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序章 3
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どこまでも長く続くと感じていた薄暗い石畳の廊下は意外なほど短かった。私の前を歩くオスカーが突然立ち止まると、そこにはアーチ型の古びた木のドアがある。
「さあ、悪女アイリス。このドアの向こう側が<裁きの間>だ。代々、この王国で重罪を働いた罪人たちが正義の名の元、裁きを受ける神聖な場所になっている。おや?何だ・・・その生意気そうな目は・・。」
私は無意識のうちにオスカーを睨み付けていたらしく、私を見下ろすオスカーの目に再び暴力的な色が宿った。
「罪人のくせに王族であるこの私にそのような目を向けるとは・・・生意気なっ!」
言うが否や、再び私は頬を思い切り強く引っぱたかれた。あまりの痛みに目から火花が飛び、意識が一瞬飛びそうになる。衝撃でぐらりと大きく後に傾いた所を背後から誰かがささえてきた。その人物は私の幼馴染のレイフ・ランバートであった。
「オスカー様、まだこの者は裁きを受けておりません。あまり顔を腫らした状態で人々の前に連れ出してしまうと、我等の心証を悪くしかねませんのでこの辺でいたぶるのはやめにしておくべきかと存じます。」
オスカーは私を背後から支えたまま言う。
「フン・・・お前、その罪人が幼馴染だから庇いだてしようとしているのか?そんな事をすればお前もこの女の仲間として投獄されるぞ?」
オスカーは腕組みをしたままレイフを睨み付けた。
「いえ、庇うなどと滅相もございません。」
淡々と話すレイフの言葉に私は絶望した。オスカーに叩かれた時、私を後ろから支えてくれたので、彼は助けになってくれるのでは無いかと淡い期待をしていたが、それは叶わぬ願いだと言う事が今のレイフの発言で分かった。
私はこれ以上何か口を開けば、さらにオスカーから暴力を振るわれそうで怖くて言葉を発する事が出来なかった。
鼻からは血の匂いと、何かが垂れている感覚があるし、口の中もさび付いた鉄のような味がする。今の私には鏡も無く、両手を後ろに縛られているので触れて確認することも出来ないが、多分叩かれたショックで私の鼻と口から血が流れているだろう。
それを拭う事すら許されず、こんな無様な姿で観衆の前に引きずり出されるのは屈辱以外の何物でもない。いっそ誰か私を殺してと叫びたくなるくらいだ。
「さあ、行くぞっ!悪女アイリス・イリヤッ!ついに2年に及ぶ悪事が白日の下に晒され、いよいよ裁きの日がやって来たのだっ!」
オスカーの声と同時に目の前の扉が開かれ、首の鎖を強く引っ張られながら私は円形状の部屋の中央まで引きずられてきた。部屋の中心部に立たされると、私の側にいたオスカーやレイフ、その他の騎士達が一斉に身を引き、階段状になっている椅子に座った。
視線をグルリと動かして周囲を見渡すと、大勢の見知ったアカデミーの学生達が集まり、階段状になっている椅子に座り、誰もが冷たい視線で私を見下ろしていた。
「見ろよ・・・あれがアイリス・イリヤだってよ?」
「まあ・・見る影も無いわね・・。」
「とうとうあの女が裁かれるのか。」
「それにしてもあの傷はやりすぎじゃないかしら・・。」
等々彼等のざわめき声が私の耳にも届いてくる。
壇上には神官のような服を身に着けた高齢男性が座っている。そして手にした木槌をカンカンと大きい音を立てて叩くと一斉に周りは水を打ったように静まり返った。その様子を満足げに見る高齢男性。
やがてゴホンと咳ばらいをすると高齢の割に良く響き渡る声で言った。
「では、これより元公爵令嬢アイリス・イリヤの断罪裁判を始めるっ!」
え・?元公爵令嬢・・?私は耳を疑った。その次に続く断罪裁判なんてもうどうでも良いと思えるほどに。
