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第4章 7 女神像の都市『リオス』
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「ヴィンサント、他の馬は隠してあるな?」
オスカーは眼帯の若者に尋ねた。
「はい、全て裏山の奥に隠してあります。」
「分かった。もし、万一・・・敵が現れたら・・・。」
「はい、承知しております。」
ヴィンサントと呼ばれた若者は腰にさした剣を握りしめた。
「頼むぞ・・・。」
そしてオスカーは私をつないである馬の背中に乗せると自分もひらりと飛び乗り、私を背後から抱き寄せるように手綱を握りしめると、言った。
「いいか、アイリス。しっかりつかまっていろよ。」
「は、はい・・・。」
もう私には何が何だか分からなかった。ただ、分かるのは私たちは陛下に追われているという事、そしてオスカーが私を助けようとしているという事だけだった。
「ハイヨーッ!!」
オスカーは掛け声とともに、馬の体を蹴り上げた。すると馬はいななきを上げ、ものすごい速さで走り始めた。森の木々をかき分けて疾走されるのはとても怖く、私は思わず目をギュッとつむり、オスカーの体にしがみ付いていた。オスカーは私が恐怖で震えていることに気づいたのか、叫んだ。
「アイリスッ!もう少しで森を抜ける!それまで我慢しろっ!」
「は・・はいっ!」
私はそれだけ返事を返すので精一杯だった。耳元では風がビュウビュウと音を立てているし、馬の走る蹄の音が響き渡る。必死でオスカーにしがみ付き、目を固く閉じているとやがてオスカーが声を上げた。
「アイリスッ!見ろっ!森を抜けたぞっ!」
え・・?森を抜けた・・?
私はようやく目を開けると、そこは草原が広がり前方には私が住む都市、『リオス』の象徴である巨大女神像が見えてきた。
「アイリス・・・お前は本当に運がいい。」
馬に乗りながらオスカーは言う。
「え・・?どういう事ですか?」
「あの女神像がある限り、フリードリッヒ3世は手出しができない。それに俺たちが通うアカデミーがある都市、『自由都市、リーベルタース』は何者にも侵略されない不可侵領域だからな。」
オスカーは口元に笑みを浮かべながら言うのだった―。
『リオス』の町に入ると、オスカーは馬から降りると私に言った。
「アイリス、お前はそのまま馬に乗っていろ。今靴屋を探そう。」
「靴・・ですか。」
そういえばすっかり忘れていた。私はあの城を出た時からずっと素足だったのだ。
太陽はすっかり真上に登り、おそらく今は昼を過ぎた時間なのだろう。『リオス』は商人が多く出入りする都市で、石畳のメインストリートには多くの店や露店が立ち並び、老若男女問わず多くの人々でにぎわっていた。そしてこの都市を治めているのがイリヤ家なのである。
なので人々は私を見ると、皆挨拶をしてくるのだが今日ばかりは違っていた。何せ今私の手綱を引いているのは、燃えるような赤い髪の王太子オスカーなのだから。
彼の傍若無人ぶりはここ『リオス』にまで当然届いている。彼は私の婚約者でもあるわけだから、市民達は当然オスカーの事は知っているのだ。
町を歩く私たちの耳に市民達のヒソヒソ声が耳に入ってくる。
「見て・・アイリス様と一緒にいる方・・。」
「ああ。間違いない。あの方は・・ウィンザード王家のオスカー様だ・・・。」
「あの赤い髪・・怖いわ・・。」
等々・・・。
オスカーはどう思っているのだろう・・・。私は馬上からそっとオスカーの様子をうかがったが、さほど気にかけている様子には見えなかった。
その時、オスカーが声を掛けてきた。
「アイリス。あれは靴屋じゃないか?」
オスカーが指をさした方向には軒先には木の板に靴のイラストが描かれた看板がぶら下がっている。
「ええ。おそらく靴屋でしょうね。」
