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第155話 うたた寝
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午前10時――
僕とエディットは「パーラールーム」と呼ばれる部屋で丸テーブルに向かい合って勉強をしていた。
マホガニー製の家具で統一された部屋は重厚そうで、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
暖かい日差しが差し込む部屋に、静かに時を刻む時計の音。そして紙をめくる音にノートを走るペンの音……。
駄目だ、今のこれらは僕の眠気を誘うのに十分過ぎるほど条件が整いすぎている。
うう……眠い。でもここで睡魔に襲われては駄目だ。我慢するんだ……。
目をゴシゴシ擦っていると、不意にエディットが声を掛けてきた。
「アドルフ様、どうかされましたか?」
「あ、う、うん。この部屋はあまりに居心地が良くて……少し眠気が出てしまっただけだよ」
嘘をついても仕方がない。ここは正直に話してしまおう。するとエディットがある提案をしてきた。
「なら、少し休憩してお茶でも飲みませんか?きっと目が覚めますよ。幸い、ここはパーラールームですから、すぐにお茶の準備が出来ます。ただ、お湯だけもらいに行かなければならないのですが」
「へ~。パーラールームってそういう意味だったんだね?それじゃこの部屋に置かれている食器棚に入っているのって……」
「はい、全てお茶のセットです。アドルフ様は何が飲みたいですか?」
「そうだね……コーヒーはあるのかな?」
やっぱり眠気を冷ますには濃いブラックコーヒーが一番だ。
「はい、あります。それでは今お湯を貰って来ますね?」
エディットが立ち上がった。
「え?エディットが貰ってくるの?」
てっきり使用人の人を呼んで用意して貰うのかと思っていたのに?
「はい、私が……自分で用意したいので。あの、少しお待ち頂けますか?」
「うん。ありがとう」
「それでは行ってきますね」
そしてエディットはパーラールームを出ていき……僕は1人部屋に残された。
「エディットが僕の為にコーヒーを淹れてくれるのか……」
何だかそれだけで幸せな気持ちになってくる。
「ずっと……この先もエディットとこうしていられるといいな……」
そんなことを考えていると、再び深い眠りが襲ってきた。
「だ、駄目だ……眠気が……」
そして結局僕は睡魔に勝てず……テーブルに伏して、眠ってしまった――。
****
「……です……。ずっと………から……」
誰かが耳元で囁いているように聞こえる。そして、何か柔らかいものが額に触れる気配を感じた。
ん……?
誰が話しかけているのだろう……?確か今勉強中で……。
その時、僕の意識は瞬時に覚醒した。大変だ!眠っていたんだ!
「わぁ!」
慌てて飛び起きると、すぐ側で悲鳴が聞こえた。
「キャッ!」
「え?」
見ると、エディットが僕の直ぐ側で顔を真っ赤にしながら立っていた。
「え?エディット?」
彼女を見上げたその時、自分の肩にブランケットが掛けられていることに気がついた。
「あ、あの……わ、わ、私……」
エディットが口元を抑えて真っ赤になって僕を見下ろしている。
そうか……エディットが掛けてくれたのか。
「ありがとう、エディット」
「え?」
「このブランケット、エディットが掛けてくれたんだよね?」
「は、はい。そうです。部屋に戻ったらアドルフ様が眠ってらしたので……ブランケットを……」
エディットは視線を反らせるように返事をした。
「ごめんね。まさか勉強中に眠ってしまうなんて……」
絶対エディットの前で眠ってはいけないと誓っていたのに、とんだ醜態を晒してしまった。
「いいえ、ほんの20分程ですから大丈夫ですよ。それより眠気はどうですか?」
「うん、大分すっきりしたよ」
「そうですか。それなら良かったです、ではコーヒーを淹れますね?」
「ありがとう」
エディットがお湯を注いでコーヒーを淹れてくれている姿を見つめながら、先程のことを思い出していた。
さっきの……額に触れたあの感触は一体何だったのだろう――と?
