と祖父に挨拶に行こう」
そして私は2人の共同書斎に挨拶へ向かった―。
****
共同書斎の前に辿り着くと、早速目の前の扉を強くノックした。
ドンッドンッ!
すると…。
「誰だ?こんな夜更けに…」
ガチャリと扉を開けて出てきたのは父だった。
「こんばんは、お父様」
父を前に愛想笑いする私。すると父は目を見開いて私を見た。
「ゲ、ゲルダッ?!な、何故お前がこんな夜更けに…しかも我が家にいるのだっ?!」
「何?!ゲルダだって?!」
父の声が聞こえたのか、祖父が背後から姿を見せた。
「ちょっと訳アリで実家に戻って参りました。出来れば数日この屋敷に置いて下さい」
そして頭を下げた。
「全く…何があったか知らんが、こんな夜更けにやってきた娘をおい返すわけにはいかんだろう。とりあえず中に入りなさい」
父は額に右手を当て、ため息をつきながらも部屋に招き入れてくれた。
****
「それで?一体何があってこんな真夜中に実家に戻って来たのだ?」
私の正面に座った祖父が威厳たっぷりに尋ねて来た。
「こんな非常識な時間にやって来たのだから、相当の緊急事態だろうな?」
父はコーヒーを飲みながら私を見る。
「ええ、緊急事態です。実はラファエルとの離婚の許可を得たくて大至急実家に戻って参りました」
「何っ?!」
「何だってっ?!」
父と祖父が同時に声を上げた。それはまぁ驚くのは当然だろう。前世を思い出すまでの私はラファエルにぞっこんだったのだから。例え、ラファエルに恋人がいようと、ノイマン家から無視されたり酷い言葉を投げつけられようとも。
そして私の事を歩くATM機だと思っていたとしても…。
「一体どういう風の吹きまわしだ?お前はあの男の顔にべた惚れだっただろう?」
父が腕組みしながら言う。
「ああ、そうだ。お前は正妻のくせに、愛人でも下僕でも何でも構わないからあの男を近くで眺めていたいと散々言っていただろう?」
いやあああ!や、やめて~っ!!
私は心の中で絶叫した。祖父の言葉はまるで自分の黒歴史を聞かされているような気分になって来る。だが、今の私はラファエルの顔に1ミリも興味を持っていない。
大体私の中身の年齢は67歳なのだ。25歳の若造なんて…ましてや前世の息子の年齢と同じ年の夫なんて…はっきり言って論外だ!
「聞いてください、お父様、お爺様。私はようやく目が覚めました。男は顔じゃないって事が!あんな若造、全く興味が失せました!」
「「…へ?」」
父と祖父が妙な顔で私を見ている。…しまった!もっと別の言い方があったかもしれないのに…!よ、よし…正攻法で説得するのだ。
「ノイマン家の人々は我が屋の財産しか興味がありません。彼らはろくに働きもせずに無駄遣いばかりするのです。ノイマン家と私が婚姻関係を結んでいるのは、はっきり言ってしまえば、損をする事はあっても決して得をする事はないのです。このままノイマン家に関わっていれば財産を散財するだけですよ?」
「散財…」
商人魂がすっかり身についている祖父はこの言葉に反応した。
「し、しかし…ノイマン家にお前が嫁いだことによって我々も貴族の仲間入りを果たし、これまでに接点を持てなかった王室と商売の取り引きが出来るようになったのだ。離婚すればまた我らは貴族社会からつまはじきにされてしまう。断じて離婚は認めないぞ」
父はやはり想像通りの台詞を口にした。…そう、ブランド志向の強い父は貴族の称号がどうしても欲しくてたまらなかったのだ。だが、それは全て想定していた事。
「それならご安心下さい。私とラファエルが離婚しても何の問題も起きません。既に手はうってありますから」
そして手元に置いておいたボストンバッグを引き寄せると蓋をあけた。
フフフフ…2人共、この書類を見て驚きのけぞるがいい。
私は中から茶封筒を取り出した―。
屋敷には10名程のメイドとフットマン達が住み込みで働いているけれど時間はもう深夜。きっとぐっすり眠っているに違いない。
それにも関わらず父と祖父の共同書斎は今も明かりが灯っている。…恐らくまだ仕事をしているのだろう。何しろこの2人は3度の食事より仕事が好きと言っても過言ではない位働くことが大好きなのだ。
まぁそのおかげで我が家は『テミスの大富豪』と呼ばれるまでの大商民に成長し、庶民でありながら『ブルーム』と言う苗字まで手に入れる事が出来たのだから。
ボストンバッグから鍵を取り出して玄関の扉を開けると、廊下の明かりはすべて消され、月明りでほんの僅かだけ辺りが青白く照らされている。
「全く…明かりぐらいつけておいてほしいわ。お金持ちなんだから光熱費ぐらいけちらないで欲しいのに…これじゃ足元が見えなくて危ないじゃない」
ブツブツ言いながら足元に気を付けつつ、ほぼ暗闇状態の玄関を抜けてようやく月明りが差し込む廊下にやって来た。
「よし、父と祖父に挨拶に行こう」
そして私は2人の共同書斎に挨拶へ向かった―。
****
共同書斎の前に辿り着くと、早速目の前の扉を強くノックした。
ドンッドンッ!
