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82話 祖父との面会
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「その娘が、この間お前が話していた婚約したいと話していた相手か?」
ジロリとジェームズがイレーネを見る。
「いえ。婚約したい相手ではなく婚約者です。お祖父様に2人の結婚を認めていただくために、彼女を連れて参りました」
緊張しながら返事をするルシアン。
「……ところで、いつまで2人はそうやって手を繋いでいるつもりだ?」
「え? あ! こ、これはその……違うんです!」
慌ててイレーネの手を離すルシアン。
ジェームズに指摘されるまで、ルシアンはイレーネと手を繋いでいたことに気づかなかったのだ。
すると、今まで沈黙していたイレーネが口を開いた。
「はじめまして。マイスター伯爵様。私はイレーネ・シエラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
貴族令嬢らしく、完璧な挨拶をするイレーネ。
「……確か、『コルト』とか言う田舎出身の男爵令嬢らしいな。未だに田園風景が多く、まだまだ発展途上の地域だろう?」
ジェームズは無愛想な表情でイレーネを見つめる。
(出た! 祖父の嫌味な態度が……!)
「お祖父様。それは……」
ルシアンが口を挟もうとした時、イレーネが笑みを浮かべる。
「マイスター伯爵様は『コルト』のことを、よくご存知なのですね。はい、あの場所は田園風景が多く残されているので、農産物が特産品です。特に『コルト』のワインは絶品です。本日、こちらに1本お持ちしておりますので御夕食の際にお召し上がりになってみませんか?」
「何? ワインだと?」
険しかったジェームズの眉が少しだけ緩む。
一方、驚いたのはルシアンだ。
(何だって!? 『コルト』産のワインだって? そんな物を用意していたのか!?)
「はい、ワインはお好きですか?」
「う、うむ……そうだな。好き……だ」
ゴホンと咳払いするジェームズ。
「それは良かったです。祖父は若い頃、ワイン作りが得意だったのです」
「なる程……君の祖父が」
得意げに語るイレーネの話にジェームズは頷く。
(イレーネ! 俺はそんな話、初耳だぞ!!)
何も聞かされていなかったルシアンはイレーネに目で訴える。すると……。
「何だ? ルシアン。お前は先程から彼女ばかり見つめおって……」
「い、いえ! 決してそんなつもりでは……!」
ジェームスの言葉に、ルシアンは首を振る。
「まぁ良い。着いたばかりで疲れただろう。夕食の際にまた詳しく話を聞こう」
ジェームズはスーツのポケットから呼び鈴を取り出すと、チリンチリンと鳴らした。
すると開いたままの扉から先程の執事、メイソンが現れた。
「旦那様、お呼びでしょうか?」
「部屋まで案内してやってくれ」
「承知致しました」
ジェームズの言葉にメイソンは返事をすると、イレーネに声をかけた。
「それでは、お部屋までご案内致します」
「ありがとうございます」
イレーネは返事をするとジェームズに向き直った。
「それでは失礼致します」
「うむ」
頷くジェームズ。
「お祖父様、それでは失礼致します」
ルシアンも部屋を出ようとした時。
「待て、ルシアン。誰がお前まで行ってよいと言った?」
「え?」
「部屋を出て良いのは彼女だけだ。お前は残るのだ」
「は、はい……」
恐縮しながら返事をするルシアン。
「それではルシアン様。お先に失礼致しますね」
呑気なイレーネはルシアンに声をかけると、メイソンに連れられて部屋を出ていった。
――パタン
扉が閉ざされ、部屋の中はジェームズとルシアンの2人きりになる。
「……ルシアン」
おもむろに口を開くジェームズ。
「はい」
「今度の女性は、随分前回とはタイプが違うようだな」
「……」
口を閉ざすルシアン。
「彼女と結婚を考えていると言うことは……もう、あの女優のことは完全に吹っ切れたと考えて良いのだな?」
「!」
その言葉に、ルシアンの肩が小さく跳ねた――
ジロリとジェームズがイレーネを見る。
「いえ。婚約したい相手ではなく婚約者です。お祖父様に2人の結婚を認めていただくために、彼女を連れて参りました」
緊張しながら返事をするルシアン。
「……ところで、いつまで2人はそうやって手を繋いでいるつもりだ?」
「え? あ! こ、これはその……違うんです!」
慌ててイレーネの手を離すルシアン。
ジェームズに指摘されるまで、ルシアンはイレーネと手を繋いでいたことに気づかなかったのだ。
すると、今まで沈黙していたイレーネが口を開いた。
「はじめまして。マイスター伯爵様。私はイレーネ・シエラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
貴族令嬢らしく、完璧な挨拶をするイレーネ。
「……確か、『コルト』とか言う田舎出身の男爵令嬢らしいな。未だに田園風景が多く、まだまだ発展途上の地域だろう?」
ジェームズは無愛想な表情でイレーネを見つめる。
(出た! 祖父の嫌味な態度が……!)
