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第13話 モンド伯爵夫人と私

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 門をくぐり抜け、屋敷へ続く緑道を歩きながら私は空を仰ぎ見た。

「本当にこの世界の青空はとても澄んでいるし、高層ビルも建ち並んでいないから空が広く見えるわね~」

感心しながら歩き続けること約5分―

ついにモンド伯爵夫人の屋敷が見えてきた。この屋敷はまるでヨーロッパの古城のような城だった。3階建ての白い石壁の建物に紺色のとんがり屋根…昔はさぞかし美しい城だったに違いない。
しかし、今は…。
白い城壁には屋根まで届きそうな蔦が無数に壁を這っている。屋根部分の窓はガラスにひびが入っているし、城の壁も一部亀裂が走っている。さらに手入れの行き届かない庭には雑草が生い茂り、荒れ放題だった。その光景はパッと見るとまるで廃墟のような…さながらお化け屋敷のようにも見える。

何だか…少し来ない間に一段と凄い事になっていた。

「う~ん…やはり噂通り、相当生活が困窮しているのは間違い無さそうね」

よし、これなら私とモンド伯爵の利害関係が一致するかもしれない。私は扉の前に立つとドアノッカーを掴んで早速扉をノックした。


ゴンゴンッ!

扉を叩くと物凄い音がした。それに…何だか今、扉にヒビが入ったような…?

「…」

少しの間、待っては見るものの誰も扉を開けてくれる気配はない。その時、ふと目の前に呼び鈴を鳴らす長い紐が玄関の扉からぶら下がっていることに気が付いた。

「ああ、ドアノッカーじゃなくてこっちの呼び鈴を鳴らすのね」

迷わず呼び鈴の紐を掴み、引っ張ってみた。よし、手ごたえあり。きっと今頃は部屋の中にベルの音が響き渡っているだろう。念のために後2回ほど呼び鈴を引っ張っておこうかな?そう思った私は勢いよく紐を引っ張り…。

ブチッ

「あ…」

ま、まずい…!呼び鈴の紐が途中で切れてしまった…っ!

何とか誤魔化す為にちぎれた紐どうしを玉結びで結びなおしたところ、ようやく扉が開かれた。

「まぁ、ようこそ。ゲルダさん」

何と扉を開けに来たのはモンド伯爵夫人、その人だったのだ―。



****

「ごめんなさいね…折角いらしていただいたのに、何もおもてなしする事が出来なくて…」

ほこりまみれの応接室に通された私は、向かい合わせにモンド伯爵夫人とソファに座っていた。モンド伯爵夫人は今年70歳になる高齢の伯爵夫人で、随分くたびれた古めかしい室内ドレスを着用していた。彼女は夫を20年ほど前に亡くして以来ずっと独身を通してきた女性で、気の毒な事に子供に恵まれず後継ぎがいない。

「いえ…ですがモンド様、以前こちらに伺った際には初老の男性執事と40代半ばのメイドの女性がいらっしゃいましたよね?2人の姿が見えないようですが…どうされたのですか?」

「ええ…あの2人にはもうお給料を払う事も出来なくなってしまい、暇を与えたのよ」

その話に驚いた。

「え?そ、それではモンド様は今、この広いお城でたった一人きりで暮らしていらしたのですか?!」

「ええ、そうよ」

「お、お食事は?!どうされているのですか!」

「勿論食べなければ死んでしまうから厨房で食事を作ってるわよ。最も野菜を切って塩コショウで味付けしたスープぐらいしか作れないけどね。ミルクやパンは親切なご近所の方が持ってきて下さるの」

「で、では洗濯はっ?!」

「それも1人でやっているわ。でも洗濯作業は辛いわね。お水は冷たいし、腰は痛くなるし…誰かを雇って家事をして貰う余裕がもう私には無いものだから…」

苦笑しながら話すモンド伯爵夫人が哀れでならなかった。お金が無い生活程辛い物は無い。前世のシングルマザー生活で既に経験済みの私には痛い程に彼女の気持ちが分る。ここはやはり、私から手を差し伸べてあげよう!

「あの、モンド様。以前…相続税を払えずにこれ以上屋敷も爵位も守り抜く事は難しいから手放したいとお話されていましたよね?」

「ええ、そうね。実は…もうこの屋敷差し押さえ寸前なのよ。困ってるわ。銀行の借入金も限度額いっぱいだし…」

「そうなんですか?ちなみに今どれくらい借り入れているのですか?」

「ええ…お恥ずかしい事に…今借入金は2億8千万シリルあるのよ…本当に屋敷も爵位も手放して、一刻も早く借金から解放されたいわ…」

モンド伯爵夫人は溜息をついた。それにしても2億8千万シリルか…。ノイマン家の振り込み専用口座には確か4億シリル程残っていたはず…よし、なら決まりだ。

「あの、モンド様。今から銀行へ行きませんか?」

「え?銀行へ?何をしに?」

モンド伯爵夫人は目をぱちくりさせた。

「この私がモンド様の悩みを一発で解決して差し上げますから」

そう、それだけではない。これがうまくいけばモンド伯爵夫人を助けるだけでなく、あの忌々しいノイマン家の人々に一泡吹かせる事も出来る。

さらに対面ばかり気にする見栄っ張りな父と祖父の事も見返す事が出来るかもしれないのだから―





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