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第1章 8 アイリスの過去 その2
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オスカーから数歩遅れて後ろを私は歩いていた。オスカーは私が隣を歩く事を酷く嫌っていたからだ。あの時は私の事が余程嫌いなのだろうと思っていたが、今なら理由が分かる。
前方を歩くオスカーの髪に太陽の光が当たり、キラキラと美しく輝いている。
なんて美しいのだろう・・。私はオスカーの髪色に目を奪われていた。
だが・・・この髪色こそがオスカーを歪めた原因であった。
オスカーは自分の容貌に激しいコンプレックスを持っていた。顔は非常に整っていたのだが、やはり赤い髪というだけで王家から嫌われ、1人離宮で乳母達によって育てられていた位なのだから。
この世界では不思議な事に王族にも貴族の中でもオスカーを除き、誰1人として赤い髪を持つ人々はいなかった。平民達の間には低い確率で赤い髪をもつ人はいたが、それでも稀であり、やはり人々からは軽蔑の目で見られていたのだ。
そんな世の中で王族の血を引くオスカーが赤毛である事は不幸でしか無かった。王家の人々は彼を忌み嫌い、貴族たちは口にこそ出さなかったが、陰では彼の事を酷く軽蔑していた。
しかし、そんな風に自分を見下す世間の雰囲気を本人が気づかない訳が無い。
だから彼は暴れ・・・評判の悪い仲間達を作り、城下町で男を相手に働く商売女達に手をだしまくっていたのである。
そして私は知っていた。
オスカーがその赤毛を隠す為に、髪染めを使って髪の色を変えようとしていた事を。
そして幾ら強力な髪染めを使用しても、すぐに元の赤毛に戻ってしまうという事を。
私がその秘密を知ったのは本当に偶然の出来事だった。
前日、国王から私宛に初めての招待状が直々に届いていた。しかし、私はどうしても城には行きたくないので、オスカーに直に断りを入れようと思い、昼休みを利用してオスカーを探していた。私は思いつく限りの場所を探し、ついにオスカーを発見した。彼は後者の裏側にある水飲み場で、まるで皆から隠れるように髪染めを頭に振りかけていた。そして私は見てしまった。髪染めが髪につくと、一瞬色は染まるのだが、まるで魔法のようにすぐに元の赤毛に戻ってしまう。
「!」
それを見た時、私は驚きのあまりに足元にあった小さな小枝を踏みつけてしまった。
パキッ!
乾いた小枝は驚くほど音が辺りに響き渡った。
「誰だっ?!」
オスカーが叫んだ。
今・・見つかれば絶対にただでは済まないっ!恐怖に震え、私はその場を逃げるように走り去ったのだが、その時にミスをしてしまった。イリヤ家の家紋が入ったハンカチを落してしまったのだ。
その翌日、結局城に行く事を断れなかった私はやむを得ず、1人で馬車に乗って城に参上した。
憂鬱な気持ちで私を乗せた馬車は王宮に着いた。すると驚く事に私を出迎えたのはオスカーだったのだ。
この時の私は愚かにもオスカーが出迎えてくれた事に喜びを感じていた。
馬車が止まると、オスカーは真っすぐ馬車に向って近付き、自らドアを開けた。その様子を見た私は少しは婚約者の自分を尊重してくれるようになったのだと思い、思わず嬉しそうに笑みを浮かべた。するとオスカーも笑みを返してくれた。
そして次の瞬間、私の耳元に口を寄せると言った。
「どうだった?俺の秘密を覗き見した気分は?」
言いながら私が昨日落してしまったイリヤ家の家紋入りのハンカチを目の前で見せてきたのだ。それを見た瞬間、私は凍り付いた。
私の顔色が変わった事に気が付いたのか、オスカーはさらに耳元で囁いてくる。
「いいか・・・昨日お前が見た事・・絶対に誰にも言うなよ・・。もし・・秘密がバレるような事があれば・・・その時は・・。」
そして私を恐ろしい目で睨み付けるとこう言った。
「命が無い物と思え。」
その後の記憶はあまり覚えていない。気付けば私はオスカーから返されたハンカチを握りしめ馬車の中で揺られていたからだ。恐らく状況から考えると、私はオスカーにハンカチを返され、そのままイリヤ家へ送り返されたようだった―。
「おい・・・お前、本当に大丈夫なのか?」
不意に前方を歩いていたオスカーが声を掛けてきた。
「はい?」
顔を上げると、いつの間にか眼前にはオスカーがこちらを振り向いて立っていたのである。
「さっきから何度もお前を呼んでいたのに、まるで聞こえていないかの様にボーッとした顔でフラフラと歩いて・・・。お前・・ひょっとして身体が弱いのか?」
「・・・・。」
