タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

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第5章 14 一番星の下で

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「え・・・?陛下が怖いって・・・おい?アイリス。お前・・父に会ったことがあるのか?」

オスカーは私の両肩を掴んできた。

「は、はい・・・あります・・・。」

ああ・・・やはり3人の人格のオスカーは・・記憶を共存する事が出来ないのだ・・・。私は絶望的な気分になって項垂れた。だが、それは考えてみれば当然なのかもしれない。オスカーは人格が3人いるだけではなく、ともすれば身体が分離する事だってあるのだ。あの時の様に・・。
私が気絶したときに王宮に連れてきたオスカー。そして黒い獣のような犬に襲われそうになっている私を助けに現れた、『エルトリア』の呪いに侵されていないオスカーの事を・・。


「アイリス、お前・・・何か隠してるな?お前が知ってる事を全て俺に話すんだ。」

「分かりました・・・。お話します。」

別人格のオスカーに口止めされているわけでもないし、私は自分の知っている事を全て話した。代々ウィンザード家の人間は『エルトリア』の呪いに侵されていること、オスカーには3人の人格がある事・・そして国王陛下には悪魔が憑りついており、私をずっと狙っていた事・・私とオスカーの婚約の本当の意味は陛下が私を手に入れる為のものだった事・・・それ全てを話した。



「俺に・・・3人の人格がある話は知っている。もちろんエルトリアの呪いにつても知っている。だが・・・父がお前を狙っていたとは・・・。しかも俺も本当は追われていた身じゃないのか?それなのに、俺は何も知らずに・・・。のうのうと王宮に住んでいたとは・・・。だが、呪いに侵されていないもう一人の俺は何でも知っていたんだよな?」

オスカーは溜息をついた。でも呪いに侵されていないオスカーだって知らないことはあるはずだ。

「オスカー様。呪いに侵されていないオスカー様もご存じない事がありましたよ。自分の人格と身体が分離する事を知らなかったようです。ずっと自分には影武者がいると信じていたようですが・・恐らく影武者ではないと思います。多分身体も人格と同様に分離していると思います。」

「な・・何だって?そうなのか?」

「え・・・ええ・・・。」

私は肝心の話をしていなかった。黒い犬を私に襲わせた人物がオスカー自身であると言う事を。

「実は・・・黒い犬を使って私を襲わせた人物は・・オスカー様本人だったのです。そして助けに現れたのも別のオスカー様でした。」

「それは・・・お前を襲った人物は俺の影武者だったんじゃないのか?」

「いえ、それは無いと思います。何故なら私を襲ったオスカー様はいつの間にか忽然と姿を消していたのです。おそらくは身体が一つに戻ったのではないのかと思うのですが。」

「そうか・・・参ったな・・・。」

オスカーは溜息をついた。どうしよう・・・私は迷っていた。オスカーをこのまま城に帰らせるべきなのか・・・。けれど王宮に戻ればオスカーはそれこそ国王に監禁されてしまう可能性もある。するとオスカーは言った。

「アイリス・・・俺は暫くこの都市『リオス』に滞在することにした。実はここにはウィンザード家の別宅があるんだ。そこには使用人たちもいる。父には俺がここにいることは使用人たちには口外しないように言い含めればいいしな。」

「そうですね。もう一人のオスカー様が言っておりましたが、ここ『リオス』では女神像に守られているのでエルトリアの呪いに侵されたオスカー様は現れないと言っておりましたし・・・。」

「・・・。」

するとオスカーが何故か不機嫌そうに私を見ている。

「あ、あの・・・どうかされましたか?」

「いや、何でもない。それじゃ・・俺はそろそろ屋敷へ向かう。」

オスカーが立ち上ったので、私も立ち上がると言った。

「それでは父と母を呼んでもらうように伝えます。」

「いや、いい。このまま帰らせてもらう。」

オスカーはそれを止めた。

「分かりました。ではエントランスホール迄ご案内させていただきます。」

応接室を出て、2人で長い廊下を歩いているとオスカーが声を掛けてきた。

「アイリス・・・。」

「はい?」

「お前・・もう1人のオスカーとは仲が良いのか?」

「え?普通ですが・・?」

何と答えれば良いのか分からなかったので、私は無難に答えた。

「普通か・・・。」

それきりオスカーは口を閉ざしてしまい、エントランスに到着するまで私たちは無言で歩き続けた。



 馬車に乗りこんだオスカーを門の外まで見送りに出た私にオスカーは言った。

「アイリス。また明日な。お前に会えるといいが・・・。」

そして何故か寂しげな顔をする。

「え・・・?オスカー様・・・?」

しかし、オスカーはそれには答えることなく、馬車に乗り込むとすぐに馬は走り去って行った。

「オスカー様・・・。」

馬車が見えなくなるまでずっと見送っていた私は空を見上げた。空には一番星が輝いていた—。



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