107 / 152
第7章 12 月に祈る
しおりを挟む カウンターの中へ入った私とユリアナ。
ユリアナは酒棚から一番大きな瓶を取り除くと、そこにはレバーが付いていた。
そしてユリアナは無言でレバーを掴み、勢いよく下に下げた。
すると・・・
ガコン・・・
突如、右側から何かが動くような音が聞こえた。
「え?」
音の方向を見ると、そこは何も無いただの木の壁だったはずが、いつの間にか奥へ続く空間が現れていた。よく見ると壁だと思っていたのは跳ね上げ式のドアになっていたのだ。
「さ、誰かに見られる前に先へ進みましょう。」
ユリアナに促され、私は隠し扉の中へ入った。
ガコン・・・
すると背後で再び、音が聞こえ、振り向くと入口は閉ざされていた。
「私たちが中へ入ったのでキデオンが入口を閉めたのです。あ・・キデオンと言うのは先ほどカウンターにいた男性です。彼の役目は・・おもに王宮の情報を集める仕事と・・資金を集める事なのです。」
そこは倉庫置き場なのだろうか、テーブルや椅子、木箱等様々なものが乱雑に置かれ、大きな窓からは頭上に月が見えていた。板で出来ている倉庫の中を歩きながらユリアナが説明してくれた。
「そうですか・・酒場でお客から情報と収入源を得る・・・とても効率の良い方法ですね。これも皆さんで考えた方法ですか?」
「ええ、そうです。オスカー様もよく変装してあの酒場に足を運んでいました。・・最も時々『黒いオスカー』が現れる事もありましたが・・。」
ユリアナは苦笑しながら言う。
ああ・・・ひょとすると酒場で暴れていたオスカーの事なのだろう・・。
私は窓の外を見た。大きな月が窓から見える。いつかオスカーと2人で見た月が思い出され、思わずポツリと呟いてしまった。
「オスカー様・・。」
すると前を歩いていたユリアナが立ち止まると振り返り、私に言った。
「やはり・・アイリス様も・・・オスカー様の事を思ってらっしゃるのですね。」
ユリアナまでもがアルマンゾと同じような言い方をする。
だけど、私は・・。
・・・情けないことに私は前世と合わせれば100年近い時を生きていると言うのに・・本当の恋を経験したことが無かった。レイフに思いを寄せていたことはあったけれども、それは今考えてみれば子供の時の淡い恋。そしてオスカーと婚約をしていた時は、イリヤ家の繁栄の為にとオスカーの将来の良き妻になれるように努力したが・・無駄だった。挙句の果てに国王とタバサの手に堕ちたオスカーは私に酷い暴力を振るい・・流刑島に私を捨てて行ったのだ。
そこで過ごしたアスターとの70年間。そして再びタイムリープした私はオスカーと再会して・・彼が本当は私を愛していると言う事を知った。
「アルマンゾも貴女も・・・私がオスカー様を思っていると言うけど・・本当にそうなのか・・私はオスカー様をどう思っているのか自分で自分の気持ちが・・よく分らないのよ・・。」
私は今の自分の正直な気持ちを語った。
「・・・。」
するとユリアナは私の事をじっと見つめると、言った。
「アイリス様は・・何故今オスカー様の名前を口にしたのですか?」
「え?ええ・・それは・・月がとても美しかったから・・オスカー様といつか2人でみた月を思い出して・・それで・・。」
「美しい景色を誰かと見たことが思い出されるというのは・・やはりその方を思っている証拠だと思いますよ?」
ユリアナはニッコリ微笑むと私に言った。
「そういう・・・もの・・なの・・?」
「はい、私はそう思います。」
「そう・・・。」
私は呟き、再び空を見上げて月を見た。
オスカー・・どうか・・無事でいて下さい・・。
気付けば私は月に祈っていた―。
ユリアナは酒棚から一番大きな瓶を取り除くと、そこにはレバーが付いていた。
そしてユリアナは無言でレバーを掴み、勢いよく下に下げた。
すると・・・
ガコン・・・
突如、右側から何かが動くような音が聞こえた。
「え?」
音の方向を見ると、そこは何も無いただの木の壁だったはずが、いつの間にか奥へ続く空間が現れていた。よく見ると壁だと思っていたのは跳ね上げ式のドアになっていたのだ。
「さ、誰かに見られる前に先へ進みましょう。」
ユリアナに促され、私は隠し扉の中へ入った。
ガコン・・・
すると背後で再び、音が聞こえ、振り向くと入口は閉ざされていた。
「私たちが中へ入ったのでキデオンが入口を閉めたのです。あ・・キデオンと言うのは先ほどカウンターにいた男性です。彼の役目は・・おもに王宮の情報を集める仕事と・・資金を集める事なのです。」
そこは倉庫置き場なのだろうか、テーブルや椅子、木箱等様々なものが乱雑に置かれ、大きな窓からは頭上に月が見えていた。板で出来ている倉庫の中を歩きながらユリアナが説明してくれた。
