挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

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第182話 私の生き甲斐

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「あら……?今、なにか音が聞こえなかったかしら?」

母に尋ねてみた。

「音?さぁ…よく分からなかったわ。気の所為じゃないの?」

私よりもドアから離れた場所に座っていた母には物音がよく聞こえなかったようだ。

「いいえ、気のせいじゃないわ。絶対聞こえたもの。私、様子を見てくるわ」

何故だろう?何か…嫌な予感がする。

「そう?まぁ…貴女がそこまで言うなら…見てくるといいわ」

「ええ。行ってくるわ」

私は席を立つと、廊下に出る為に扉へ向かった。


ガチャ…

ノブを回して廊下を見ても、シンと廊下は静まり返っている。

「…変ね…」

やはり物音は気のせいだったのだろうか?

首を傾げながら何気なく廊下の窓を見ると、あれほど青空が見えていた空にどんよりした雲が浮かび始めていた。

「…そう言えば、午後から天気が崩れると今朝ラジオで話していた気がするわ」

扉を閉めて部屋に戻ると母が帰り支度を始めていた。

「お母様?ひょっとしてもう帰るの?」

「ええ。帰ることにするわ。大分空が曇って来たから」

母はショールを体に巻き付けながら返事をする。

「そう‥‥これからお茶にしようかと思っていたところだったのに」

「いいのよ。元からすぐに帰るつもりだったから」

「でも…本当は私の説得に来たのじゃなかったの?」」

私の質問に母は笑った。

「ええ。勿論そのつもりだったわよ。本当ならこのまま連れ帰ろうと思っていたけれども…エルザには帰る気は無いみたいだったから」

「え……?」

その言葉にドキリとした。

「エルザ、フィリップはもういないけど…ここの生活はどうなのかしら?辛くはないのかしら?」

「どうって……」

私が今使っている部屋はフィリップが用意してくれた大好きなラベンダーの部屋。
使用人の人達は皆良い人たちで、ルークのことも可愛がってくれている。
そして…セシルと一緒にする仕事はやりがいがあった。

実家では無理を言わなければ家業の手伝いをさせてはくれなかった。
けれど、ここではセシルはさりげなく私に仕事を回してきたり、頼んでくることもある。
それも子育て中の私に負担がかからない程度に……。
いつしかルークの子育て同様、仕事も生き甲斐の一つになりつつあった。

「すぐ返事が無いっていうことは…辛い生活では無いってことかしら?ひょっとしてこの屋敷の生活が良いってことなのではない?」

「お母様……」

母はフッと笑うと、ソファから立ち上がった。

「それでは帰るわね。見送りは結構よ。馬車も待たせてあるから。またね」

「…ええ。又‥‥お母様」

母はフッと笑みを浮かべると、ベビーベッドで眠るルークの頬にキスをし…部屋を去って行った。

「……私も…仕事に戻りましょう」

そして私はベビーベッドから眠っているルークを抱き上げると、セシルのいる書斎へ足を向けた――。

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