「ま・・待って下さいっ!元公爵令嬢とは一体どう言う事ですか?!私は・・イリヤ家は一体どうなってしまったのですかっ?!」
私は口の中が切れて血が流れているのも構わず叫んだ。すると物凄い勢いでオスカーが立ち上り、私の元へ来ると、首に取り付けられた鎖を強く引っ張った。
「ゴ、ゴホッ!!」
首がしまり、思わず血の混じった咳をしてしまい、オスカーの服に血が飛んだ。
「クッ!こ、こいつ・・・っ!」
オスカーは私に襟首を掴み、手を上げようとして・・周囲の観衆の視線に気づき、手を降ろした。
「お前には今から一切の発言をする事を禁ずるっ!」
オスカーは言うと自分のポケットから布を取りだし、ねじり上げると私の口に猿ぐつわの様にかませると首の後ろで強く結んだ。
「ん~っ!」
もう口を開ける事すら敵わない。オスカーは満足気だった。それらの一連の出来事を黙って見ていた高齢男性が言った。
「それではこれからアイリス・イリヤの罪状を読み上げていく!」
その男の読み上げる罪状はどれもこれも見に覚えの無い物ばかりだった。例えば自分よりも爵位の低い学生を脅迫して町で盗みをはたらかせたり、テスト用紙を盗ませて、事前に内容を知り、常に学年トップを維持してきた・・等々で、その罪は実に30以上あげられた。
しかし、これらの罪は全く身に覚えが無い事ばかりで、まだ可愛げのある罪状であった。だが、次に読み上げられた罪状はあまりにも衝撃的な物だった。
「では・・最後の罪状を読み上げる。今から半年前、罪人アイリス・イリヤはフリードリッヒ3世の次男であり、オスカー王太子の弟君であられるアンソニー王太子と当時お世話係として城に呼ばれていたタバサ・オルフェンを川に突き落として溺れ死なせようとした殺人未遂罪により、その責任としてイリヤ家から公爵家の称号を没収する事とするっ!」
!そ、そんな・・・私には全く何の事か分からない。でもそう言えば・・まだ幼い王子が川に落ちて流されたが無事に助かったという話を聞いた事がある。だけど私は川に等近付いてもいないし、アンソニー王太子の顔すらしらない。こんないい加減な裁判・・・認める訳にはいかないっ!
「うう~ッ!!」
猿ぐつわをかまされた顔を皆に向け、この場を逃げようと、背を向けた途端・・・
「皆の者っ!罪人を逃がすなっ!」
オスカーの声と共に何人もの兵士が私に飛び掛かり、あっという間に床に組み伏せられてしまった。
「さあ・・・お前は今から大罪人の烙印をおされるのだ・・。」
見上げるとオスカーがいつの間にかそこに立っており、熱く熱せられた焼き印を握りしめていた。そして有無を言わさず、いきなり私に右腕に押し付けてきた!
ジュウッ!
一気に皮膚が焼け、あまりの痛みと熱さで私は気を失ってしまった・・。
そして次に目を覚ました時には私は地面の上に転がされていた。
「う・・・。」
ズキズキする腕の痛みに耐えながら見上げると、そこにはオスカーが兵士を連れて立っていた。
「ようやく目が覚めたか?この罪人め。」
「こ、ここは・・・?」
「フンッ!ここはお前のような罪人が送られてくる島だ。死罪にならなかっただけ、ありがたく思え!いいか・・?お前はこの島で一生1人で生きていくのだ。誰の助けも借りずにな・・・。」
「そ、そんな・・・っ!お願いですっ!私は何もしていませんっ!今すぐイリヤ家に返してくださいっ!」
必死でオスカーにしがみ付き・・・私は身体を蹴り飛ばされた。
「ええいっ!触るなっ!汚れるっ!」
「ゴ、ゴホッ!」
あまりの苦しさに思わず咳き込む。
「馬鹿めっ!まだ分からんのか?お前は王族である我が弟アンソニーを殺そうとした謀反の罪でイリヤ家は全員処罰されたっ!最早この国にイリヤという名の公爵家は存在しないのだっ!」
「そ、そんな・・・。」