「そうですか・・酒場でお客から情報と収入源を得る・・・とても効率の良い方法ですね。これも皆さんで考えた方法ですか?」
「ええ、そうです。オスカー様もよく変装してあの酒場に足を運んでいました。・・最も時々『黒いオスカー』が現れる事もありましたが・・。」
ユリアナは苦笑しながら言う。
ああ・・・ひょとすると酒場で暴れていたオスカーの事なのだろう・・。
私は窓の外を見た。大きな月が窓から見える。いつかオスカーと2人で見た月が思い出され、思わずポツリと呟いてしまった。
「オスカー様・・。」
すると前を歩いていたユリアナが立ち止まると振り返り、私に言った。
「やはり・・アイリス様も・・・オスカー様の事を思ってらっしゃるのですね。」
ユリアナまでもがアルマンゾと同じような言い方をする。
だけど、私は・・。
・・・情けないことに私は前世と合わせれば100年近い時を生きていると言うのに・・本当の恋を経験したことが無かった。レイフに思いを寄せていたことはあったけれども、それは今考えてみれば子供の時の淡い恋。そしてオスカーと婚約をしていた時は、イリヤ家の繁栄の為にとオスカーの将来の良き妻になれるように努力したが・・無駄だった。挙句の果てに国王とタバサの手に堕ちたオスカーは私に酷い暴力を振るい・・流刑島に私を捨てて行ったのだ。
そこで過ごしたアスターとの70年間。そして再びタイムリープした私はオスカーと再会して・・彼が本当は私を愛していると言う事を知った。
「アルマンゾも貴女も・・・私がオスカー様を思っていると言うけど・・本当にそうなのか・・私はオスカー様をどう思っているのか自分で自分の気持ちが・・よく分らないのよ・・。」
私は今の自分の正直な気持ちを語った。
「・・・。」
するとユリアナは私の事をじっと見つめると、言った。
「アイリス様は・・何故今オスカー様の名前を口にしたのですか?」
「え?ええ・・それは・・月がとても美しかったから・・オスカー様といつか2人でみた月を思い出して・・それで・・。」
「美しい景色を誰かと見たことが思い出されるというのは・・やはりその方を思っている証拠だと思いますよ?」
ユリアナはニッコリ微笑むと私に言った。
「そういう・・・もの・・なの・・?」
「はい、私はそう思います。」
「そう・・・。」
私は呟き、再び空を見上げて月を見た。
オスカー・・どうか・・無事でいて下さい・・。
気付けば私は月に祈っていた―。
21
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
気付けば名も知らぬ悪役令嬢に憑依して、見知らぬヒロインに手をあげていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
私が憑依した身体の持ちは不幸のどん底に置かれた悪役令嬢でした
ある日、妹の部屋で見つけた不思議な指輪。その指輪をはめた途端、私は見知らぬ少女の前に立っていた。目の前には赤く腫れた頬で涙ぐみ、こちらをじっと見つめる可憐な美少女。そして何故か右手の平が痛む私。もしかして・・今私、この少女を引っ叩いたの?!そして何故か頭の中で響き渡る謎の声の人物と心と体を共存することになってしまう。憑依した身体の持ち主はいじめられっ娘の上に悪役令嬢のポジションに置かれている。見るに見かねた私は彼女を幸せにする為、そして自分の快適な生活を手に入れる為に自ら身体を張って奮闘する事にした―。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜
八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」
侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。
その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。
フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。
そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。
そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。
死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて……
※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる