27 / 152
第2章 9 オスカーの心情
しおりを挟む
「どうだ?アイリス・イリヤ・・・いや、アイリス。少しは具合良くなったか?」
学生食堂に面したテラスの人気のないベンチに2人並んで座り、オスカーが私に尋ねてきた。
「はい、お陰様で大分良くなりました。」
言いながら私は学生食堂の方をチラリと見た。タバサは・・・・まだ学食にいるのだろうか?
それにしても危ない所だった。あの時私がオスカーを連れ出していなければ・・もし70年前の私と今のタバサの立場が完全に入れ替わっていたとしたら・・・・あの後タバサはオスカーの激しい怒りを買い、突き飛ばされて床に倒れ込んで足をくじき、全治2週間の怪我をしてしまっていただろう。それに何より大勢の学生達の前で飛んだ恥をかかされてしまう事になっていたはずだ。
あれは・・・・屈辱的な出来事だった。
すると、少しだけ沈黙していたオスカーが口を開いた。
「あの・・・タバサとか言う女・・・。気に入らない。」
「え?」
そんな・・嘘でしょう?
私は信じられない気持ちでオスカーを見上げた。だって70年前はオスカーは私を捨て、タバサを選び・・・そして2人であらぬ罪を被せて私を島流しにしたのに?
私は自分の考えが顔に出ていたのだろうか?オスカーが怪訝そうな顔で語りかけてきた。
「何だ?その意外そうな顔は・・・?」
「い、いえ・・・。てっきり私は・・。」
そこで言葉を切るとオスカーは言った。
「言いたい事があるなら、はっきり言え。」
ここで変に胡麻化せばオスカーの機嫌を損ねかねない。だから私は慎重に言葉を選びながら言った。
「あの・・・タバサ様は・・まだ入学したばかりなのに『天使の美声』を持つ者達しか入れない貴重な聖歌隊のメンバーの1人ですよ・・?それに・・とても外見も可愛らしくて・・た、大抵の男の人なら・・・皆好意を持つのでは無いかと思いまして・・。」
言いながらチラリとオスカーを見た。今の言い方・・気に障らなかっただろうか?
緊張していると、オスカーがため息をついた。
「アイリス・・・。」
18歳とは思えないバリトンの落ち着いたトーンでオスカーは私を見た。
「は、はい。」
「お前の目には・・・俺があの女に興味を持っている用に見えるのか?」
じっと私の目を見て語りかけて来る。
知らなかった・・・。今迄オスカーの荒々しい部分しか見てこなかったので、今目の前にいる落ち着いたオスカーがまるで別人のように私の目に映っている。
「わ、私は・・・。」
どうしよう・・・何と答えれば良いのだろうか・・・?だが、今のオスカーになら自分の素直な気持ちを語っても大丈夫な気がしてきた。
「私には・・・よく分かりません。」
「分からない?何故だ?」
「それは・・・私がオスカー様の事を・・まだ殆ど知らないからです・・。お会いしたのも・・今日が初めて・・ですから・・・」
最期の方は消え入りそうな声になりながら私は制服のスカートをギュッと握り締めた。
「本当は・・・ずっと会いたいと・・思っていたのだ・・・。婚約が決まった時から・・・。」
オスカーは正面にある温室をじっと見つめながら口を開いた。
「え?」
私は思わず耳を疑った。嘘・・・・?オスカーが私に会いたがっていた・・?13年間も・・?
思わずオスカーを見つめると、その視線に気づいたのか私の方を振り向いた。
「信じられないような目で・・俺を見ているな?だが、嘘ではない。本当の事だ・・・。俺は知らなかったんだ。王族より身分が下の者はこちらから声をかけない限り、城に来てはいけないのだと言う事を。誰もそんな事は教えてはくれなかったからな。それなのに・・・あいつ等は・・大事な事は告げずに、俺にこう教えて来たんだ。『婚約者には男の方からは絶対に会いに行ってはいけない』と。そんな決まりは無かった事だって・・アカデミー入学直前に父と家臣達の会話を偶然立ち聞きして知った位だからな。俺は・・・赤毛に生まれたと言うだけで・・・忌み嫌われて来たんだ。だからこそ・・・尚更自分の婚約者に会ってみたいと、ずっと願ってきたのだ。王族では無いお前なら・・俺の事を少しは理解してくれるのでは無いかと思ったんだ・・。」
オスカーはじっと私の目から視線をそらさずに言った―。
学生食堂に面したテラスの人気のないベンチに2人並んで座り、オスカーが私に尋ねてきた。
「はい、お陰様で大分良くなりました。」
言いながら私は学生食堂の方をチラリと見た。タバサは・・・・まだ学食にいるのだろうか?
