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第71話 チャールズさんの話
しおりを挟む 「それじゃ…仕事をしに行ってくるよ」
書斎で少し疲れた様子のフィリップが必要な書類を揃えながら声を掛けてきた。
「フィリップ…本当は具合が悪いんじゃないの…?」
すると彼はフッと口元に笑みを浮かべて私を見た。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ?痛み止めを持っていくから。それに17時には戻ってくるよ」
「フィリップ…」
するとフィリップが抱きしめてきた。
「エルザ…ごめん。君に不自由な思いをさせて…。もう少し…もう少しだけ待っていてくれるかい?そうすれば今よりももっとエルザがここで暮らしやすい環境にしてあげられるはずだから…」
「…ええ、分かったわ」
ここで暮らしやすい環境…。
それが何を意味しているかは不明だけれども、フィリップは何か大きな決断を下そうとしていることが分かった。
「フィリップ、お願いがあるの。絶対に無理しないと約束してくれる?」
フィリップの胸に顔を埋めながら懇願した。
「うん、分かった。約束するよ…。それじゃ、行ってくるね」
私の髪を撫でると、フィリップは仕事をする為に本館へと向かって行った―。
****
フィリップが仕事へ行ってしまい、再び私は手持ち無沙汰になってしまった。
そこで自室に戻り、本を読んでいると扉をノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「はい」
返事をすると扉の奥から声が聞こえてきた。
『エルザ様、チャールズです。宜しければお茶はいかがでしょうか?』
「ええ、どうぞ」
すぐに扉が開かれ、銀のトレーにティーポットとティーカップを乗せたチャールズさんが部屋に入ってきた。
「失礼致します」
そして私の座るテーブルセットの前にティーカップを置くとお茶を注いでくれた。
室内にハーブの良い香りが漂ってくる。
「いい香り…」
「はい、レモングラスのハーブティーです。ご一緒に紅茶のクッキーをお持ち致しました」
「どうもありがとう」
お礼を述べると私はチャールズさんに尋ねた。
「チャールズさん。何か私に話があるのでしょう?」
「あ…お分かりになりましたか?」
チャールズさんは、少しだけ困ったような笑顔を浮かべた。
やっぱりそうだと思った。チャールズさんはいつも忙しい人で、殆ど会話らしい会話を今迄交わしたことは無かったからだ。それなのにわざわざお茶を淹れて、尋ねてくるのには訳があるはずだから。
「実はフィリップ様の事です」
「…ええ。聞かせて下さい」
するとチャールズさんは私に頭を下げてきた。
「エルザ様、申し訳ございませんでした。私共はエルザ様を勘違いさせてしまうような態度ばかり取っておりました。それを大変心苦しく思っておりました」
「いいのよ。だってフィリップに命じられていたからでしょう?」
「はい、そうです…。ですが、エルザ様とフィリップ様は今ではすっかり仲睦まじい夫婦になられました。なのでフィリップ様には固く口止めされていましたが…どうしうてもエルザ様に知っておいて貰いたいお話があります」
「私に…知っておいてもらいたい話…?」
一体、どんな話なのだろう…。
私は緊張する面持ちで、チャールズさんの次の言葉を待った―。
書斎で少し疲れた様子のフィリップが必要な書類を揃えながら声を掛けてきた。
「フィリップ…本当は具合が悪いんじゃないの…?」
すると彼はフッと口元に笑みを浮かべて私を見た。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ?痛み止めを持っていくから。それに17時には戻ってくるよ」
「フィリップ…」
するとフィリップが抱きしめてきた。
「エルザ…ごめん。君に不自由な思いをさせて…。もう少し…もう少しだけ待っていてくれるかい?そうすれば今よりももっとエルザがここで暮らしやすい環境にしてあげられるはずだから…」
「…ええ、分かったわ」
ここで暮らしやすい環境…。
それが何を意味しているかは不明だけれども、フィリップは何か大きな決断を下そうとしていることが分かった。
「フィリップ、お願いがあるの。絶対に無理しないと約束してくれる?」
フィリップの胸に顔を埋めながら懇願した。
「うん、分かった。約束するよ…。それじゃ、行ってくるね」
私の髪を撫でると、フィリップは仕事をする為に本館へと向かって行った―。
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フィリップが仕事へ行ってしまい、再び私は手持ち無沙汰になってしまった。
そこで自室に戻り、本を読んでいると扉をノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「はい」
返事をすると扉の奥から声が聞こえてきた。
『エルザ様、チャールズです。宜しければお茶はいかがでしょうか?』
「ええ、どうぞ」
すぐに扉が開かれ、銀のトレーにティーポットとティーカップを乗せたチャールズさんが部屋に入ってきた。
「失礼致します」
そして私の座るテーブルセットの前にティーカップを置くとお茶を注いでくれた。
室内にハーブの良い香りが漂ってくる。
「いい香り…」
「はい、レモングラスのハーブティーです。ご一緒に紅茶のクッキーをお持ち致しました」
「どうもありがとう」
お礼を述べると私はチャールズさんに尋ねた。
「チャールズさん。何か私に話があるのでしょう?」
「あ…お分かりになりましたか?」
チャールズさんは、少しだけ困ったような笑顔を浮かべた。
やっぱりそうだと思った。チャールズさんはいつも忙しい人で、殆ど会話らしい会話を今迄交わしたことは無かったからだ。それなのにわざわざお茶を淹れて、尋ねてくるのには訳があるはずだから。
「実はフィリップ様の事です」
「…ええ。聞かせて下さい」
するとチャールズさんは私に頭を下げてきた。
「エルザ様、申し訳ございませんでした。私共はエルザ様を勘違いさせてしまうような態度ばかり取っておりました。それを大変心苦しく思っておりました」
「いいのよ。だってフィリップに命じられていたからでしょう?」
「はい、そうです…。ですが、エルザ様とフィリップ様は今ではすっかり仲睦まじい夫婦になられました。なのでフィリップ様には固く口止めされていましたが…どうしうてもエルザ様に知っておいて貰いたいお話があります」
「私に…知っておいてもらいたい話…?」
一体、どんな話なのだろう…。
私は緊張する面持ちで、チャールズさんの次の言葉を待った―。
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