118 / 152
118話 ほんのお礼です
しおりを挟む
2人で庭の後片付けの作業を開始して約1時間後――
「ありがとうございます、お陰様ですっかりお庭が綺麗になりました」
イレーネがケヴィンに礼を述べた。
「いえ、いいんですよ。地元住民として協力しただけですから。それではそろそろ帰りますね」
ケヴィンが軍手を外し、帰り支度を始めるのを見てイレーネは声をかけた。
「あ、そうですわ。少し、お待ちいただけますか? すぐに戻りますので」
「え? ええ、いいですけど?」
イレーネはケヴィンをその場に残すと、いそいそと家の中に入っていった。そして数分後、トレーを手にして戻ってきた。
「これ、ほんのお礼です。どうぞ」
トレーの上にはグラスに注がれた飲み物に、スコーンが乗っている。
「え? 頂いてもよろしいのですか?」
「はい、これはミントティーです。疲れた身体にいいですよ? こちらのスコーンも私のお手製です」
するとケヴィンが笑った。
「アハハハハッ。大丈夫ですよ、僕の職業をお忘れですか? 警察官で体を鍛えていますからこれくらい、どうってことないです。でも折角なのでいただきますね」
「ええ。どうぞ」
ケヴィンは早速グラスを手に取ると、ミントティーを口にした。
余程喉が渇いていたのか、そのまま一気に飲み干しとグラスをトレーに戻した。
「さっぱりした味で美味しいです。ありがとうございます。あの、スコーンはお土産に頂いて帰ってもいいですか? 家に帰ってからの楽しみにしたいので」
「それでしたらもっと持って行って下さい。まだ沢山ありますので。今取ってまいりますね」
「い、いえ。何もそこまでして頂かなくても……」
しかしイレーネは最後まで聞かずに家の中に入ると、今度は紙袋を手に戻ってきた。
「どうぞ、ケヴィンさん。5個差し上げますわ」
そして笑顔で差し出す。
「え? そんなに頂いてもいいのですか?」
「ええ、勿論です。ケヴィンさんには今までにも色々お世話になっておりますから。どうぞお持ちになって下さい」
「……どうもありがとうございます。では、遠慮なく頂きますね」
顔を薄っすら赤らめながらケヴィンは受け取った。
「それでは僕はこの辺で」
「はい、今日は本当にありがとうございました」
ケヴィンは馬にまたがると、イレーネを見つめる。
「イレーネさん」
「はい。何でしょう?」
「今日は……一緒に働けて楽しかったです。それでは失礼しますね」
「え? は、はい」
キョトンとするイレーネに見送られ、ケヴィンは馬に乗って去って行った。
その後姿を見送るイレーネはポツリと呟く。
「ケヴィンさんて……働くのが余程好きな方なのね。さすがはお巡りさんだわ」
ケヴィンの協力のお陰で、畑はすっかり元通りになっていた。
「これなら、明日にでもルシアン様の元へ戻れそうね。フフフ……何だか我が家に帰る気分だわ」
イレーネは青空を見上げて、伸びをすると家の中へ入って行った。
マイスター家に帰宅する準備をするために――
「ありがとうございます、お陰様ですっかりお庭が綺麗になりました」
イレーネがケヴィンに礼を述べた。
「いえ、いいんですよ。地元住民として協力しただけですから。それではそろそろ帰りますね」
ケヴィンが軍手を外し、帰り支度を始めるのを見てイレーネは声をかけた。
「あ、そうですわ。少し、お待ちいただけますか? すぐに戻りますので」
「え? ええ、いいですけど?」
イレーネはケヴィンをその場に残すと、いそいそと家の中に入っていった。そして数分後、トレーを手にして戻ってきた。
「これ、ほんのお礼です。どうぞ」
トレーの上にはグラスに注がれた飲み物に、スコーンが乗っている。
「え? 頂いてもよろしいのですか?」
「はい、これはミントティーです。疲れた身体にいいですよ? こちらのスコーンも私のお手製です」
するとケヴィンが笑った。
「アハハハハッ。大丈夫ですよ、僕の職業をお忘れですか? 警察官で体を鍛えていますからこれくらい、どうってことないです。でも折角なのでいただきますね」
「ええ。どうぞ」
ケヴィンは早速グラスを手に取ると、ミントティーを口にした。
余程喉が渇いていたのか、そのまま一気に飲み干しとグラスをトレーに戻した。
「さっぱりした味で美味しいです。ありがとうございます。あの、スコーンはお土産に頂いて帰ってもいいですか? 家に帰ってからの楽しみにしたいので」
「それでしたらもっと持って行って下さい。まだ沢山ありますので。今取ってまいりますね」
「い、いえ。何もそこまでして頂かなくても……」
しかしイレーネは最後まで聞かずに家の中に入ると、今度は紙袋を手に戻ってきた。
「どうぞ、ケヴィンさん。5個差し上げますわ」
そして笑顔で差し出す。
「え? そんなに頂いてもいいのですか?」
「ええ、勿論です。ケヴィンさんには今までにも色々お世話になっておりますから。どうぞお持ちになって下さい」
「……どうもありがとうございます。では、遠慮なく頂きますね」
顔を薄っすら赤らめながらケヴィンは受け取った。
「それでは僕はこの辺で」
「はい、今日は本当にありがとうございました」
ケヴィンは馬にまたがると、イレーネを見つめる。
「イレーネさん」
「はい。何でしょう?」
「今日は……一緒に働けて楽しかったです。それでは失礼しますね」
「え? は、はい」
キョトンとするイレーネに見送られ、ケヴィンは馬に乗って去って行った。
その後姿を見送るイレーネはポツリと呟く。
「ケヴィンさんて……働くのが余程好きな方なのね。さすがはお巡りさんだわ」
ケヴィンの協力のお陰で、畑はすっかり元通りになっていた。
「これなら、明日にでもルシアン様の元へ戻れそうね。フフフ……何だか我が家に帰る気分だわ」
イレーネは青空を見上げて、伸びをすると家の中へ入って行った。
マイスター家に帰宅する準備をするために――
20
お気に入りに追加
1,641
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中

強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。

この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに、なぜか潔癖公爵様に溺愛されています!〜
海空里和
恋愛
まるで物語に出てくる「悪役令嬢」のようだと悪評のあるアリアは、魔法省局長で公爵の爵位を継いだフレディ・ローレンと契約結婚をした。フレディは潔癖で女嫌いと有名。煩わしい社交シーズン中の虫除けとしてアリアが彼の義兄でもある宰相に依頼されたのだ。
噂を知っていたフレディは、アリアを軽蔑しながらも違和感を抱く。そして初夜のベッドの上で待っていたのは、「悪役令嬢」のアリアではなく、フレディの初恋の人だった。
「私は悪役令嬢「役」を依頼されて来ました」
「「役」?! 役って何だ?!」
悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせないアリアと、彼女にしか触れることの出来ない潔癖なフレディ。
溺愛したいフレディとそれをお仕事だと勘違いするアリアのすれ違いラブ!
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる