上 下
67 / 152

67話 イレーネVS(?)ブリジット

しおりを挟む
「ちょ、ちょっとどういうことよ! ルシアン様の婚約者だなんて……! そんな話、初耳よ!」

ブリジットは興奮のあまり、立ち上がる。

「ええ、そうですよね? 何しろつい最近、私とルシアン様の婚約が決まったばかりなのですから」

そのとき――

「あ、あの……お茶とお茶菓子をお持ちいたしました」

メイドのアナがワゴンに2人分のとびきりのお茶と焼菓子を乗せて応接室に現れた。

「まぁ、アナ。どうもありがとう」

ニコニコしながら声をかけるイレーネ。

「い、いえ。では失礼いたします」

アナはいそいそと2人の側に行くと、紅茶と焼菓子をテーブルに乗せ……チラリとブリジットを見た。

「何よ?」

ジロリと睨むブリジット。

「い、いえ。何でもありません! し、失礼致しました!」

ペコリと頭を下げると、アナは逃げるように応接室を後にした。

「まぁ……美味しそうなお茶にケーキですね。ブリジット様、一緒に頂きましょう」

「……は?」

唖然とするブリジットにイレーネは声をかけると、早速カップに口をつけると笑みを浮かべた。

「……まぁ。香りも素敵だし、味も最高だわ」

「ちょっと待ちなさい!! あなたねぇ……よ、よくもこんな状態でお茶なんか飲めるわね!」

ブリジットは興奮のあまり、髪の毛同様頬を赤く染める。

「ブリジット様、このお茶本当に美味しいですよ? 温かいうちに飲まれたほうがよろしいかと思います」

しかし、イレーネはブリジットの興奮する様子に動じることもなくお茶を勧める。

「……なら頂くわ」

(そうね。お茶を飲んで少し冷静になりましょう)

ブリジットはおとなしく座ると、早速紅茶を口にした。それはとてもフルーティーな香りで、飲みやすい紅茶だった。

「……確かに美味しいわ」

「ですよね? それなら焼き菓子も頂きましょう……まぁ! とっても美味しいわ!  この紅茶と本当によく合います。ささ、ブリジット様もどうぞお召し上がりになってみて下さい」

イレーネがあまりにも美味しそうに焼菓子を口にするので、ブリジットも食べてみようと思った。ただし、強気な態度は崩さずに。

「ふ、ふん。食べ物なんかで私がつられるとでも思っているの? こう見えても私は色々な美味しいスイーツを食べ歩いているのだから」

そしてフォークで焼き菓子を口に運び……。

「! 美味しいじゃない……」

「ですよね? お茶も焼き菓子も最高に美味しいですね。きっと、マイスター家の人々がブリジット様に最高のティータイムを準備したのでしょうね」

ニコニコ笑みを浮かべるイレーネ。

「そ、そうなのかしら……じゃなくて!」

ブリジットはお茶を口にすると、再び眉を吊り上げた。

「お茶やお菓子なんかでごまかされないわよ! ルシアン様の婚約者だなんて、私は
絶対に認めないわよ! 私はね、あなたよりもずっと前にルシアン様と知り合って、そのときからずっとあの方を慕っていたのだから!」

「まぁ!? そうだったのですか? それは大変申し訳ございませんでした。……確かに、私から見ましても美しいブリジット様のほうが余程ルシアン様とお似合いだと思います」

「え? え……ええ、そうよ。何よ、ちゃんと分かっているじゃない」

美しいと言われて悪い気がしないブリジット。

「だったら、さっさとルシアン様から身を引きなさい」

「……申し訳ございません。……それが、私の一存では出来ないのです」

ため息をつくイレーネ。

「はい?」

「ルシアン様の方が私よりも爵位が上です。私の方から身を引くなど、恐れ多くて出来ません。そしてルシアン様は現当主様に私と婚姻することを報告するために遠方に出向いておりまして現在不在です。そのためにどうしても今はブリジット様のお言葉を承諾することができないのです。何卒ご理解いただきますよう、お願い申し上げます」

「……」

ブリジットがその言葉に呆れたのは言うまでもなかった――
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに、なぜか潔癖公爵様に溺愛されています!〜

海空里和
恋愛
まるで物語に出てくる「悪役令嬢」のようだと悪評のあるアリアは、魔法省局長で公爵の爵位を継いだフレディ・ローレンと契約結婚をした。フレディは潔癖で女嫌いと有名。煩わしい社交シーズン中の虫除けとしてアリアが彼の義兄でもある宰相に依頼されたのだ。 噂を知っていたフレディは、アリアを軽蔑しながらも違和感を抱く。そして初夜のベッドの上で待っていたのは、「悪役令嬢」のアリアではなく、フレディの初恋の人だった。 「私は悪役令嬢「役」を依頼されて来ました」 「「役」?! 役って何だ?!」  悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせないアリアと、彼女にしか触れることの出来ない潔癖なフレディ。 溺愛したいフレディとそれをお仕事だと勘違いするアリアのすれ違いラブ!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

元バリキャリ、マッチ売りの少女に転生する〜マッチは売るものではなく、買わせるものです

結城芙由奈 
ファンタジー
【マッチが欲しい? すみません、完売しました】 バリキャリの私は得意先周りの最中に交通事故に遭ってしまった。次に目覚めた場所は隙間風が吹き込むような貧しい家の中だった。しかも目の前にはヤサグレた飲んだくれの中年男。そして男は私に言った。 「マッチを売るまで帰ってくるな!」 え? もしかしてここって……『マッチ売りの少女』の世界? マッチ売りの少女と言えば、最後に死んでしまう救いようがない話。死ぬなんて冗談じゃない! この世界で生き残るため、私は前世の知識を使ってマッチを売りさばく決意をした―― ※他サイトでも投稿中

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
恋愛
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには許嫁の公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 メイヴィスはサイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...