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第38話 出迎えられるヒロインと悪役令息
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程なくして辻馬車乗り場に到着した僕達はすぐに馬車に乗ることが出来た。
ガラガラと走る馬車の窓からは満点の星空が見えている。
それにしても……すっかり遅くなってしまった。きっとエディットの両親は怒っているに違いない。
まずはエディットに先に謝っておかないと。
「今夜はごめん、エディット」
「え?何を謝るのですか?」
エディットは何のことか分からないと言う様子で首を傾げた。
「うん、本当はもっと早く家に帰して上げなくちゃならなかったのに、こんな遅い時間になってしまったからだよ」
辻馬車乗り場付近にあった時計台の時刻を確認したとき、時計の針は7時40分をさしていた。
恐らくこの様子ではエディットの屋敷に馬車が到着するのは8時20分を過ぎてしまうだろう。
「そんなこと、お気になさらないで下さい。我が家の門限は21時なのでまだ余裕はありますから」
「それでも心配していると思うんだ。だからエディットの自宅に到着したら、御両にに謝らせて貰えないかな?」
「え?でもアドルフ様のご自宅の方が私の家よりも近いのですよ?なので今回はどうぞ先に馬車を降りて下さい」
前世の記憶が戻る前のアドルフだったら、きっと見送らずにさっさと馬車を降りていただろうけど、今の僕は違う。
「何を言っているんだい?女性を1人残して、先に帰るなんてこと出来るはずないよ。最後まできちんと送り届けさせてくれないかな?」
年頃の女性を1人で馬車に乗せて返すわけにはいかない。
第一、仮にそんなことをしようものならエディットの両親の心証を悪くしてしまう。
追放ルート?に繋がりそうな要因は全て排除しておかなければ。
「すみません、アドルフ様に遠回りさせてしまうことになって……」
それでもまだ申し訳なさげにしているエディット。
う~ん……随分気にしているみたいだ。だったら‥‥。
「それじゃあエディットの家に着くまでの間、また僕に歴史の問題を出して貰えるかな?」
もう今夜は家に帰っても明日の試験勉強にあまり時間を費やせない。
だとしたら勉強が得意なエディットに問題を出して貰った方が余程効率が良さそうだ。
それにこれならエディットだって僕に気を使うことは無くなるだろう。
「はい、分かりました。それでは早速問題を出しますね?」
案の定、エディットは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、頼むよ」
「では問題を出しますね。第1問は‥‥」
こうして帰りの馬車の中も僕はエディットに歴史の問題を出して貰った。
その甲斐あって、ロワイエ伯爵家に到着する頃には明日の試験に関して大分自信を持てるようになっていた――。
****
20時15分――
「おぉ、2人共お帰り。アドルフ君、今夜はありがとう。エディット、楽しかったか?」
「まぁ、アドルフ様。エディットをわざわざ連れてきてくださって、どうもありがとうございます」
てっきり遅くなってしまったことで、伯爵夫妻に怒られてしまうかと思っていたのに2人は笑顔でエントランスまで出迎えてくれた。
「お父様、お母様。只今戻りました」
エディットは両親に笑顔を見せている。
「大切なお嬢さんをこんな遅い時間まで引っ張り回してしまい、大変申し訳ございませんでした」
そして丁寧に頭を下げ、顔を上げた。
「「……」」
すると伯爵夫妻は何故か目を見開いて僕を見ている。
「あの……どうかしましたか……?」
何かまずい台詞を口にしてしまったのだろうか?
「い、いや。まさかアドルフくんからそのような立派な台詞が出てくるとは思わなかったよ」
「ええ。本当だわ。本当に驚きですわね。良かったわね、エディット。こんな素敵な青年が貴方の婚約者なのだから」
夫人はとんでもないことをエディットに言う。
「はい、本当にアドルフ様は……その、素敵な方です」
ためらいがちに返事をしながら、チラリと僕を見るエディット。
エディットに気を使わせてしまった。
……夫人。本人を前にそんなことを尋ねれば、肯定するしかないじゃありませんか。
「あ、あははは……」
第一、エディットには別にふさわしい相手がいるんですよ?……等とはとても口にすることが出来ず、僕は曖昧に笑った。
もうこれ以上、変な話を口にされる前に退散したほうが良さそうだ。
「すみません。それでは僕はこれで失礼致します。辻馬車を外に待たせてありますので」
「なんと?そうだったのですか?我が家の馬車で君を遅らせようと思っていたのに。ついでに私も乗って、色々馬車の中で話を聞きたかったのですがな」
「いいえ。馬車を出してもらうなんて、そのようなお手間を取らせるわけには参りません。僕は辻馬車で帰りますので、どうぞお気遣い無く」
一緒に馬車に乗って話をする?