未だに蹴られたショックで起き上がる事が出来ない。そんな私を冷たい視線で一瞥するとオスカーは兵士達を連れて私を1人残し、島を去って行ってしまった・・・。
そしてここから私の罪人としての長い人生が始まる―。
「さあ、悪女アイリス。このドアの向こう側が<裁きの間>だ。代々、この王国で重罪を働いた罪人たちが正義の名の元、裁きを受ける神聖な場所になっている。おや?何だ・・・その生意気そうな目は・・。」
私は無意識のうちにオスカーを睨み付けていたらしく、私を見下ろすオスカーの目に再び暴力的な色が宿った。
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言うが否や、再び私は頬を思い切り強く引っぱたかれた。あまりの痛みに目から火花が飛び、意識が一瞬飛びそうになる。衝撃でぐらりと大きく後に傾いた所を背後から誰かがささえてきた。その人物は私の幼馴染のレイフ・ランバートであった。
「オスカー様、まだこの者は裁きを受けておりません。あまり顔を腫らした状態で人々の前に連れ出してしまうと、我等の心証を悪くしかねませんのでこの辺でいたぶるのはやめにしておくべきかと存じます。」
オスカーは私を背後から支えたまま言う。
「フン・・・お前、その罪人が幼馴染だから庇いだてしようとしているのか?そんな事をすればお前もこの女の仲間として投獄されるぞ?」
オスカーは腕組みをしたままレイフを睨み付けた。
「いえ、庇うなどと滅相もございません。」
淡々と話すレイフの言葉に私は絶望した。オスカーに叩かれた時、私を後ろから支えてくれたので、彼は助けになってくれるのでは無いかと淡い期待をしていたが、それは叶わぬ願いだと言う事が今のレイフの発言で分かった。
私はこれ以上何か口を開けば、さらにオスカーから暴力を振るわれそうで怖くて言葉を発する事が出来なかった。
鼻からは血の匂いと、何かが垂れている感覚があるし、口の中もさび付いた鉄のような味がする。今の私には鏡も無く、両手を後ろに縛られているので触れて確認することも出来ないが、多分叩かれたショックで私の鼻と口から血が流れているだろう。
それを拭う事すら許されず、こんな無様な姿で観衆の前に引きずり出されるのは屈辱以外の何物でもない。いっそ誰か私を殺してと叫びたくなるくらいだ。
「さあ、行くぞっ!悪女アイリス・イリヤッ!ついに2年に及ぶ悪事が白日の下に晒され、いよいよ裁きの日がやって来たのだっ!」
オスカーの声と同時に目の前の扉が開かれ、首の鎖を強く引っ張られながら私は円形状の部屋の中央まで引きずられてきた。部屋の中心部に立たされると、私の側にいたオスカーやレイフ、その他の騎士達が一斉に身を引き、階段状になっている椅子に座った。
視線をグルリと動かして周囲を見渡すと、大勢の見知ったアカデミーの学生達が集まり、階段状になっている椅子に座り、誰もが冷たい視線で私を見下ろしていた。
「見ろよ・・・あれがアイリス・イリヤだってよ?」
「まあ・・見る影も無いわね・・。」
「とうとうあの女が裁かれるのか。」
「それにしてもあの傷はやりすぎじゃないかしら・・。」
等々彼等のざわめき声が私の耳にも届いてくる。
壇上には神官のような服を身に着けた高齢男性が座っている。そして手にした木槌をカンカンと大きい音を立てて叩くと一斉に周りは水を打ったように静まり返った。その様子を満足げに見る高齢男性。
やがてゴホンと咳ばらいをすると高齢の割に良く響き渡る声で言った。
「では、これより元公爵令嬢アイリス・イリヤの断罪裁判を始めるっ!」
え・?元公爵令嬢・・?私は耳を疑った。その次に続く断罪裁判なんてもうどうでも良いと思えるほどに。
「ま・・待って下さいっ!元公爵令嬢とは一体どう言う事ですか?!私は・・イリヤ家は一体どうなってしまったのですかっ?!」