「よし、ではあそこでお前の靴を買おう。お前の足に合うちょうどよい靴があるといいのだがな?」
オスカーは私を見上げると笑みを浮かべた―。
オスカーは眼帯の若者に尋ねた。
「はい、全て裏山の奥に隠してあります。」
「分かった。もし、万一・・・敵が現れたら・・・。」
「はい、承知しております。」
ヴィンサントと呼ばれた若者は腰にさした剣を握りしめた。
「頼むぞ・・・。」
そしてオスカーは私をつないである馬の背中に乗せると自分もひらりと飛び乗り、私を背後から抱き寄せるように手綱を握りしめると、言った。
「いいか、アイリス。しっかりつかまっていろよ。」
「は、はい・・・。」
もう私には何が何だか分からなかった。ただ、分かるのは私たちは陛下に追われているという事、そしてオスカーが私を助けようとしているという事だけだった。
「ハイヨーッ!!」
オスカーは掛け声とともに、馬の体を蹴り上げた。すると馬はいななきを上げ、ものすごい速さで走り始めた。森の木々をかき分けて疾走されるのはとても怖く、私は思わず目をギュッとつむり、オスカーの体にしがみ付いていた。オスカーは私が恐怖で震えていることに気づいたのか、叫んだ。
「アイリスッ!もう少しで森を抜ける!それまで我慢しろっ!」
「は・・はいっ!」
私はそれだけ返事を返すので精一杯だった。耳元では風がビュウビュウと音を立てているし、馬の走る蹄の音が響き渡る。必死でオスカーにしがみ付き、目を固く閉じているとやがてオスカーが声を上げた。
「アイリスッ!見ろっ!森を抜けたぞっ!」
え・・?森を抜けた・・?
私はようやく目を開けると、そこは草原が広がり前方には私が住む都市、『リオス』の象徴である巨大女神像が見えてきた。
「アイリス・・・お前は本当に運がいい。」
馬に乗りながらオスカーは言う。
「え・・?どういう事ですか?」
「あの女神像がある限り、フリードリッヒ3世は手出しができない。それに俺たちが通うアカデミーがある都市、『自由都市、リーベルタース』は何者にも侵略されない不可侵領域だからな。」
オスカーは口元に笑みを浮かべながら言うのだった―。
『リオス』の町に入ると、オスカーは馬から降りると私に言った。
「アイリス、お前はそのまま馬に乗っていろ。今靴屋を探そう。」
「靴・・ですか。」
そういえばすっかり忘れていた。私はあの城を出た時からずっと素足だったのだ。
太陽はすっかり真上に登り、おそらく今は昼を過ぎた時間なのだろう。『リオス』は商人が多く出入りする都市で、石畳のメインストリートには多くの店や露店が立ち並び、老若男女問わず多くの人々でにぎわっていた。そしてこの都市を治めているのがイリヤ家なのである。
なので人々は私を見ると、皆挨拶をしてくるのだが今日ばかりは違っていた。何せ今私の手綱を引いているのは、燃えるような赤い髪の王太子オスカーなのだから。
彼の傍若無人ぶりはここ『リオス』にまで当然届いている。彼は私の婚約者でもあるわけだから、市民達は当然オスカーの事は知っているのだ。
町を歩く私たちの耳に市民達のヒソヒソ声が耳に入ってくる。
「見て・・アイリス様と一緒にいる方・・。」
「ああ。間違いない。あの方は・・ウィンザード王家のオスカー様だ・・・。」
「あの赤い髪・・怖いわ・・。」
等々・・・。
オスカーはどう思っているのだろう・・・。私は馬上からそっとオスカーの様子をうかがったが、さほど気にかけている様子には見えなかった。
その時、オスカーが声を掛けてきた。
「アイリス。あれは靴屋じゃないか?」
オスカーが指をさした方向には軒先には木の板に靴のイラストが描かれた看板がぶら下がっている。
「ええ。おそらく靴屋でしょうね。」
「よし、ではあそこでお前の靴を買おう。お前の足に合うちょうどよい靴があるといいのだがな?」
オスカーは私を見上げると笑みを浮かべた―。
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