それにしても危ない所だった。あの時私がオスカーを連れ出していなければ・・もし70年前の私と今のタバサの立場が完全に入れ替わっていたとしたら・・・・あの後タバサはオスカーの激しい怒りを買い、突き飛ばされて床に倒れ込んで足をくじき、全治2週間の怪我をしてしまっていただろう。それに何より大勢の学生達の前で飛んだ恥をかかされてしまう事になっていたはずだ。
あれは・・・・屈辱的な出来事だった。
すると、少しだけ沈黙していたオスカーが口を開いた。
「あの・・・タバサとか言う女・・・。気に入らない。」
「え?」
そんな・・嘘でしょう?
私は信じられない気持ちでオスカーを見上げた。だって70年前はオスカーは私を捨て、タバサを選び・・・そして2人であらぬ罪を被せて私を島流しにしたのに?
私は自分の考えが顔に出ていたのだろうか?オスカーが怪訝そうな顔で語りかけてきた。
「何だ?その意外そうな顔は・・・?」
「い、いえ・・・。てっきり私は・・。」
そこで言葉を切るとオスカーは言った。
「言いたい事があるなら、はっきり言え。」
ここで変に胡麻化せばオスカーの機嫌を損ねかねない。だから私は慎重に言葉を選びながら言った。
「あの・・・タバサ様は・・まだ入学したばかりなのに『天使の美声』を持つ者達しか入れない貴重な聖歌隊のメンバーの1人ですよ・・?それに・・とても外見も可愛らしくて・・た、大抵の男の人なら・・・皆好意を持つのでは無いかと思いまして・・。」
言いながらチラリとオスカーを見た。今の言い方・・気に障らなかっただろうか?
緊張していると、オスカーがため息をついた。
「アイリス・・・。」
18歳とは思えないバリトンの落ち着いたトーンでオスカーは私を見た。
「は、はい。」
「お前の目には・・・俺があの女に興味を持っている用に見えるのか?」
じっと私の目を見て語りかけて来る。
知らなかった・・・。今迄オスカーの荒々しい部分しか見てこなかったので、今目の前にいる落ち着いたオスカーがまるで別人のように私の目に映っている。
「わ、私は・・・。」
どうしよう・・・何と答えれば良いのだろうか・・・?だが、今のオスカーになら自分の素直な気持ちを語っても大丈夫な気がしてきた。
「私には・・・よく分かりません。」
「分からない?何故だ?」
「それは・・・私がオスカー様の事を・・まだ殆ど知らないからです・・。お会いしたのも・・今日が初めて・・ですから・・・」
最期の方は消え入りそうな声になりながら私は制服のスカートをギュッと握り締めた。
「本当は・・・ずっと会いたいと・・思っていたのだ・・・。婚約が決まった時から・・・。」
オスカーは正面にある温室をじっと見つめながら口を開いた。
「え?」
私は思わず耳を疑った。嘘・・・・?オスカーが私に会いたがっていた・・?13年間も・・?
思わずオスカーを見つめると、その視線に気づいたのか私の方を振り向いた。
「信じられないような目で・・俺を見ているな?だが、嘘ではない。本当の事だ・・・。俺は知らなかったんだ。王族より身分が下の者はこちらから声をかけない限り、城に来てはいけないのだと言う事を。誰もそんな事は教えてはくれなかったからな。それなのに・・・あいつ等は・・大事な事は告げずに、俺にこう教えて来たんだ。『婚約者には男の方からは絶対に会いに行ってはいけない』と。そんな決まりは無かった事だって・・アカデミー入学直前に父と家臣達の会話を偶然立ち聞きして知った位だからな。俺は・・・赤毛に生まれたと言うだけで・・・忌み嫌われて来たんだ。だからこそ・・・尚更自分の婚約者に会ってみたいと、ずっと願ってきたのだ。王族では無いお前なら・・俺の事を少しは理解してくれるのでは無いかと思ったんだ・・。」
オスカーはじっと私の目から視線をそらさずに言った―。
34
お気に入りに追加
545
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる