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第6話 過去の私は愚か者
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約10分掛けて恋人たちの異臭部屋からピカピカに掃除された自室へ戻って来る事が出来た。
「あ、お帰りなさいませ。奥様」
自室の前でに籠に入れた洗濯物を運ぼうとしていたブランカが声を掛けてきた。
「ええ、ただいま」
返事をすると何故かブランカがじ~っと私を見つめている。
「え?何?」
「いえ…今日は泣かれなかったのだなと思って」
「え?泣く…?」
そうだった。今までの私はラファエルが朝食の席に現れないので毎回泣きながら部屋に戻って来ていたんだっけ…。その私の態度がますます周囲の使用人たちから馬鹿にされる原因になっている事に気付きもせずに。
それにしても以前までの自分が情けなくてたまらない。あんな顔だけしか取り柄の無い男に惚れこんでいたなんて。前世で産み育てた我が息子の俊也の方が断然魅力に溢れていたわ。…まぁ、少し親の欲目もあるけどね。
「…本当に昨日までの私って馬鹿だったわね」
ぽつりと呟くと、どうやらブランカに聞こえていたようだった。
「え?奥様?何かおっしゃいましたか?」
首をかしげてきた。
「何でも無い、何でも無い。ほら、早く洗濯しに行った方がいいわよ。3月とはいえ、まだまだ外は寒いんだから早く洗い物をして干さないと乾かないわよ」
その時、ブランカの持つ洗濯物の中に私が今朝来ていたネグリジェが入ってる事に気付いた。
「あら、それも洗うのね?」
「はい、そうです」
「ちなみにそれは素材はシルク?」
「え、ええ…そうですけど?」
そうか、やはりあのネグリジェはシルクだったのか。
「ねぇ、シルク素材も太陽の光に当てて干していたの?」
「はい。勿論です」
当然のように返事をするブランカ。
「あ~それはダメよ。いい、シルク素材はね、日光に当てて干すと黄色くなっちゃうから絶対に陰干しがお勧め。分かった?今度からそうするのよ?」
するとブランカが何かに気づいたのか、あっと驚きの顔を見せた。
「そう言えば、シルクの素材って、すぐに黄色く変色してました。何故かと思っていたのですが、日光の下で干していたからなんですね?ようやく分りました!」
「ええ、そうよ。シルクは日陰干しが基本。だから早くお洗濯してきたほうがいいわよ。そうじゃないと乾かないから」
「はい!分かりました!」
ブランカは洗濯籠を持って小走りに去って行った。その後姿を満足気に見つめる私。
「フフフ…また前世の知識が役にたったわね」
扉を開けて、部屋に入るとお気に入りのソファにドサリと腰掛け、足を組むと呟いた。
「ふぅ~…前世の記憶が戻るまでは南塔が遠すぎて嫌だったけど、良く考えてみると外に出掛けなくてもウォーキングが出来るって最高の環境よね」
さて…これからどうしようかな。
「そうだ、まずはこの世界では離婚をする場合どこに相談すればよいか、調べないと。それに両親にも報告して…」
そこまで考え、私はがっくりと肩を落とした。
そうだった…。祖父と父は貴族に目が無い王亜親子2代で財を築いた大商人。その財力に物を言わせて今まで欲しいものは全て手に入れてきた。たった一つをのぞいて。
そのたった一つのものと言うのが貴族の【爵位】だったのだ。成金らしく、どうしても爵位を手に入れたかった祖父と父は一人娘である私に白羽の矢を立てた。爵位は高いけれどもお金に困っている貴族に巨額な持参金付きの嫁として私を差し出そうと考えたのだ。
そこで父と祖父は【独身貴族求む!巨額の持参付きの花嫁あげます】とうたったビラを大々的にこの町一体に撒いて宣伝し、名乗りを上げたのが、今の夫の両親である。
それが今から1年前の出来事だった―。
****
「それにしても…爵位欲しさに娘を売りに出すなんて、ろくでもない身内よね」