「お祖父様。それは……」
ルシアンが口を挟もうとした時、イレーネが笑みを浮かべる。
「マイスター伯爵様は『コルト』のことを、よくご存知なのですね。はい、あの場所は田園風景が多く残されているので、農産物が特産品です。特に『コルト』のワインは絶品です。本日、こちらに1本お持ちしておりますので御夕食の際にお召し上がりになってみませんか?」
「何? ワインだと?」
険しかったジェームズの眉が少しだけ緩む。
一方、驚いたのはルシアンだ。
(何だって!? 『コルト』産のワインだって? そんな物を用意していたのか!?)
「はい、ワインはお好きですか?」
「う、うむ……そうだな。好き……だ」
ゴホンと咳払いするジェームズ。
「それは良かったです。祖父は若い頃、ワイン作りが得意だったのです」
「なる程……君の祖父が」
得意げに語るイレーネの話にジェームズは頷く。
(イレーネ! 俺はそんな話、初耳だぞ!!)
何も聞かされていなかったルシアンはイレーネに目で訴える。すると……。
「何だ? ルシアン。お前は先程から彼女ばかり見つめおって……」
「い、いえ! 決してそんなつもりでは……!」
ジェームスの言葉に、ルシアンは首を振る。
「まぁ良い。着いたばかりで疲れただろう。夕食の際にまた詳しく話を聞こう」
ジェームズはスーツのポケットから呼び鈴を取り出すと、チリンチリンと鳴らした。
すると開いたままの扉から先程の執事、メイソンが現れた。
「旦那様、お呼びでしょうか?」
「部屋まで案内してやってくれ」
「承知致しました」
ジェームズの言葉にメイソンは返事をすると、イレーネに声をかけた。
「それでは、お部屋までご案内致します」
「ありがとうございます」
イレーネは返事をするとジェームズに向き直った。
「それでは失礼致します」
「うむ」
頷くジェームズ。
「お祖父様、それでは失礼致します」
ルシアンも部屋を出ようとした時。
「待て、ルシアン。誰がお前まで行ってよいと言った?」
「え?」
「部屋を出て良いのは彼女だけだ。お前は残るのだ」
「は、はい……」
恐縮しながら返事をするルシアン。
「それではルシアン様。お先に失礼致しますね」
呑気なイレーネはルシアンに声をかけると、メイソンに連れられて部屋を出ていった。
――パタン
扉が閉ざされ、部屋の中はジェームズとルシアンの2人きりになる。
「……ルシアン」
おもむろに口を開くジェームズ。
「はい」
「今度の女性は、随分前回とはタイプが違うようだな」
「……」
口を閉ざすルシアン。
「彼女と結婚を考えていると言うことは……もう、あの女優のことは完全に吹っ切れたと考えて良いのだな?」
「!」
その言葉に、ルシアンの肩が小さく跳ねた――
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