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第19話 ヒロインを助ける悪役令息

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 店の外へ出るとすぐにエディットの姿を探した。けれども人が多くて中々見つけられない。

エディット…どこにいるんだ…?!

「おい、アドルフ。エディットを見つけたぞ」

するとブラッドリーが先に彼女を見つけて声を掛けて来た。

「え?どこにっ?!」

「ほら、あそこの靴屋の前あたりだ」

ブラッドリーの指さした先にはエディットの前に2人の青年が行く手を阻むように立っていた。
エディットの顔には困惑とも、恐怖ともとれる表情が浮かんでいる。

「あの表情……どう見ても知り合い同士には見えないな」

ブラッドリーは一目瞭然な言葉を口にした。

「当然だよ!早く助けに行かないと!」

「そうだな!」

急いでエディットに駆け寄ろうとして‥‥。

「あ」

あることに気付いて足を止めた。
すると、はずみですぐ後ろを走っていたブラッドリーが僕の背中にぶつかって来た。

「い、いっでーっ!お、おひっ!おまへ‥‥何突然立ち止まるんだよっ!」

ブラッドリーは鼻を押さえながら文句を言ってきた。どうやら彼は顔面から僕の背中にぶつかり、したたかに鼻を打ち付けたようだ。

余程痛かったのだろう。その目には涙が浮かんでいる。

「ご、ごめん……ちょっと大事なことを思い出して…」

ブラッドリーの方を振り向き、慌てて彼に謝罪する。

「何だよ?大事なことって。それより早く助けに行った方がいいんじゃないのか?」

「うん……そうなんだけど……」

僕たちは再びエディットに視線を移した。

相変わらずエディットは青年2人に何か話しかけられ、すっかり怯えきっている。

うん、間違いない。
これは‥‥あの漫画に出て来たシーンと同じだ。

ヒロインのエディットは1人で町に買い物に訪れた時に見知らぬ2人の青年に声を掛けられ、一緒に遊びに行こうと強引な誘いを受ける。
青年達の強引な誘いに恐怖で震えているエディットを助けに現れるのが変装してお忍びで町に来ていたヒーローの王子だった。

彼は青年たちの前に立ち、『僕の婚約者に何か用かい?』と言って彼らを追い払ってエディットを助けるんだっけ。
これが2人の初めての出会いになるのだけど、この時はエディットがヒーローに感謝を述べるだけで大きな進展は無かったんだよな……。


「おい、あのまま放っておいていいのかよ?いくら気に食わないからと言っても仮にもエディットはお前の婚約者なんだろう?涙目になってるぞ?!」

ブラッドリーはやきもきしたように僕に訴えてくる。

「うん……分かってるんだけど‥‥」

でも、本当に僕が助けに入ってもいいのだろうか?僕が介入することで、今後の話の展開に支障をきたしたりしないだろうか?

多分、そろそろが現れるはずなのに…。

その時——。

何と、嫌がるエディットの腕を1人の青年が掴んだ。

「おい!エディットが腕を掴まれたぞ!」

「分かってる!」

もうこれ以上見過ごすなんて出来ない。

ブラッドリーの声と同時に僕はエディットの元へ走った。この際、ストーリーの展開なんてどうでも良かった。
エディットを早く助けなければ!

婚約者とかは関係なしに、困っている女性を助けるのは当然だ。


「エディットッ!」

彼女の名前を大声で呼びながら、駆け寄った。

「あ…アドルフ様っ!」

一瞬エディットの目が驚きで見開かれ……次の瞬間涙目になって僕の名を叫んだ。

「え?な、何だ?」
「誰だ?お前は」

突然現れた僕に驚いた様子を見せる青年たち。

「彼女は僕の大切な婚約者なんだ。その手を離してもらおうか?」

「うっ…わ、分かった…よ…」

声を掛けながらエディットの腕を掴んでいた青年の手首を強く握りしめると、余程痛かったのだろう。
青年は痛みで顔をしかめながらエディットの腕を離した。

その一瞬のスキをつき、エディットを自分の背後に隠すと文句を言いたげな青年たちの前に立ちはだかり…ジロリと睨みつけてやった。

悪役令息のアドルフはとても背が高く、中々目つきの鋭い男だ。
自分たちよりも背が高く、目つきの鋭い男に睨まれるのは中々堪えるものがあるのだろう。

「わ、悪かったよ…まさか連れがいるとは思わなかったからさ…」

「あ、ああ。そ、そうなんだ。い、行こうぜ」

そのまま逃げるように走り去って行く2人。
全く……何て奴等だ。

「エディット、大丈夫だったかい……え?」

背後にいるエディットに声を掛けて振り返ろうとした時……突然エディットが僕の服を掴んで縋り付いてきた。

「こ、こわか‥‥った‥‥」

縋り付くエディットの身体が小刻みに震えている。

「エディット…」

なんて可愛そうなことをしてしまったのだろう。こんなに震えているなら、もっと早くに助けに来れば良かった。

酷い罪悪感にかられてしまう。

「ごめん、エディット。助けに来るのが遅くなって…‥」

静かな声で語りかけると、エディットは顔を上げた。

「アドルフ様‥‥」

エディットは目に涙を溜めて僕を見つめている。

僕はそっとエディットの頭を撫で…もう一度「ごめん」と謝った――。



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