私は驚いてオスカーの顔を見上げた。そこには私を気に掛けている様子のオスカーがいた。
それは前の世界でも見た事の無かったオスカーのもう一つの顔だった—。
前方を歩くオスカーの髪に太陽の光が当たり、キラキラと美しく輝いている。
なんて美しいのだろう・・。私はオスカーの髪色に目を奪われていた。
だが・・・この髪色こそがオスカーを歪めた原因であった。
オスカーは自分の容貌に激しいコンプレックスを持っていた。顔は非常に整っていたのだが、やはり赤い髪というだけで王家から嫌われ、1人離宮で乳母達によって育てられていた位なのだから。
この世界では不思議な事に王族にも貴族の中でもオスカーを除き、誰1人として赤い髪を持つ人々はいなかった。平民達の間には低い確率で赤い髪をもつ人はいたが、それでも稀であり、やはり人々からは軽蔑の目で見られていたのだ。
そんな世の中で王族の血を引くオスカーが赤毛である事は不幸でしか無かった。王家の人々は彼を忌み嫌い、貴族たちは口にこそ出さなかったが、陰では彼の事を酷く軽蔑していた。
しかし、そんな風に自分を見下す世間の雰囲気を本人が気づかない訳が無い。
だから彼は暴れ・・・評判の悪い仲間達を作り、城下町で男を相手に働く商売女達に手をだしまくっていたのである。
そして私は知っていた。
オスカーがその赤毛を隠す為に、髪染めを使って髪の色を変えようとしていた事を。
そして幾ら強力な髪染めを使用しても、すぐに元の赤毛に戻ってしまうという事を。
私がその秘密を知ったのは本当に偶然の出来事だった。
前日、国王から私宛に初めての招待状が直々に届いていた。しかし、私はどうしても城には行きたくないので、オスカーに直に断りを入れようと思い、昼休みを利用してオスカーを探していた。私は思いつく限りの場所を探し、ついにオスカーを発見した。彼は後者の裏側にある水飲み場で、まるで皆から隠れるように髪染めを頭に振りかけていた。そして私は見てしまった。髪染めが髪につくと、一瞬色は染まるのだが、まるで魔法のようにすぐに元の赤毛に戻ってしまう。
「!」
それを見た時、私は驚きのあまりに足元にあった小さな小枝を踏みつけてしまった。
パキッ!
乾いた小枝は驚くほど音が辺りに響き渡った。
「誰だっ?!」
オスカーが叫んだ。
今・・見つかれば絶対にただでは済まないっ!恐怖に震え、私はその場を逃げるように走り去ったのだが、その時にミスをしてしまった。イリヤ家の家紋が入ったハンカチを落してしまったのだ。
その翌日、結局城に行く事を断れなかった私はやむを得ず、1人で馬車に乗って城に参上した。
憂鬱な気持ちで私を乗せた馬車は王宮に着いた。すると驚く事に私を出迎えたのはオスカーだったのだ。
この時の私は愚かにもオスカーが出迎えてくれた事に喜びを感じていた。
馬車が止まると、オスカーは真っすぐ馬車に向って近付き、自らドアを開けた。その様子を見た私は少しは婚約者の自分を尊重してくれるようになったのだと思い、思わず嬉しそうに笑みを浮かべた。するとオスカーも笑みを返してくれた。
そして次の瞬間、私の耳元に口を寄せると言った。
「どうだった?俺の秘密を覗き見した気分は?」
言いながら私が昨日落してしまったイリヤ家の家紋入りのハンカチを目の前で見せてきたのだ。それを見た瞬間、私は凍り付いた。
私の顔色が変わった事に気が付いたのか、オスカーはさらに耳元で囁いてくる。
「いいか・・・昨日お前が見た事・・絶対に誰にも言うなよ・・。もし・・秘密がバレるような事があれば・・・その時は・・。」
そして私を恐ろしい目で睨み付けるとこう言った。
「命が無い物と思え。」
その後の記憶はあまり覚えていない。気付けば私はオスカーから返されたハンカチを握りしめ馬車の中で揺られていたからだ。恐らく状況から考えると、私はオスカーにハンカチを返され、そのままイリヤ家へ送り返されたようだった―。
「おい・・・お前、本当に大丈夫なのか?」
不意に前方を歩いていたオスカーが声を掛けてきた。
「はい?」
顔を上げると、いつの間にか眼前にはオスカーがこちらを振り向いて立っていたのである。
「さっきから何度もお前を呼んでいたのに、まるで聞こえていないかの様にボーッとした顔でフラフラと歩いて・・・。お前・・ひょっとして身体が弱いのか?」
「・・・・。」
私は驚いてオスカーの顔を見上げた。そこには私を気に掛けている様子のオスカーがいた。
それは前の世界でも見た事の無かったオスカーのもう一つの顔だった—。
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