すると…。
「誰だ?こんな夜更けに…」
ガチャリと扉を開けて出てきたのは父だった。
「こんばんは、お父様」
父を前に愛想笑いする私。すると父は目を見開いて私を見た。
「ゲ、ゲルダッ?!な、何故お前がこんな夜更けに…しかも我が家にいるのだっ?!」
「何?!ゲルダだって?!」
父の声が聞こえたのか、祖父が背後から姿を見せた。
「ちょっと訳アリで実家に戻って参りました。出来れば数日この屋敷に置いて下さい」
そして頭を下げた。
「全く…何があったか知らんが、こんな夜更けにやってきた娘をおい返すわけにはいかんだろう。とりあえず中に入りなさい」
父は額に右手を当て、ため息をつきながらも部屋に招き入れてくれた。
****
「それで?一体何があってこんな真夜中に実家に戻って来たのだ?」
私の正面に座った祖父が威厳たっぷりに尋ねて来た。
「こんな非常識な時間にやって来たのだから、相当の緊急事態だろうな?」
父はコーヒーを飲みながら私を見る。
「ええ、緊急事態です。実はラファエルとの離婚の許可を得たくて大至急実家に戻って参りました」
「何っ?!」
「何だってっ?!」
父と祖父が同時に声を上げた。それはまぁ驚くのは当然だろう。前世を思い出すまでの私はラファエルにぞっこんだったのだから。例え、ラファエルに恋人がいようと、ノイマン家から無視されたり酷い言葉を投げつけられようとも。
そして私の事を歩くATM機だと思っていたとしても…。
「一体どういう風の吹きまわしだ?お前はあの男の顔にべた惚れだっただろう?」
父が腕組みしながら言う。
「ああ、そうだ。お前は正妻のくせに、愛人でも下僕でも何でも構わないからあの男を近くで眺めていたいと散々言っていただろう?」
いやあああ!や、やめて~っ!!
私は心の中で絶叫した。祖父の言葉はまるで自分の黒歴史を聞かされているような気分になって来る。だが、今の私はラファエルの顔に1ミリも興味を持っていない。
大体私の中身の年齢は67歳なのだ。25歳の若造なんて…ましてや前世の息子の年齢と同じ年の夫なんて…はっきり言って論外だ!
「聞いてください、お父様、お爺様。私はようやく目が覚めました。男は顔じゃないって事が!あんな若造、全く興味が失せました!」
「「…へ?」」
父と祖父が妙な顔で私を見ている。…しまった!もっと別の言い方があったかもしれないのに…!よ、よし…正攻法で説得するのだ。
「ノイマン家の人々は我が屋の財産しか興味がありません。彼らはろくに働きもせずに無駄遣いばかりするのです。ノイマン家と私が婚姻関係を結んでいるのは、はっきり言ってしまえば、損をする事はあっても決して得をする事はないのです。このままノイマン家に関わっていれば財産を散財するだけですよ?」
「散財…」
商人魂がすっかり身についている祖父はこの言葉に反応した。
「し、しかし…ノイマン家にお前が嫁いだことによって我々も貴族の仲間入りを果たし、これまでに接点を持てなかった王室と商売の取り引きが出来るようになったのだ。離婚すればまた我らは貴族社会からつまはじきにされてしまう。断じて離婚は認めないぞ」
父はやはり想像通りの台詞を口にした。…そう、ブランド志向の強い父は貴族の称号がどうしても欲しくてたまらなかったのだ。だが、それは全て想定していた事。
「それならご安心下さい。私とラファエルが離婚しても何の問題も起きません。既に手はうってありますから」
そして手元に置いておいたボストンバッグを引き寄せると蓋をあけた。
フフフフ…2人共、この書類を見て驚きのけぞるがいい。
私は中から茶封筒を取り出した―。
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