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第6章 10 信じられる人物
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私を抱きしめて震えていたオスカーはようやく落ち着きを取り戻したのか、身体を離すと、再びベッドに横たわった。その顔色は・・青かった。
「オスカー様。やはり具合が悪いのですよね?今夜はこの屋敷に泊って行って下さい。」
「ああ・・・すまない・・・。」
オスカーは目を閉じると言った。
「オスカー様。質問の続きをしても・・よろしいですか?」
「ああ・・いいぞ。何だ?」
「地下牢へ閉じ込められたのですよね?良く・・・逃げてこられましたね?」
しかも・・・こんな大怪我を負って・・・。
「あの宮殿には・・・俺の仲間がいるんだ。」
「仲間?」
「ああ・・表向きは王宮騎士として父に忠誠を誓い、尽くしているが・・・実際は俺の仲間・・その人物が俺を牢屋から出して・・・逃がしてくれたが・・恐らくあいつはもう・・。」
オスカーは悔しそうに瞳をギュッと閉じると私に背を向けた。その背中は・・・震えていた。
「馬を用意してくれて、俺を王宮の外まで逃がしてくれたんだが、すぐに兵士と魔術師達の追手が現れて・・・俺を逃がす為に・・・。」
オスカーの声は震えている。
「馬に乗って・・逃げているときに背後で激しい爆発音が聞こえて・・・・きっとあいつは・・・!」
悔しさと悲しみが入り混じった声でオスカーは話を続けている。
「俺は必至で・・・森の中を馬で駆け・・途中で追いつかれて、魔術師の炎の攻撃と・・・刃が飛んできて・・・だが、運よくこの『リオス』にたどり着いて・・・。追手のあいつらは・・・ひょっとすると闇落ちしたのかもしれない。あいつらはこの都市に入ることが出来なかったからな・・。そして俺は馬に乗ってイリヤ家を目指していたが、馬も傷を負っていたようで・・途中で死んでしまった・・。近くの農家の家に・・死んだ馬を頼んだ後・・・俺はここまで歩いてきたんだ・・。」
「オスカー様・・・・。」
そんな・・そこまでしてオスカーは私に会いに・・・・?不覚にも胸に熱いものがこみ上げてきた。
「オスカー様・・・・ご無事で・・・本当に・・何よりでした・・・。」
私は声を振り絞って言った。
間違いない・・・彼は本物のオスカーだ。彼なら・・・信じてもいいのかもしれない・・・。今、目の前にいる彼なら・・・。
「アイリス・・・。」
オスカーは荒い呼吸をしながら、私にそっと微笑みかけた。まぶしい太陽がオスカーの髪をオレンジ色にキラキラと輝かせている。風で揺れるレースのカーテンの傍で、しばらく私たちは口を利かず、静かに見つめあうのだった―。
パタン・・・。
救護室のドアを閉めると溜息をついた。
眠りについてしまったオスカーを救護室に残し、私は部屋を出たのだ。まずは父と母の元へ行き、暫くの間オスカーをこのイリヤ家にかくまわせてもらうようにお願いをしに行かなくては。
私は父の執務室へと向かった。
イリヤ家の屋敷は南棟、東棟、そして中央棟に分かれている。救護室があるのは南棟の1Fで、父の執務室があるのは中央棟の3F、一番警備が強固な部屋が父の執務室になっている。この執務室は頑丈な扉で作られており、さらに守りの魔法がかけられ、大砲を用いても破壊することが出来ないと言われている。昔はなぜここまで強固な守りをしなければならないのかと思っていたが、今なら分かる気がする。父と母はウィンザード家を・・・フリードリッヒ3世を恐れていたのだ。果たしてその国王の息子であるオスカーをこの屋敷に置いてくれる許可を父が許してくれるだろうか・・・。
私は緊張する面持ちで、父の執務室へと1人で向かった―。
「オスカー様。やはり具合が悪いのですよね?今夜はこの屋敷に泊って行って下さい。」
「ああ・・・すまない・・・。」
オスカーは目を閉じると言った。
「オスカー様。質問の続きをしても・・よろしいですか?」
「ああ・・いいぞ。何だ?」
「地下牢へ閉じ込められたのですよね?良く・・・逃げてこられましたね?」
しかも・・・こんな大怪我を負って・・・。
「あの宮殿には・・・俺の仲間がいるんだ。」
「仲間?」
「ああ・・表向きは王宮騎士として父に忠誠を誓い、尽くしているが・・・実際は俺の仲間・・その人物が俺を牢屋から出して・・・逃がしてくれたが・・恐らくあいつはもう・・。」
オスカーは悔しそうに瞳をギュッと閉じると私に背を向けた。その背中は・・・震えていた。
「馬を用意してくれて、俺を王宮の外まで逃がしてくれたんだが、すぐに兵士と魔術師達の追手が現れて・・・俺を逃がす為に・・・。」
オスカーの声は震えている。
「馬に乗って・・逃げているときに背後で激しい爆発音が聞こえて・・・・きっとあいつは・・・!」
悔しさと悲しみが入り混じった声でオスカーは話を続けている。
「俺は必至で・・・森の中を馬で駆け・・途中で追いつかれて、魔術師の炎の攻撃と・・・刃が飛んできて・・・だが、運よくこの『リオス』にたどり着いて・・・。追手のあいつらは・・・ひょっとすると闇落ちしたのかもしれない。あいつらはこの都市に入ることが出来なかったからな・・。そして俺は馬に乗ってイリヤ家を目指していたが、馬も傷を負っていたようで・・途中で死んでしまった・・。近くの農家の家に・・死んだ馬を頼んだ後・・・俺はここまで歩いてきたんだ・・。」
「オスカー様・・・・。」
そんな・・そこまでしてオスカーは私に会いに・・・・?不覚にも胸に熱いものがこみ上げてきた。
「オスカー様・・・・ご無事で・・・本当に・・何よりでした・・・。」
私は声を振り絞って言った。
間違いない・・・彼は本物のオスカーだ。彼なら・・・信じてもいいのかもしれない・・・。今、目の前にいる彼なら・・・。
「アイリス・・・。」
オスカーは荒い呼吸をしながら、私にそっと微笑みかけた。まぶしい太陽がオスカーの髪をオレンジ色にキラキラと輝かせている。風で揺れるレースのカーテンの傍で、しばらく私たちは口を利かず、静かに見つめあうのだった―。
パタン・・・。
救護室のドアを閉めると溜息をついた。
眠りについてしまったオスカーを救護室に残し、私は部屋を出たのだ。まずは父と母の元へ行き、暫くの間オスカーをこのイリヤ家にかくまわせてもらうようにお願いをしに行かなくては。
私は父の執務室へと向かった。
イリヤ家の屋敷は南棟、東棟、そして中央棟に分かれている。救護室があるのは南棟の1Fで、父の執務室があるのは中央棟の3F、一番警備が強固な部屋が父の執務室になっている。この執務室は頑丈な扉で作られており、さらに守りの魔法がかけられ、大砲を用いても破壊することが出来ないと言われている。昔はなぜここまで強固な守りをしなければならないのかと思っていたが、今なら分かる気がする。父と母はウィンザード家を・・・フリードリッヒ3世を恐れていたのだ。果たしてその国王の息子であるオスカーをこの屋敷に置いてくれる許可を父が許してくれるだろうか・・・。
私は緊張する面持ちで、父の執務室へと1人で向かった―。
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