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第7章 11 第2の隠れ家
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『自由都市・リーベルタース』は夜だと言うのに大勢の人々であふれていた。沿道に等間隔に立てられたガス灯には明かりがともされ、町を明るく照らしている。お酒に酔ったかのようにほろ酔い気分な若者達の集団を私とユリアナはフードを目深に被り、通り抜けた。
「ねえ・・・ユリアナ。今は何時なのかしら?」
地下室から夜の街へ出てきた私には時間の感覚がさっぱりなかった。
「はい、もうすぐ日付が変わる時間帯でございます。」
小声でユリアナは答えてくれた。
「まさか・・・こんな時間なのに・・・人々が街に溢れているなんて・・・。」
夜の『リーベルタース』に来たことが無かった私にとっては驚きでしかなかった。
何故なら『リオス』では例え酒場であろうとも夜の11時には店を閉めなければならない決まりがあるからだ。
「はい。それもまた・・・自由都市『リーベルタース』でございます。・・それゆえ夜はかなり治安が悪くなる場所でもありますので・・・アイリス様。どうぞご用心なさって下さいませ。」
ああ・・・そういう事なのか・・ここは「自由」と引き換えに「治安」を手放してしまったのかもしれない・・・。
私たちは無言で街中を歩き続け・・・ユリアナはある建物の一角で足を止めた。そこは石造りの建物で、窓から中の様子がうかがえた。中では大勢の人々が楽しそうにお酒を飲んでいた。
「え・・?ひょ、ひょっとして・・酒場・・?」
私は我が目を疑った。するとユリアナは言った。
「はい、左様でございます。アイリス様。この酒場が・・私達『レジスタンス』の第2の隠れ家でございます。」
「ま・・まさか・・・本当に・・?」
とても信じられなった。
「本当かどうかは中へ入ればお分りになります。あまり沿道に立っていればよからぬ者たちに目を付けられかねません。すぐに中へ入りましょう。」
ユリアナは言うと、赤く塗られた木のドアを開けた。
ギイイ・・・。
少し軋んだドアの音を響かせてユリアナは迷うことなくカウンターへと足を向ける。私も慌てててユリアナの後を追った。
「いらっしゃい。」
カウンターには長袖のYシャツを肘までまくったダークブラウンの髪色の若い男性がお客の注文のお酒だろうか・・?カウンターに置かれた樽のジョッキをひねり、グラスに赤ワインを注いでいた。
「私よ。ユリアナよ。」
ユリアナはそこで初めてフードを外すと、私を紹介した。
「この方は・・・アイリス・イリヤ様。公爵家の女性でオスカー様の婚約者よ。」
「な・・何だって?!」
男性は驚いた様子で私を見た。そこでフードを外すと自分から挨拶をした。
「初めまして。アイリス・イリヤと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
すると男性は言った。
「そ、そのお姿は・・まぎれもなくアイリス様・・・まさか、本当にお目にかかれるとは思いってもいませんでした・・!」
「え・・?私の事をご存じなのですか?」
「ええ。勿論です。何故・・・隠れ家が酒場になってるのかお分りになりますか?こういう場所が一番人の情報が集まりやすいのです。また・・目くらましにもなる。まさかこれほどに人の出入りが激しい場所がレジスタンスの隠れ家だとは誰も思いませんからね。」
「そう・・だったのですか・・・。」
やはり、このような店を作ったのには・・・ちゃんとした理由があったんだ・・。
「アイリス様、このカウンターの酒棚の奥は隠し扉になっていて、私たちの隠れ家へと続いております。一緒に参りましょう。」
ユリアナに声を掛けられる。
「え、ええ・・そうね。」
私が頷くと、男性はカウンターの台を上にあげると言った。
「さあ、どうぞアイリス様、そしてユリアナ。」
こうして私とユリアナはカウンターの奥へと入り込んだ―。
「ねえ・・・ユリアナ。今は何時なのかしら?」
地下室から夜の街へ出てきた私には時間の感覚がさっぱりなかった。
「はい、もうすぐ日付が変わる時間帯でございます。」
小声でユリアナは答えてくれた。
「まさか・・・こんな時間なのに・・・人々が街に溢れているなんて・・・。」
夜の『リーベルタース』に来たことが無かった私にとっては驚きでしかなかった。
何故なら『リオス』では例え酒場であろうとも夜の11時には店を閉めなければならない決まりがあるからだ。
「はい。それもまた・・・自由都市『リーベルタース』でございます。・・それゆえ夜はかなり治安が悪くなる場所でもありますので・・・アイリス様。どうぞご用心なさって下さいませ。」
ああ・・・そういう事なのか・・ここは「自由」と引き換えに「治安」を手放してしまったのかもしれない・・・。
私たちは無言で街中を歩き続け・・・ユリアナはある建物の一角で足を止めた。そこは石造りの建物で、窓から中の様子がうかがえた。中では大勢の人々が楽しそうにお酒を飲んでいた。
「え・・?ひょ、ひょっとして・・酒場・・?」
私は我が目を疑った。するとユリアナは言った。
「はい、左様でございます。アイリス様。この酒場が・・私達『レジスタンス』の第2の隠れ家でございます。」
「ま・・まさか・・・本当に・・?」
とても信じられなった。
「本当かどうかは中へ入ればお分りになります。あまり沿道に立っていればよからぬ者たちに目を付けられかねません。すぐに中へ入りましょう。」
ユリアナは言うと、赤く塗られた木のドアを開けた。
ギイイ・・・。
少し軋んだドアの音を響かせてユリアナは迷うことなくカウンターへと足を向ける。私も慌てててユリアナの後を追った。
「いらっしゃい。」
カウンターには長袖のYシャツを肘までまくったダークブラウンの髪色の若い男性がお客の注文のお酒だろうか・・?カウンターに置かれた樽のジョッキをひねり、グラスに赤ワインを注いでいた。
「私よ。ユリアナよ。」
ユリアナはそこで初めてフードを外すと、私を紹介した。
「この方は・・・アイリス・イリヤ様。公爵家の女性でオスカー様の婚約者よ。」
「な・・何だって?!」
男性は驚いた様子で私を見た。そこでフードを外すと自分から挨拶をした。
「初めまして。アイリス・イリヤと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
すると男性は言った。
「そ、そのお姿は・・まぎれもなくアイリス様・・・まさか、本当にお目にかかれるとは思いってもいませんでした・・!」
「え・・?私の事をご存じなのですか?」
「ええ。勿論です。何故・・・隠れ家が酒場になってるのかお分りになりますか?こういう場所が一番人の情報が集まりやすいのです。また・・目くらましにもなる。まさかこれほどに人の出入りが激しい場所がレジスタンスの隠れ家だとは誰も思いませんからね。」
「そう・・だったのですか・・・。」
やはり、このような店を作ったのには・・・ちゃんとした理由があったんだ・・。
「アイリス様、このカウンターの酒棚の奥は隠し扉になっていて、私たちの隠れ家へと続いております。一緒に参りましょう。」
ユリアナに声を掛けられる。
「え、ええ・・そうね。」
私が頷くと、男性はカウンターの台を上にあげると言った。
「さあ、どうぞアイリス様、そしてユリアナ。」
こうして私とユリアナはカウンターの奥へと入り込んだ―。
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