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第2話 ここからが始まり
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馬車はかれこれ30分近く走り続けている。
向かい側に座るフィリップは先程から腕を組んで馬車の中で目を閉じて眠っている。私も本当は眠かったが、父と母に言われていた。
『淑女と言う者は人前で居眠りをするようなものではない』と。
恐らくこれは私が貴族では無く平民である故に、礼儀作法だけはしっかり身に着けさせたかった両親の教育によるものだったのかもしれない。特に姉は長女だった事もあり、厳しく育てられた。…だから姉は嫌気が差して…。
その時、目の前に座るフィリップが寒そうに少しだけ震えた。そこで私は足元においたボストンバッグを引き寄せると、中からショールを取り出した。
そして、そっとフィリップに掛けようとした時―。
「そんな事はしなくて大丈夫だよ」
フィリップが目を開けると私に言った。
「あ…起きていたのね?てっきり眠っていて…寒いと思ったから私のショールを掛けてあげようと思ったのだけど…」
手にしていたショールをもう一度バッグの中にしまった。
「目を閉じていたのは、君と余計な会話をしたくは無かったからだよ」
「え?」
その言葉に背中に冷や水を浴びせられた気持ちになる。
「…僕は今、すごく疲れているんだ。…君の新居を整える為に昨日は色々手配していたからね…」
どこか気だるげにフィリップが言う。
私の為に…。
「そうだったの?ありがとう、私の為にそんなに大変な1日を過ごさせてしまったのね?今日は結婚式だったのに…ありがとう」
素直な気持ちで彼に頭を下げた。
「…」
フィリップは何故か私をじっと見つめている。
「フィリップ?どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
そしてフイと彼は私から視線をそらし、窓の外を見ると言った。
「屋敷が見えて来た。もうじき到着するよ」
彼に言われて私も窓の外に視線を移した。すると、そこには並木道の先に大きな美しい屋敷が佇んでいる様子が見えた。
「子供の時に来て以来だわ…相変わらず大きくて立派ね」
笑みを浮かべてフィリップを見た。
「…そうかな?別に僕は何とも思わないけどね」
そして再び口を閉ざしてしまった。
「…」
そんな彼を私は寂し気に見つめた。
何故、フィリップはこんなに冷たくなってしまったのだろう。私達の結婚が決まるまでは…とても優しい人だったのに…。
「ところで…エルザ」
「はい?」
再びフィリップが声を掛けて来たので、私は笑みを浮かべながら返事をした。
「…いや、何でもない。後で話すよ」
「そう…?」
一体何だろう?凄く気になるので本当はいますぐ話を聞かせて貰いたかった。けれども無理に催促して、フィリップに嫌われたくは無かったのでここは黙っていることにした。
そう、例え今聞けなくても…後で話てくれるのだから、それまで私は待てばいいのだ。
そして私達を乗せた馬車が屋敷の門を潜り抜けた。
すると眼前には美しく整えられた大きな庭が広がった。そして庭の奥には3階建ての大きな屋敷と、右側に建てられた可愛らしい離れ。
「あの離れでこれから私達、暮らしていくのね?」
「…」
しかし、フィリップは聞こえているのかいないのか、返事をしない。
それでも私は幸せだった。
何故なら今日から私は子供の頃から大好きだったフィリップの妻になれたのだから。
しかし…ここからが私の辛く、悲しい生活が始まる事になるとは、この時の私はまだ思いもしていなかった―。
向かい側に座るフィリップは先程から腕を組んで馬車の中で目を閉じて眠っている。私も本当は眠かったが、父と母に言われていた。
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そして、そっとフィリップに掛けようとした時―。
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「え?」
その言葉に背中に冷や水を浴びせられた気持ちになる。
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どこか気だるげにフィリップが言う。
私の為に…。
「そうだったの?ありがとう、私の為にそんなに大変な1日を過ごさせてしまったのね?今日は結婚式だったのに…ありがとう」
素直な気持ちで彼に頭を下げた。
「…」
フィリップは何故か私をじっと見つめている。
「フィリップ?どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
そしてフイと彼は私から視線をそらし、窓の外を見ると言った。
「屋敷が見えて来た。もうじき到着するよ」
彼に言われて私も窓の外に視線を移した。すると、そこには並木道の先に大きな美しい屋敷が佇んでいる様子が見えた。
「子供の時に来て以来だわ…相変わらず大きくて立派ね」
笑みを浮かべてフィリップを見た。
「…そうかな?別に僕は何とも思わないけどね」
そして再び口を閉ざしてしまった。
「…」
そんな彼を私は寂し気に見つめた。
何故、フィリップはこんなに冷たくなってしまったのだろう。私達の結婚が決まるまでは…とても優しい人だったのに…。
「ところで…エルザ」
「はい?」
再びフィリップが声を掛けて来たので、私は笑みを浮かべながら返事をした。
「…いや、何でもない。後で話すよ」
「そう…?」
一体何だろう?凄く気になるので本当はいますぐ話を聞かせて貰いたかった。けれども無理に催促して、フィリップに嫌われたくは無かったのでここは黙っていることにした。
そう、例え今聞けなくても…後で話てくれるのだから、それまで私は待てばいいのだ。
そして私達を乗せた馬車が屋敷の門を潜り抜けた。
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「…」
しかし、フィリップは聞こえているのかいないのか、返事をしない。
それでも私は幸せだった。
何故なら今日から私は子供の頃から大好きだったフィリップの妻になれたのだから。
しかし…ここからが私の辛く、悲しい生活が始まる事になるとは、この時の私はまだ思いもしていなかった―。
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