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第165話 思い、悩み
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「ふぅ……これくらいでいいかしら」
部屋の荷物整理を終えると、周囲を見渡した。もう使わないような荷物は全てバッグの中にしまったし、後は特にすることは無さそうだった。
壁の時計を見ると時刻は午前11時を少し過ぎたところだった。
「ルークの授乳まではまだ時間がありそうね……」
そこで持ってきた荷物から刺繍の道具を取り出すと、椅子に座ってルークのスタイに刺繍を始めた。
カチコチカチコチ……
静かな部屋に時計の規則正しく秒針を刻む音だけが響いている。
私は一心不乱に刺繍をしていた。
何か身体を動かしてい無ければ、あれこれ良くないことを考えてしまうばかりだったからだ。
やがて……。
ボーン
ボーン
ボーン…
部屋の振り子時計が12時を告げる鐘を鳴らした。
「あ……。もうこんな時間だったのね」
刺繍の手を休め、そっとベッドで眠っているセシルの様子を伺うと眠っている姿が見えた。
今のうちにルークの授乳をしてこよう。
刺繍の材料をバッグにしまうと、そっと音を立てないように立ち上がった。
「……」
セシルが目を覚ます前に戻ってこなければ。
またね、セシル。
心のなかで呟くと、私は病室を後にした――。
****
急ぎ足でホテルに向かい、母とルークが待つ部屋の扉を開けた途端に鳴き声が聞こえてきた。
「ルークッ!」
部屋に入ると、母がルークをあやしている最中だった。
「ああ、良かった。エルザ、戻ってきてくれたのね?」
私の姿を目にした母が安堵の笑みを浮かべる。
「ええ、ごめんなさい、お母様。ルークを渡してくれる?」
「ええ」
母からルークを受け取ると、椅子に座ってすぐに授乳を始めた。
ルークは余程お腹が空いていたのか、必死になってコクコクと飲んでいる。
「ごめんね…ルーク。遅くなってしまって……」
そこへ母が声を掛けてきた。
「エルザ、セシルには何と言って出てきたの?」
「特に何も言ってこなかったわ。セシルは眠っていたから……」
「まぁ、そうだったのね」
「またルークの授乳を終えたら一度病室に戻るわ。そして次の授乳で今日は病院に行くのは終わりにするわ。どうせ、明日からはアンバー家で過ごすことになるのだからセシルも何も尋ねてこないと思うわ」
「そう……エルザ、貴女は本当にアンバー家に戻るのね?」
少しの沈黙の後、母が尋ねてきた。
「ええ、戻るわ……何しろ、わたしはまだアンバー家の姓を名乗っているから」
「でも、本当に大丈夫なの?セシルは貴女のことを妻と思っているのよ?そんな相手と一緒に暮らすなんて……」
「きっと、大丈夫よ。恐らくセシルは怪我が治るまでは不自由な身体で車椅子生活になると思うから……」
「私からアンバー家に話しておくわ。セシルの世話は他の人達にお願いするように伝えてくださいと。エルザには…ルークのお世話という仕事があるのだから」
「ありがとう。お母様」
そう、要はセシルの怪我が治る前に…彼の記憶が戻ればいいのだから。
お義母様がお見舞いに来てくれたらセシルの主治医の先生と、どうすればより早く記憶を戻すことが出来るのか相談してみよう。
そして私は腕の中のルークを見つめた――。
部屋の荷物整理を終えると、周囲を見渡した。もう使わないような荷物は全てバッグの中にしまったし、後は特にすることは無さそうだった。
壁の時計を見ると時刻は午前11時を少し過ぎたところだった。
「ルークの授乳まではまだ時間がありそうね……」
そこで持ってきた荷物から刺繍の道具を取り出すと、椅子に座ってルークのスタイに刺繍を始めた。
カチコチカチコチ……
静かな部屋に時計の規則正しく秒針を刻む音だけが響いている。
私は一心不乱に刺繍をしていた。
何か身体を動かしてい無ければ、あれこれ良くないことを考えてしまうばかりだったからだ。
やがて……。
ボーン
ボーン
ボーン…
部屋の振り子時計が12時を告げる鐘を鳴らした。
「あ……。もうこんな時間だったのね」
刺繍の手を休め、そっとベッドで眠っているセシルの様子を伺うと眠っている姿が見えた。
今のうちにルークの授乳をしてこよう。
刺繍の材料をバッグにしまうと、そっと音を立てないように立ち上がった。
「……」
セシルが目を覚ます前に戻ってこなければ。
またね、セシル。
心のなかで呟くと、私は病室を後にした――。
****
急ぎ足でホテルに向かい、母とルークが待つ部屋の扉を開けた途端に鳴き声が聞こえてきた。
「ルークッ!」
部屋に入ると、母がルークをあやしている最中だった。
「ああ、良かった。エルザ、戻ってきてくれたのね?」
私の姿を目にした母が安堵の笑みを浮かべる。
「ええ、ごめんなさい、お母様。ルークを渡してくれる?」
「ええ」
母からルークを受け取ると、椅子に座ってすぐに授乳を始めた。
ルークは余程お腹が空いていたのか、必死になってコクコクと飲んでいる。
「ごめんね…ルーク。遅くなってしまって……」
そこへ母が声を掛けてきた。
「エルザ、セシルには何と言って出てきたの?」
「特に何も言ってこなかったわ。セシルは眠っていたから……」
「まぁ、そうだったのね」
「またルークの授乳を終えたら一度病室に戻るわ。そして次の授乳で今日は病院に行くのは終わりにするわ。どうせ、明日からはアンバー家で過ごすことになるのだからセシルも何も尋ねてこないと思うわ」
「そう……エルザ、貴女は本当にアンバー家に戻るのね?」
少しの沈黙の後、母が尋ねてきた。
「ええ、戻るわ……何しろ、わたしはまだアンバー家の姓を名乗っているから」
「でも、本当に大丈夫なの?セシルは貴女のことを妻と思っているのよ?そんな相手と一緒に暮らすなんて……」
「きっと、大丈夫よ。恐らくセシルは怪我が治るまでは不自由な身体で車椅子生活になると思うから……」
「私からアンバー家に話しておくわ。セシルの世話は他の人達にお願いするように伝えてくださいと。エルザには…ルークのお世話という仕事があるのだから」
「ありがとう。お母様」
そう、要はセシルの怪我が治る前に…彼の記憶が戻ればいいのだから。
お義母様がお見舞いに来てくれたらセシルの主治医の先生と、どうすればより早く記憶を戻すことが出来るのか相談してみよう。
そして私は腕の中のルークを見つめた――。
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