冗談じゃないっ!
「そうなのですか……?それは残念だ」
「お話はまたの機会にさせて下さい」
だから、どうか早く帰らせて下さい!家に帰ってもう一度教科書を読み直したいので。
と、心の中で訴える。
「お父様、あまりお引き止めしてはアドルフ様にご迷惑です。明日は歴史の試験もありますので」
エディットが助け舟を出してくれた。
ナイス!エディット!
「おぉ!確かにそうだったな」
伯爵はポンと手を打ち、再び僕に向き直り、頭を下げてきた。
「アドルフ君。お引き止めして申し訳ないです」
「いいえ。とんでもありません。それでは僕はこれで失礼致します」
「また是非いらして下さいな。自慢の紅茶を淹れてお待ちしておりますから」
夫人はにこにこ顔で声を掛けてきた。
「はい、そうですね」
また何か妙な話を聞かされるのだろうか……?内心ゾッとしつつ営業スマイルを見せる。
「あの、アドルフ様!」
エディットが前に進み出てきた。
「何?エディット」
「あ、あの……こ、今夜はとても楽しかったです。私…今日のことは一生忘れません」
そして真っ赤な顔で僕を見上げる。
「一生だなんて、大げさだな。それじゃ、エディット。また明日学校でね」
「はい」
大きく頷くエディット。
そして、僕は3人に見送られなが辻馬車に乗って家路を目指した。
****
ガラガラガラガラ……
僕を乗せた馬車が夜道を走っている。
「エディット、楽しそうだったな……今夜は誘って良かった」
これで大分僕の心証は上がったに違いない。
こうやって徐々にエディットの好感度を上げていけば、王子がエディットと結ばれたとしても追放を免れることが出来るかもしれない。
でも、今夜は僕も楽しかった。
王子が学園に転校生として現れるにはまだ半月は先のはず。
その時まではエディットとまた今夜のような時間を一緒に過ごし……王子が現れたらエディットの前から身を引こう。
夜道を走る馬車の中から夜空を見上げた。
そして翌日、事態は大きく動き出す――。
ガラガラと走る馬車の窓からは満点の星空が見えている。
それにしても……すっかり遅くなってしまった。きっとエディットの両親は怒っているに違いない。
まずはエディットに先に謝っておかないと。
「今夜はごめん、エディット」
「え?何を謝るのですか?」
エディットは何のことか分からないと言う様子で首を傾げた。
「うん、本当はもっと早く家に帰して上げなくちゃならなかったのに、こんな遅い時間になってしまったからだよ」
辻馬車乗り場付近にあった時計台の時刻を確認したとき、時計の針は7時40分をさしていた。
恐らくこの様子ではエディットの屋敷に馬車が到着するのは8時20分を過ぎてしまうだろう。
「そんなこと、お気になさらないで下さい。我が家の門限は21時なのでまだ余裕はありますから」
「それでも心配していると思うんだ。だからエディットの自宅に到着したら、御両にに謝らせて貰えないかな?」
「え?でもアドルフ様のご自宅の方が私の家よりも近いのですよ?なので今回はどうぞ先に馬車を降りて下さい」
前世の記憶が戻る前のアドルフだったら、きっと見送らずにさっさと馬車を降りていただろうけど、今の僕は違う。
「何を言っているんだい?女性を1人残して、先に帰るなんてこと出来るはずないよ。最後まできちんと送り届けさせてくれないかな?」
年頃の女性を1人で馬車に乗せて返すわけにはいかない。
第一、仮にそんなことをしようものならエディットの両親の心証を悪くしてしまう。
追放ルート?に繋がりそうな要因は全て排除しておかなければ。
「すみません、アドルフ様に遠回りさせてしまうことになって……」
それでもまだ申し訳なさげにしているエディット。
う~ん……随分気にしているみたいだ。だったら‥‥。
「それじゃあエディットの家に着くまでの間、また僕に歴史の問題を出して貰えるかな?」
もう今夜は家に帰っても明日の試験勉強にあまり時間を費やせない。
だとしたら勉強が得意なエディットに問題を出して貰った方が余程効率が良さそうだ。
それにこれならエディットだって僕に気を使うことは無くなるだろう。
「はい、分かりました。それでは早速問題を出しますね?」
案の定、エディットは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、頼むよ」
「では問題を出しますね。第1問は‥‥」
こうして帰りの馬車の中も僕はエディットに歴史の問題を出して貰った。
その甲斐あって、ロワイエ伯爵家に到着する頃には明日の試験に関して大分自信を持てるようになっていた――。
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20時15分――
「おぉ、2人共お帰り。アドルフ君、今夜はありがとう。エディット、楽しかったか?」
「まぁ、アドルフ様。エディットをわざわざ連れてきてくださって、どうもありがとうございます」
てっきり遅くなってしまったことで、伯爵夫妻に怒られてしまうかと思っていたのに2人は笑顔でエントランスまで出迎えてくれた。
「お父様、お母様。只今戻りました」
エディットは両親に笑顔を見せている。
「大切なお嬢さんをこんな遅い時間まで引っ張り回してしまい、大変申し訳ございませんでした」
そして丁寧に頭を下げ、顔を上げた。
「「……」」
すると伯爵夫妻は何故か目を見開いて僕を見ている。
「あの……どうかしましたか……?」
何かまずい台詞を口にしてしまったのだろうか?