ソファにゴロリと横になりながら、私は呟いた。
恐らく私がラファエルと離婚したいと言っても祖父も父も認めてくれないだろう。何しろこのノイマン家…没落寸前ではあったけれども、この地で400年続く由緒正しい伯爵家なのだから。そのノイマン家が困窮し始めたのは先先代のノイマン伯爵が浪費家かつ賭博好きのろくでなしだったからだ。彼のせいでノイマン家は借金がかさみ、先祖代々引き継いできた領地を手放す寸前に、ここ『テミス』の町で一番の大富豪商人のばらまいたビラを手にした。
そして『テミスの大富豪』と呼ばれた一人娘の私、ゲルダとノイマン家の嫡男ラファエルとの婚姻関係が結ばれることになったのだ。
「あの当時の私に今出会えるものなら、一発殴りつけたい心境だわ…」
頭を抱えながら思わずため息が漏れてしまった。何故なら私はラファエルに一目惚れしてしまい、彼と結婚出来るならどんな犠牲もいとわない!と、圧倒的に理不尽な条件を飲んでしまったのだ。
その条件には様々な内容が多岐にわたっていた。
例えば我が屋敷から、年間1億2000万シリル(日本円で換算すると1億2000万円)の支援金を保証する事。ノイマン家の生活スタイルに異議申し立てはしない事。私1人だけ別の塔で暮らす事…等々が盛り込まれていた。
けれども、これらは特に大きな問題では無かった。何故なら支援金に関して言えば、実家は世界的にも有名な【テミスの大富豪】であり、貴族の称号を分けてもらえるなら1億2000万シリル等微々たる金額だったからだ。残りの要件は全て私に関わることだらけだったので、とんとん拍子に結婚話は進んでいった。
そして彼らは卑怯な事に…結婚式前夜まで一番肝心な事柄を私に伝えなかったのだ。
ラファエルには「アネット」と呼ばれる落ちぶれた子爵家の幼馴染がいて、2人は同じ部屋で寝食を共にしていた。
そして私とラファエルが結婚後も2人は寝食を共にするが、その事に関して私は一切の文句を言ってはいけないと言う。
結婚するにあたり、あまりにも私にとって不利な条件が隠されていたのだ―。
「あ、お帰りなさいませ。奥様」
自室の前でに籠に入れた洗濯物を運ぼうとしていたブランカが声を掛けてきた。
「ええ、ただいま」
返事をすると何故かブランカがじ~っと私を見つめている。
「え?何?」
「いえ…今日は泣かれなかったのだなと思って」
「え?泣く…?」
そうだった。今までの私はラファエルが朝食の席に現れないので毎回泣きながら部屋に戻って来ていたんだっけ…。その私の態度がますます周囲の使用人たちから馬鹿にされる原因になっている事に気付きもせずに。
それにしても以前までの自分が情けなくてたまらない。あんな顔だけしか取り柄の無い男に惚れこんでいたなんて。前世で産み育てた我が息子の俊也の方が断然魅力に溢れていたわ。…まぁ、少し親の欲目もあるけどね。
「…本当に昨日までの私って馬鹿だったわね」
ぽつりと呟くと、どうやらブランカに聞こえていたようだった。
「え?奥様?何かおっしゃいましたか?」
首をかしげてきた。
「何でも無い、何でも無い。ほら、早く洗濯しに行った方がいいわよ。3月とはいえ、まだまだ外は寒いんだから早く洗い物をして干さないと乾かないわよ」
その時、ブランカの持つ洗濯物の中に私が今朝来ていたネグリジェが入ってる事に気付いた。
「あら、それも洗うのね?」
「はい、そうです」
「ちなみにそれは素材はシルク?」
「え、ええ…そうですけど?」
そうか、やはりあのネグリジェはシルクだったのか。
「ねぇ、シルク素材も太陽の光に当てて干していたの?」
「はい。勿論です」
当然のように返事をするブランカ。
「あ~それはダメよ。いい、シルク素材はね、日光に当てて干すと黄色くなっちゃうから絶対に陰干しがお勧め。分かった?今度からそうするのよ?」
するとブランカが何かに気づいたのか、あっと驚きの顔を見せた。
