挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
90 / 204

第88話 まだ秘密に

しおりを挟む
 少しの抱擁の後、フィリップが私からそっと身体を離すと尋ねてきた。

「エルザ、お昼はセシルと一緒に食事することになっているんだけど、どうする?」

「え?もうそんな時間だったの?」

時計をみると12時を少し過ぎていた。

「うん、一応セシルにはエルザの様子を見てから書斎に戻ると話はしてあるんだけど」

「そうね。一緒に食事したいのは山々だけど、あまり食欲がないの。少し胸がムカムカして…。もしかしてこれが、つわりというものかしら?」

「え…?まさかもう始まったのかい?それは大変だ。母はつわりが大変だったらしくて、ほとんど何も口にすることが出来なかったらしくて…あ、そうだ…」

不意にフィリップが神妙な顔つきになった。

「エルザ、セシルと両親に君が妊娠したことを告げるの…少し待ってもらってもいいかな?」

「ええ、いいわよ」

「そうかい?ありがとう」

フィリップは笑みを浮かべて私の頭を撫でると立ち上がった。

「それじゃセシルに今日は一緒に食事が出来ないと伝えてくるよ」

「え?いいのよ。そんなことしなくても。だって食事をしながら仕事の話だってあるわけでしょう?」

「う、うん…。確かにそれは…」

「だったらセシルと食事をしてきてちょうだい。私は何か食べれそうなものだけお願いするから…だから、ここで働いている皆には…赤ちゃんが出来たこと、伝えてもいいかしら…?」

「勿論だよ。ここで働く皆は僕が選んだ使用人たちばかりだからね。皆口が固くて信頼出来るから安心して伝えてくれていいよ。それにエルザの体調のことは皆に知っておいて貰ったほうが僕も安心できるからね」

「ありがとう、フィリップ。…愛しているわ」

フィリップの優しい心遣いがとても嬉しかった。

「僕もだよ。エルザ。愛してる」

彼は私を抱き寄せ、軽くキスしてきた。

「それじゃ、又後でね」

「ええ」

そしてフィリップは書斎に戻り、私は又1人になった―。



「取り敢えず、誰か呼んで食事のことについて話したほうがいいわね」

自分に言い聞かせるように呟くと、廊下に出てみた。
すると、丁度良い具合にメイドのクララがこちらへ向って歩いてくる姿が目に入った。

「あ、エルザ様。今お食事の件でお話がありまして伺いました」

クララは急ぎ足でこちらへ来るとすぐに話しかけてきた。

「食事の件で?」

「はい、フィリップ様から今日はエルザ様は自室でお食事をされるので、何が食べたいのか確認して欲しいと先程申しつかりました。お昼のお食事はいかが致しましょうか?」

「ええ、そのことなのだけど…あまり食欲がないので、今はフルーツだけでいいわ」

「え?そうなのですか…?まさかまた胃の具合が悪いのでは…?」

途端に心配そうな視線を向けてくるクララ。

「いいえ、そうではないの。実はね…」

そこで私はそっとクララに耳打ちをした。するとたちまち目を見開くクララ。

「エ、エルザ様…。その話、本当ですか…?」

「ええ、本当よ。離れで働く皆にはこのことを知っておいて貰いたいと思って。それでお願いがあるのだけど、クララから皆に伝えてくれる?」

「は、はいっ!すぐに伝えてきますっ!」

クララは踵を返すと、急ぎ足で去って行った。

「フフフ…きっと、あの様子では皆にすぐ伝わるわよね」

私は幸せ一杯だった。

だから気付かなかったのかも知れない。

この時、フィリップが重大な決意を胸に秘めていたということを―。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?

gacchi
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

処理中です...