「い、いや。まさかアドルフくんからそのような立派な台詞が出てくるとは思わなかったよ」
「ええ。本当だわ。本当に驚きですわね。良かったわね、エディット。こんな素敵な青年が貴方の婚約者なのだから」
夫人はとんでもないことをエディットに言う。
「はい、本当にアドルフ様は……その、素敵な方です」
ためらいがちに返事をしながら、チラリと僕を見るエディット。
エディットに気を使わせてしまった。
……夫人。本人を前にそんなことを尋ねれば、肯定するしかないじゃありませんか。
「あ、あははは……」
第一、エディットには別にふさわしい相手がいるんですよ?……等とはとても口にすることが出来ず、僕は曖昧に笑った。
もうこれ以上、変な話を口にされる前に退散したほうが良さそうだ。
「すみません。それでは僕はこれで失礼致します。辻馬車を外に待たせてありますので」
「なんと?そうだったのですか?我が家の馬車で君を遅らせようと思っていたのに。ついでに私も乗って、色々馬車の中で話を聞きたかったのですがな」
「いいえ。馬車を出してもらうなんて、そのようなお手間を取らせるわけには参りません。僕は辻馬車で帰りますので、どうぞお気遣い無く」
一緒に馬車に乗って話をする?
冗談じゃないっ!
「そうなのですか……?それは残念だ」
「お話はまたの機会にさせて下さい」
だから、どうか早く帰らせて下さい!家に帰ってもう一度教科書を読み直したいので。
と、心の中で訴える。
「お父様、あまりお引き止めしてはアドルフ様にご迷惑です。明日は歴史の試験もありますので」
エディットが助け舟を出してくれた。
ナイス!エディット!
「おぉ!確かにそうだったな」
伯爵はポンと手を打ち、再び僕に向き直り、頭を下げてきた。
「アドルフ君。お引き止めして申し訳ないです」
「いいえ。とんでもありません。それでは僕はこれで失礼致します」
「また是非いらして下さいな。自慢の紅茶を淹れてお待ちしておりますから」
夫人はにこにこ顔で声を掛けてきた。
「はい、そうですね」
また何か妙な話を聞かされるのだろうか……?内心ゾッとしつつ営業スマイルを見せる。
「あの、アドルフ様!」
エディットが前に進み出てきた。
「何?エディット」
「あ、あの……こ、今夜はとても楽しかったです。私…今日のことは一生忘れません」
そして真っ赤な顔で僕を見上げる。
「一生だなんて、大げさだな。それじゃ、エディット。また明日学校でね」
「はい」
大きく頷くエディット。
そして、僕は3人に見送られなが辻馬車に乗って家路を目指した。
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ガラガラガラガラ……
僕を乗せた馬車が夜道を走っている。
「エディット、楽しそうだったな……今夜は誘って良かった」
これで大分僕の心証は上がったに違いない。
こうやって徐々にエディットの好感度を上げていけば、王子がエディットと結ばれたとしても追放を免れることが出来るかもしれない。
でも、今夜は僕も楽しかった。
王子が学園に転校生として現れるにはまだ半月は先のはず。
その時まではエディットとまた今夜のような時間を一緒に過ごし……王子が現れたらエディットの前から身を引こう。
夜道を走る馬車の中から夜空を見上げた。
そして翌日、事態は大きく動き出す――。
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