僕とエディットは「パーラールーム」と呼ばれる部屋で丸テーブルに向かい合って勉強をしていた。
マホガニー製の家具で統一された部屋は重厚そうで、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
暖かい日差しが差し込む部屋に、静かに時を刻む時計の音。そして紙をめくる音にノートを走るペンの音……。
駄目だ、今のこれらは僕の眠気を誘うのに十分過ぎるほど条件が整いすぎている。
うう……眠い。でもここで睡魔に襲われては駄目だ。我慢するんだ……。
目をゴシゴシ擦っていると、不意にエディットが声を掛けてきた。
「アドルフ様、どうかされましたか?」
「あ、う、うん。この部屋はあまりに居心地が良くて……少し眠気が出てしまっただけだよ」
嘘をついても仕方がない。ここは正直に話してしまおう。するとエディットがある提案をしてきた。
「なら、少し休憩してお茶でも飲みませんか?きっと目が覚めますよ。幸い、ここはパーラールームですから、すぐにお茶の準備が出来ます。ただ、お湯だけもらいに行かなければならないのですが」
「へ~。パーラールームってそういう意味だったんだね?それじゃこの部屋に置かれている食器棚に入っているのって……」
「はい、全てお茶のセットです。アドルフ様は何が飲みたいですか?」
「そうだね……コーヒーはあるのかな?」
やっぱり眠気を冷ますには濃いブラックコーヒーが一番だ。
「はい、あります。それでは今お湯を貰って来ますね?」
エディットが立ち上がった。
「え?エディットが貰ってくるの?」
てっきり使用人の人を呼んで用意して貰うのかと思っていたのに?
「はい、私が……自分で用意したいので。あの、少しお待ち頂けますか?」
「うん。ありがとう」
「それでは行ってきますね」
そしてエディットはパーラールームを出ていき……僕は1人部屋に残された。
「エディットが僕の為にコーヒーを淹れてくれるのか……」
何だかそれだけで幸せな気持ちになってくる。
「ずっと……この先もエディットとこうしていられるといいな……」
そんなことを考えていると、再び深い眠りが襲ってきた。
「だ、駄目だ……眠気が……」
そして結局僕は睡魔に勝てず……テーブルに伏して、眠ってしまった――。
****
「……です……。ずっと………から……」
誰かが耳元で囁いているように聞こえる。そして、何か柔らかいものが額に触れる気配を感じた。
ん……?
誰が話しかけているのだろう……?確か今勉強中で……。
その時、僕の意識は瞬時に覚醒した。大変だ!眠っていたんだ!
「わぁ!」
慌てて飛び起きると、すぐ側で悲鳴が聞こえた。
「キャッ!」
「え?」
見ると、エディットが僕の直ぐ側で顔を真っ赤にしながら立っていた。
「え?エディット?」
彼女を見上げたその時、自分の肩にブランケットが掛けられていることに気がついた。
「あ、あの……わ、わ、私……」
エディットが口元を抑えて真っ赤になって僕を見下ろしている。
そうか……エディットが掛けてくれたのか。
「ありがとう、エディット」
「え?」
「このブランケット、エディットが掛けてくれたんだよね?」
「は、はい。そうです。部屋に戻ったらアドルフ様が眠ってらしたので……ブランケットを……」
エディットは視線を反らせるように返事をした。
「ごめんね。まさか勉強中に眠ってしまうなんて……」
絶対エディットの前で眠ってはいけないと誓っていたのに、とんだ醜態を晒してしまった。
「いいえ、ほんの20分程ですから大丈夫ですよ。それより眠気はどうですか?」
「うん、大分すっきりしたよ」
「そうですか。それなら良かったです、ではコーヒーを淹れますね?」
「ありがとう」
エディットがお湯を注いでコーヒーを淹れてくれている姿を見つめながら、先程のことを思い出していた。
さっきの……額に触れたあの感触は一体何だったのだろう――と?
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