私は口の中が切れて血が流れているのも構わず叫んだ。すると物凄い勢いでオスカーが立ち上り、私の元へ来ると、首に取り付けられた鎖を強く引っ張った。
「ゴ、ゴホッ!!」
首がしまり、思わず血の混じった咳をしてしまい、オスカーの服に血が飛んだ。
「クッ!こ、こいつ・・・っ!」
オスカーは私に襟首を掴み、手を上げようとして・・周囲の観衆の視線に気づき、手を降ろした。
「お前には今から一切の発言をする事を禁ずるっ!」
オスカーは言うと自分のポケットから布を取りだし、ねじり上げると私の口に猿ぐつわの様にかませると首の後ろで強く結んだ。
「ん~っ!」
もう口を開ける事すら敵わない。オスカーは満足気だった。それらの一連の出来事を黙って見ていた高齢男性が言った。
「それではこれからアイリス・イリヤの罪状を読み上げていく!」
その男の読み上げる罪状はどれもこれも見に覚えの無い物ばかりだった。例えば自分よりも爵位の低い学生を脅迫して町で盗みをはたらかせたり、テスト用紙を盗ませて、事前に内容を知り、常に学年トップを維持してきた・・等々で、その罪は実に30以上あげられた。
しかし、これらの罪は全く身に覚えが無い事ばかりで、まだ可愛げのある罪状であった。だが、次に読み上げられた罪状はあまりにも衝撃的な物だった。
「では・・最後の罪状を読み上げる。今から半年前、罪人アイリス・イリヤはフリードリッヒ3世の次男であり、オスカー王太子の弟君であられるアンソニー王太子と当時お世話係として城に呼ばれていたタバサ・オルフェンを川に突き落として溺れ死なせようとした殺人未遂罪により、その責任としてイリヤ家から公爵家の称号を没収する事とするっ!」
!そ、そんな・・・私には全く何の事か分からない。でもそう言えば・・まだ幼い王子が川に落ちて流されたが無事に助かったという話を聞いた事がある。だけど私は川に等近付いてもいないし、アンソニー王太子の顔すらしらない。こんないい加減な裁判・・・認める訳にはいかないっ!
「うう~ッ!!」
猿ぐつわをかまされた顔を皆に向け、この場を逃げようと、背を向けた途端・・・
「皆の者っ!罪人を逃がすなっ!」
オスカーの声と共に何人もの兵士が私に飛び掛かり、あっという間に床に組み伏せられてしまった。
「さあ・・・お前は今から大罪人の烙印をおされるのだ・・。」
見上げるとオスカーがいつの間にかそこに立っており、熱く熱せられた焼き印を握りしめていた。そして有無を言わさず、いきなり私に右腕に押し付けてきた!
ジュウッ!
一気に皮膚が焼け、あまりの痛みと熱さで私は気を失ってしまった・・。
そして次に目を覚ました時には私は地面の上に転がされていた。
「う・・・。」
ズキズキする腕の痛みに耐えながら見上げると、そこにはオスカーが兵士を連れて立っていた。
「ようやく目が覚めたか?この罪人め。」
「こ、ここは・・・?」
「フンッ!ここはお前のような罪人が送られてくる島だ。死罪にならなかっただけ、ありがたく思え!いいか・・?お前はこの島で一生1人で生きていくのだ。誰の助けも借りずにな・・・。」
「そ、そんな・・・っ!お願いですっ!私は何もしていませんっ!今すぐイリヤ家に返してくださいっ!」
必死でオスカーにしがみ付き・・・私は身体を蹴り飛ばされた。
「ええいっ!触るなっ!汚れるっ!」
「ゴ、ゴホッ!」
あまりの苦しさに思わず咳き込む。
「馬鹿めっ!まだ分からんのか?お前は王族である我が弟アンソニーを殺そうとした謀反の罪でイリヤ家は全員処罰されたっ!最早この国にイリヤという名の公爵家は存在しないのだっ!」
「そ、そんな・・・。」
未だに蹴られたショックで起き上がる事が出来ない。そんな私を冷たい視線で一瞥するとオスカーは兵士達を連れて私を1人残し、島を去って行ってしまった・・・。
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