挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

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第83話 叶えたい夢とは

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「わ、分かったよ…。少しでも長く生きて欲しいと思うのは俺だって同じだからな。兄さんの仕事を全て引き継げるように…頑張るよ」

セシルは沈痛な面持ちでフィリップを見た。

「…ありがとう、セシル」

「その代わり、絶対に無理をしないと約束してくれよ?治療に専念することも」

「勿論、約束するよ」

頷くフィリップに私は声を掛けた。

「フィリップ、私にも仕事をさせて貰える?貴方とこの家の為に私も役立ちたいの」

「エルザ。でもいいのかい?君は女性なのに、働くなんて…」

「いいじゃないか、兄さん。エルザは計算も得意だし、帳簿だって見ることが出来るんだから。俺はエルザが仕事を手伝うの、賛成だな」

セシルの言葉にフィリップは私を見た。

「エルザ、本当にいいのかい?」

「ええ、いいの。だって私には何もしないでじっとしているなんてこと、性に合わなくて。むしろ忙しく身体を動かす方が好きなのよ」

「エルザは昔からそうだったよな。確かにじっとしていることは苦手だったよな」

セシルが納得したように頷く。

「…分かったよ。2人がそこまで言うなら…エルザ。これからも仕事を手伝ってくれるかい?」

「ええ、勿論よ」

するとセシルが立ち上がった。

「よし、それじゃ早速仕事の書類を取りに行ってくるよ。エルザも一緒に仕事をするなら本館だとまずいからな」

「悪いな」

「ありがとう、セシル」

フィリップに続いて私もお礼を述べる、セシルは「それじゃ、又後で」と言って書斎を出て行った。



「…ふぅ…」

セシルが書斎を出ていくと、フィリップは小さく息を吐いてソファに寄りかかった。

「大丈夫?フィリップ。身体、本当は辛いんじゃないの?」

フィリップの側に行くとそっと彼の髪に触れた。

「病院に行って帰ってきたばかりだったから少し疲れが出たのかもしれないね。痛みも出てきたし…」

フィリップが少し青ざめた顔で私を見る。
その顔を見ていると、胸が締め付けられそうになってくる。

「痛み止めは何処にあるの?」

「書斎机の右側の一番上の引き出しに…入っているよ」

フィリップは目を閉じながら返事をする。

「分かったわ。持ってくるから待っていてね」

すぐに立ち上がると書斎机に向かった。
フィリップに言われた通り、引き出しを開けるとそこには薬包が入っていた。
多分、これが痛み止めなのだろう。

書斎机の上にはフィリップがすぐに薬を飲めるように吸い飲みが用意されている。
私は吸い飲みと薬包を持つと彼の元へ戻った。

「フィリップ、薬を持ってきたわ。…飲める?」

「うん…ありがとう。飲むよ」

「それじゃ、上向いてくれる?」

「うん…」

私の言葉に素直に頷き、上を向くフィリップ。
包み紙を開き、中の薬をこぼさないように彼の口の中に薬を入れると吸い飲みを手渡した。

「…」

フィリップは無言でゴクリと薬を飲み込むと大きくため息をついた。
その表情は…辛そうだった。

「フィリップ…」

そっとフィリップの手に触れた。

「私が…貴方の代わりになれたら良かったのに…」

そう。
フィリップはアンバー家の次期当主としてこの先も必要な人なのだから。
私なんかよりもずっと…。

すると突然、フィリップが私の手を強く握りしめてきた。

「何を言うんだい?エルザ。僕の代わりになれたらって…どうしてそんなことを?」

「え…?だ、だって貴方は本来ならこのアンバー家の次期当主になる人だったでしょう?だけど私は…」

私は本当はお義父様とお義母様に望まれて、フィリップの元に嫁いできたわけではない。
元々のフィリップの妻にと、望まれていたのは姉のローズだった。
姉がいれば、私はこの屋敷では必要とされない存在なのだ。
だから、私はお義父様とお義母様からは歓迎されず…その結果、フィリップを板挟みにさせてしまった。

病気のフィリップを…。

思わず俯くと、フィリップが静かな口調で言った。

「エルザ…。ひょっとして、自分はこの屋敷では必要とされていない…なんて思っていないかい?」

「え?」

何故…私の気持ちを…?

「君こそ、僕にとって…そしてこアンバー家にとっても、本当に必要な存在なんだ。だからもう二度と僕の代わりになれたら…なんて台詞は言わないでもらえないかな…?」

フィリップの目には涙が浮かんでいた。彼の涙を目にし、自分がとんでもないことを言ってしまったことに気付いた。

「ご、ごめんなさい。もう二度と言わないわ。だから、1日でも長く私の傍にいて…?」

最後の方は涙声になっていた。

「うん、僕は…まだまだ死ぬつもりは無いよ。僕には叶えたい夢があるからね」

「叶えたい夢…って…?」

けれど、フィリップはそれには答えず、私の頬にそっと手で触れてきた。

「ごめ…ん…。薬のせいか、眠くなってきたから…少し眠ってもいいかな…?」

「ええ。勿論よ」

「ありがと…う」

そしてフィリップは瞳を閉じると、すぐに眠りについてしまった。


「フィリップ…貴方の叶えたい夢って…一体何なの…?」

眠っている彼にそっと語りかけてみたけれども…フィリップからは当然返って来る言葉はない。



フィリップの叶えたい夢が何なのか…?

私がそのことを知るのは、もう少し先のことになる―。

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