「そう言えば、シルクの素材って、すぐに黄色く変色してました。何故かと思っていたのですが、日光の下で干していたからなんですね?ようやく分りました!」
「ええ、そうよ。シルクは日陰干しが基本。だから早くお洗濯してきたほうがいいわよ。そうじゃないと乾かないから」
「はい!分かりました!」
ブランカは洗濯籠を持って小走りに去って行った。その後姿を満足気に見つめる私。
「フフフ…また前世の知識が役にたったわね」
扉を開けて、部屋に入るとお気に入りのソファにドサリと腰掛け、足を組むと呟いた。
「ふぅ~…前世の記憶が戻るまでは南塔が遠すぎて嫌だったけど、良く考えてみると外に出掛けなくてもウォーキングが出来るって最高の環境よね」
さて…これからどうしようかな。
「そうだ、まずはこの世界では離婚をする場合どこに相談すればよいか、調べないと。それに両親にも報告して…」
そこまで考え、私はがっくりと肩を落とした。
そうだった…。祖父と父は貴族に目が無い王亜親子2代で財を築いた大商人。その財力に物を言わせて今まで欲しいものは全て手に入れてきた。たった一つをのぞいて。
そのたった一つのものと言うのが貴族の【爵位】だったのだ。成金らしく、どうしても爵位を手に入れたかった祖父と父は一人娘である私に白羽の矢を立てた。爵位は高いけれどもお金に困っている貴族に巨額な持参金付きの嫁として私を差し出そうと考えたのだ。
そこで父と祖父は【独身貴族求む!巨額の持参付きの花嫁あげます】とうたったビラを大々的にこの町一体に撒いて宣伝し、名乗りを上げたのが、今の夫の両親である。
それが今から1年前の出来事だった―。
****
「それにしても…爵位欲しさに娘を売りに出すなんて、ろくでもない身内よね」
ソファにゴロリと横になりながら、私は呟いた。
恐らく私がラファエルと離婚したいと言っても祖父も父も認めてくれないだろう。何しろこのノイマン家…没落寸前ではあったけれども、この地で400年続く由緒正しい伯爵家なのだから。そのノイマン家が困窮し始めたのは先先代のノイマン伯爵が浪費家かつ賭博好きのろくでなしだったからだ。彼のせいでノイマン家は借金がかさみ、先祖代々引き継いできた領地を手放す寸前に、ここ『テミス』の町で一番の大富豪商人のばらまいたビラを手にした。
そして『テミスの大富豪』と呼ばれた一人娘の私、ゲルダとノイマン家の嫡男ラファエルとの婚姻関係が結ばれることになったのだ。
「あの当時の私に今出会えるものなら、一発殴りつけたい心境だわ…」
頭を抱えながら思わずため息が漏れてしまった。何故なら私はラファエルに一目惚れしてしまい、彼と結婚出来るならどんな犠牲もいとわない!と、圧倒的に理不尽な条件を飲んでしまったのだ。
その条件には様々な内容が多岐にわたっていた。
例えば我が屋敷から、年間1億2000万シリル(日本円で換算すると1億2000万円)の支援金を保証する事。ノイマン家の生活スタイルに異議申し立てはしない事。私1人だけ別の塔で暮らす事…等々が盛り込まれていた。
けれども、これらは特に大きな問題では無かった。何故なら支援金に関して言えば、実家は世界的にも有名な【テミスの大富豪】であり、貴族の称号を分けてもらえるなら1億2000万シリル等微々たる金額だったからだ。残りの要件は全て私に関わることだらけだったので、とんとん拍子に結婚話は進んでいった。
そして彼らは卑怯な事に…結婚式前夜まで一番肝心な事柄を私に伝えなかったのだ。
ラファエルには「アネット」と呼ばれる落ちぶれた子爵家の幼馴染がいて、2人は同じ部屋で寝食を共にしていた。
そして私とラファエルが結婚後も2人は寝食を共にするが、その事に関して私は一切の文句を言ってはいけないと言う。
結婚するにあたり、あまりにも私にとって不利な条件が隠されていたのだ―。
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