挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

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第25話 訪問者

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 辻馬車がアンバー家の門に到着したのは午後5時半を過ぎていた。

「どうもありがとう」

 馬車代として1000ペソ支払うと私は馬車を降りて、屋敷へと続く庭を日傘をさしたまま歩き始めた。
アンバー家は男爵家ながらも歴史が古く、広々とした敷地の中に屋敷を構えている。

本当なら屋敷の前まで辻馬車に乗せて貰おうかと思ったのだけれども…。

「辻馬車が目立って、お義父様やお義母様に出掛けていたことがバレたらいけないわよね…」

屋敷を目指しながら私はポツリと呟いた。
セシルが私に言った言葉が蘇ってくる。

『何故離れに閉じこもったきりで、両親に挨拶に来ないんだ?』

本館に住むアンバー家の人達は私が離れに引き籠もっていると思っている。その私が外に出歩いている事が知られてしまうと、更に私の立場は悪いものになってしまうだろう。
だから、誰にもバレないように離れに戻らなければならない。

「やっぱり…フィリップには咎められるかもしれないけれど、一度は本館にご挨拶に行った方がいいわよね…」

離へ向かいながら、その隣に建つ大きなお屋敷を見つめて私はため息をついた…。



****

カチャ…

「ただいま…」

静かに扉を開けて屋敷の中へ入ると、通路の奥で何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「あら?何かしら?随分騒がしいみたいだけど…?」

何を騒いでいるのか確かめに足を向けようとした時…。

騒ぎの起きている反対側の廊下からパタパタと足音が私のいる方向へ近付いてきた。

「お帰りなさいませ、エルザ様」

フットマンのデイブが慌てた様子で私の元へやってくると声を掛けてきた。

「ええ、ただいま。それよりこの先の廊下で一体何を騒いでいるの?」

私が尋ねるとデイブの顔が曇った。

その時…。

「だから、エルザには会わせられないってさっきから言っているだろうっ?!」

それはフィリップの声だった。

「え?今の声は…フィリップなの…?」

「え、ええ。そうです…」

「そんな…」

私には信じられなかった。私が知るフィリップは今まで一度たりともあんな風に声を荒らげたことは一度も無かったのに…。

すると次に別の荒々しい声が聞こえてきた。

「何故だ!エルザはもうアンバー家の嫁になったのだから私達の前に顔を見せるのは当然の事だろうっ?!」

あの声は…お義父様っ!私がいつまでのご挨拶にいかないからしびれを切らして…。

「大変…ご挨拶に行かなくちゃ…」

慌てて声のする方へ行こうとすると、デイブに引き止められた。

「エルザ様。こちらにいてはまずいです。取り敢えず私の後についてきて下さい」

「え?で、でも…」

「どうか、お願いですから。フィリップ様の御命令なのです」

「フィリップの…?」

一体どういうことなのだろう?けれどもデイブの切羽詰まった話し方に私は頷くしか無かった。

「え、ええ。分かったわ…」

「良かった…ありがとうございます。ではすぐにこちらへ」

そして私はデイブに連れられて、その場を後にした―。


****

「こちらの部屋で状況が収まるまではお待ち頂けますか?私が様子を見てまいりますので」

案内された部屋は空き部屋だった。

「ええ…それは構わないのだけど…一体何があったの?」

「それが…エルザ様の留守中に…旦那様と奥様がエルザ様に会いにいらしたのですが…そこで口論になってしまって…」

「そうだったの?だったら今、私が姿を見せれば丸く収まるんじゃないの?」

するとデイブさんは首を激しく振った。

「い、いいえ。それは駄目です!フィリップ様からは絶対にエルザ様を奥様と旦那様に会わせないように命じられているのです」

その言葉に耳を疑った。

「え?な、何故…?」

「そ、それは…」

そこでデイブが口ごもる。

「…もしかして、フィリップに…口止めされているの?」

「はい…申し訳ございません…」

デイブは困った顔で頭を下げてきた。ここで働く人達は主であるフィリップの命令には刃向かえない。

「…ごめんなさい。貴方を困らせるわけにはいかないものね。理由は…聞かないわ」

「ありがとうございます。では様子を見てまいりますね?」

そしてデイブは私をこの部屋に残し、1人で様子を見に出ていった―。
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