挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

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第86話 宿った命

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「わ、私に赤ちゃんが…出来たんですか?」

突然の話に信じられなくて、」声を震わせながらシャロン先生に尋ねた。

「ええ、間違いありません。おめでとうございます」

ニッコリ笑うシャロン先生。

「お腹の中に私とフィリップの赤ちゃんが…」

そっとお腹に触れ…胸に熱い物がこみ上げてきた。

「…っ…」

そして次の瞬間、私の目に涙が溢れてきた。ずっと待ち望んでいた私とフィリップの赤ちゃん…。
フィリップの命が尽きるまでに…私と彼の愛の証が欲しかった。

その思いがようやく叶ったのだ。

「エルザ様…?」

シャロン先生がそっと声を掛けてきた。

「私…フィリップに伝えてきますっ!」

急いで立ち上がるとシャロン先生が慌てた。

「エルザ様、落ち着いて下さい。安定期に入るまでは赤ちゃんはまだ不安定な状況なのです。どうかお身体を労って上げて下さい」

「そ、そうですよね?わ、私…慌ててしまって…すぐにフィリップに伝えたくて…」

お腹にそっと手をあてながらシャロン先生を見た。

「ええ、逸る気持ちは分かりますが今はお腹の子のことを一番に考えてあげないと」

「はい、分かりました。ではゆっくり歩いて行けば良いですか?」

「はい。それがよろしいかと思います」

「それじゃ…」

けれど、すぐに考え直した。

今書斎に行けば、フィリップはセシルと一緒に仕事をしている。
セシルには悪いけれど、真っ先に赤ちゃんが出来たことを伝えたい相手はフィリップだった。
フィリップに知らせ、2人で喜びを分かち合った後にアンバー家の人達に報告をしたい…そんな考えが頭をよぎった。

「どうされましたか?エルザ様」

「いえ…私、フィリップにだけ最初に赤ちゃんが出来たことを伝えたいと思ったので…」

恥ずかしそうに言うと、シャロン先生がにっこり微笑んだ。

「ええ、そう思うのは当然だと思います。でしたら今はこのままお休み下さい。それでは今後はお腹の赤ちゃんの様子を伺いに定期的に訪問させて頂きますね」

「はい、今後もどうぞ宜しくお願い致します」


挨拶を交わし、シャロン先生は帰って行った。



パタン…

扉が閉じられ、1人になるとソファに座り直してお腹にそっと触れてみた。

「フフフ…まだ信じられないわ…。お腹の中に私とフィリップの赤ちゃんがいるなんて…」

とても幸せだった。
体調の悪さなど、喜びで吹き飛ぶほどに。

「赤ちゃんが出来たなら、もう働くのは無理かしら?」

嬉しさのあまり、肝心なことを聞くのを忘れてしまった。

「でも、ただ机に座って仕事をするだけだから…大丈夫よね?」

赤ちゃんが出来たことをフィリップに告げたら、仕事を続けても良いか尋ねてみよう。
フィリップは反対するかも知れないけれど、私は仕事を続けたかった。

理由は彼の力になってあげたかったら。
でもそれだけではない。
一緒に仕事をすればそれだけ長くフィリップの側にいられるから…。

「フフフ…。早くフィリップに赤ちゃんが出来たことを伝えたいわ…」

私はそっとお腹を撫でた―。

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